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皇女様は氷結騎士の大ファン  作者: ぽみにょ


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12/20

心当たり




*皇女視点



 ――ここ最近、シル様が変だ。


「リーフィア様、一緒にお茶しましょう」

「リーフィア様、今度美術館に行きませんか?」

「リーフィア様、この焼き菓子が好きだと聞きました。召し上がってください」


 連日、私服で現れるシル様は、私を色々なところに連れて行ってくれたり、一緒の時間を過ごそうとしてくれる。

 つい最近までは、仕事だと断られていたのもあって、喜びよりも困惑が勝っていた。


「ねぇ……最近シル様、変よね」

「……」


 髪を乾かしてくれている侍女に話し掛ければ、気まずそうに目線を逸らされる。

 ……口には出せないけれど、変だと思っていることは伝わった。


「……心当たりなどはないのですか?」

「……」


 心当たり。

 実は一つだけ、思い当たるものがあった。

 でも、それは知られていないはずだし、知られていたとしたら――。


「な、無いわ! 心当たりなんて、一つもこれっぽっちも!」

「あ、姫様、動かないでください!」


 思わず首を左右に振れば、侍女が絡まる髪に悲鳴を上げる。


「ご、ごめんなさい」

「……心当たりがあるということですね」

「……」


 侍女の視線が痛い。

 誤魔化せる空気ではなかった。


「少し前に、帝国からの兄上の使者が来たの」


 ぽつりと呟けば、髪を梳いていた手が止まる。


「それって――」


 ごくりと侍女が唾を呑む。

 

「そ、そこで、つい話が盛り上がっちゃって! け、結婚したい人はいるのかとか聞かれちゃって! 私勢い余って、シル様って答えちゃったの!」

「え――?」


 恥ずかしくて、鏡を見られない。

 きっと、私の頬は真っ赤に染まっているに違いない。


「え、っと、なんの用で使者の方は?」

「あぁ。私、もう帝国に帰らないほうがいいって言われたわ」

「姫様――」


 悲しげな表情を浮かべる侍女に、笑いかける。


「私、全然悲しくないの。自分の国なのに薄情かもしれないけれど」


 帝国では、沢山兄弟がいる内の末の姫。

 母様の家柄のせいで、継承争いの火種になる可能性だけはある――そんな皇女だった。


 だから、あまり良い扱いではなかったと思う。


 別に殴られたり、閉じ込められたり、そういうことはなかった。

 ただ、何かを選ぶ時、私はいつも最後だった。


 ドレスも、護衛も、教育も、お茶会も。

 後回しが当たり前だった。


 でも、それは辛くなかった。慣れていたから。

 むしろ、何も求められなくて、気楽だとさえ思っていた。


「姫様……」

「でも、シル様に出会ってから、王国へ来てからは違ったの」


 思わず笑みが零れる。


「イリー様は、凄く構ってくれるし」

「まぁ、確かに……」


 イリー様は自由奔放で、不思議な人だ。

 色々な場所に連れて行ってくれて、魔法を教えてくれる。

 意味深なことを言って、考え込む私を楽しそうに眺める。

 振り回されてばっかりだ。


 でも……。

 

「私が面白いって」

「……そうですね。楽しそうにされてます」


 侍女が苦笑する。


「シル様は――ちゃんと私を見てくれているの」


 和平の象徴だからでも、帝国の皇女だからでも、可哀想だからでもない。

 リーフィア様って名前で呼んでくれる。


 私自身を見て、怒ったり、笑ったり、心配してくれると感じる。

 それがとても嬉しかった。


「……姫様」


 鏡越しに侍女と目が合う。

 その顔が少しだけ困ったように笑っていた。


「い、言いたいことがあるなら聞くわよ!」

「いえ……」


 言いにくそうに視線を逸らし、小さく息を吐いてから口を開く。


「シル様は、本当に姫様のことを大切に思っていらっしゃいますものね」

「――そうなの!」


 勢い余って立ち上がれば、優しく肩を押され、椅子に戻る。


「……で、最初に戻るんだけれど、最近シル様の様子が変なのは、結婚したいって話を聞かれてしまったのかなって」

「あー、そういうお話でしたね」


 侍女が遠い目をした。


「何その顔! シル様がおかしいって、貴女も言っていたじゃない!」

「私は言ってはいませんよ」

「で、でも、変でしょう!?」

「姫様は満更でもないように見えますが……」


 ぐっと言葉に詰まる。

 変だと思うのと、嬉しいと感じる気持ちは別物なのだ。


 それに、ただ嬉しいだけではないのだ。


「だって、急すぎて……」


 優しくて、近くて。

 少しだけ、必死な気がする。


「なんだか、急にいなくなってしまうみたいで少し怖いの」


 言った瞬間、自分でも驚いた。

 そんなことを考えていたんだって。


 「姫様もシル様のことが大切なんですね」


 ――大切。

 侍女の言葉が、胸の奥へ静かに落ちる。


「……そうね。私、シル様のことがとっても大切だわ」


 私はシル様に憧れていた。

 強くて、格好よくて、ずっと遠くから見ていた人。

 

 でも、今は違う。 

 嬉しいことがあれば、一番に話したい。

 会えない日は凄く寂しくて。

 笑ってくれると自分のことみたいに嬉しい。


 ……きっと、とっくに気づいていた。


「……私、シル様が好きなの」


 口にすれば、胸の奥が少しだけくすぐったい。

 でも、とっても暖かい気持ちになった。




 

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