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皇女様は氷結騎士の大ファン  作者: ぽみにょ


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14/20

プロポーズ




 翌日。

 私は数年ぶりと言っていいほど、晴れやかな気分で騎士団へ出勤していた。


「副団長、おはようございます!」

「おはよう」


 執務室へ向かう。

 足取りは軽く、頭の中も驚くほど明瞭だった。

 ここ数日、あんなに思い悩んでいたのは何だったのかというほどに。


「ふ、副団長?」


 途中、部下がなんとも言えない顔でこちらを見ていた。


「なんだ」

「な、なんか今日、機嫌いいですね」


 当たり前だ。

 目の前の課題が全て一挙に片付いたのだから。

 

 リーフィア様は帝国へ戻らずに済む。

 安全も確保でき、和平も盤石になる。

 何度考えても完璧な案だった。


「悩み事が解決したんだ」

「ひっ……」


 渾身の笑みを向けてやれば、怯えたような顔をする部下。

 失礼な奴とは思ったが、私はとても機嫌が良い。

 リーフィア様に免じて許すことにし、足を進める。



「……なに、その顔」


 執務室へと入れば、弟のレンドールが書類を捲りながらこちらを見た。

 ここには失礼な人間しかいない。


「……ここの人間は私が笑うとそれしか言わないのか」

「嫌な予感がする」


 書類を置いたレンドールが私に詰め寄る。


「何、考えている。吐け」


 まるで、容疑者を前にしたときのように冷めた目で見下ろされる。


「別に何もないが」

「最近、何か悩んでたろ。それはもういいのか」


 尋問のような雰囲気になり始めたが、隠す必要もない。


「リーフィア様のことでな。でも、もう解決した」

「……解決方法は?」

「結婚しようと思う」


 ぴしり。

 氷漬けにされた人間のように、身体を固まらせるレンドール。

 数秒、部屋に沈黙が落ちた。


 そして――。


「おい、誰か! イリー様を呼べ!」


 執務室に弟の悲鳴が響いた。

 慌てて口を塞ぐ。


「おい、あいつの名前を呼ぶな!」


 あの魔女は酔狂な狂人なのだ。

 だから、名前を呼ぶと――。


「は~い、呼んだかしら?」


 聞き慣れた声と共に、空間がゆらりと歪む。

 どういう魔法を使っているのか知らないが、大声で本名を呼ぶと姿を現す。


「……帰れ」

「私はレンドールに呼ばれたのよ」


 執務室の椅子に腰掛け、何故か片手には湯気が立ち昇るティーカップが握られている。


「で? 何か面白いこと?」


 にこにこと笑うイリーが、レンドールに顔を向ける。


「姉上が壊れました」

「心外だな」


 ……来てしまったものは仕方がないので、さっさと話を進めてご退室いただく方向へ舵を切る。


「リーフィア様と結婚する」


 私がそう宣言すれば、再び執務室に沈黙が流れた。

 数秒ほど、目をまん丸にして固まっていたイリー。

 だが、徐々に目元を緩ませていく姿に、視線を逸らした。

 

「……っ、あは」


「あっははははは!」


 机を叩いて笑い始めるイリー。


「な、なんであんた! っ……あははは!」


 涙まで浮かべて、腹を抱えている。

 非常に腹立たしい。


「理由はちゃんとある」


 帝国での事情、皇女の立場、今後の危険。

 一通り説明し終える頃には、イリーも多少落ち着いていた。


「理解したか」

「えぇ。シルが思っていた以上におかしい」


 こいつに理解できると思った私が馬鹿だった。

 これ以上は話す気も失せ、イリーとレンドールがごちゃごちゃ言っているのを聞き流す。


「皇女ちゃん呼んじゃう?」

「……は?」


 レンドールと言葉が被る。

 今のどこにその流れがあった。


「イ、イリー様。こんな所で急にプロポーズされる皇女様のお気持ちを考えるとちょっと……」

「それもそうね」


 イリーが紅茶に手を付ける。

 ……こいつ、まだ納得していない。

 目が爛々と光って、悪知恵を働かせている顔をしている。


「……じゃあ、場所と雰囲気を整えたらいいのね!」


 急に立ち上がったイリーがぽんと手を打つ。

 

「お前――!」

「さ、二名様、ご案内~」


 ……止めるために伸ばした手が届くことはなかった。

 

 ぱちりと指を鳴らす音が聞こえたと思えば、視界に陽の光が飛び込んでくる。

 眩しさに少しの間、目を瞑っていると後ろから声が聞こえた。


「え、あ……シル、様?」


 恐る恐る目を開く。


 そこは、見覚えのある場所だった。

 色鮮やかな花々とそれに囲まれたガーデンテラス。


 イリーの実家、公爵家にある庭園だった。


「イリー……っ」


 殺意を込めて周囲を見渡すが、イリーどころか、人の気配すらない。

 あの魔女、面倒なことを……。

 リーフィア様も転移させてきたのだろう。今頃、護衛達が大騒ぎしているであろうことは想像できた。


「シ、シル様……?」


 背後から不安そうな声がする。

 振り返れば、咲き誇る花々の前で固まるリーフィア様がいた。


 白いワンピース姿に夕陽が落ちて、金色の髪が光っている。

 ……綺麗だな。


「……申し訳ありません。イリーの悪ふざけにリーフィア様を巻き込んでしまったようです」


 安心させるように、近付いて笑いかける。

 私がそう言えば、不安げな表情を崩し、笑顔を見せてくれるリーフィア様。


「本当に大魔女様と仲がよろしいですね」

「……そう、見えているのは不服ですが……」


 リーフィア様の言葉を否定する訳にもいかず、なんとか返事を絞り出す。

 

「悪ふざけって?」

「あぁ……」


 近いうちに提案するつもりだった。

 ただそれが少し早まっただけのことだ。

 それに、こんなことに巻き込んでしまった理由を知る権利がある。


「リーフィア様」

「は、はい!」

「私と結婚してください」


 沈黙。

 風と鳥の鳴き声だけが、辺りに響いた。


「…………え?」




 

 

 


 

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