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皇女様は氷結騎士の大ファン  作者: ぽみにょ


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11/20

防音魔法




 ――リーフィア様がイリーの実家である公爵家での生活にも慣れ始めた頃。


「あ、シル様!」

「……リーフィア様」


 交代のため、公爵家に顔を出せば、庭園の花を眺めていたリーフィア様がぱたぱたと駆け寄ってくる。

 

 襲撃事件後、正式に護衛へ人手を割けるようになってから、警護は持ち回りとなった。

 私も数日に一度、リーフィア様の警備に当たっている。


「私、今日を楽しみにしていたんですよ!」


 ぱっと花が咲いたように笑う姿に、一瞬言葉が詰まる。


「庭園のお花が凄く綺麗なんですよ!」

「……お茶の用意をさせますか」


 そう提案すれば、リーフィア様の顔が更に明るくなる。

 

「良かったら、シル様も一緒に――」

「私は仕事がありますので」


 反射的に言葉が出た。

 きっぱりと断れば、リーフィア様の表情が僅かに固まる。


「そう、ですよね」


 すぐに笑顔を作ったリーフィア様だったが、ほんの少し肩が落ちている。


 ……もっと言い方があるだろう。

 心の中で小さく舌打ちをする。

 

 何故か、最近リーフィア様の前で上手く立ち回れない。

 ローリーとして傍にいた時は自然に話せていたのに。


 近付けば妙に落ち着かず、離れれば気になる。


 ……自分でも、この感覚がよく分からなかった。


「あら、そんな分からず屋は放っておいて私とお茶にしましょう!」

「イリー様!」


 私の後ろから声を掛けてきたイリーが、私の肩をとんと叩く。


「……あまりこの魔女と絡まない方が良いですよ」

「あら? 嫉妬かしら?」


 喚く魔女を無視して、リーフィア様の斜め後ろに移動する。


「こんな時だけ、真面目になっちゃって。大人ってずるいわね~」

「え、えっと……」


 私をちらちらと見て、困ったように笑うリーフィア様。


「他人の困る顔が見たくて、意地の悪いことを言う魔女ほどではない」

「あら、困るってことは――」

「イ、イリー様! お茶! お茶しましょう!」


 私とイリーの醜い言い合いを止めてくれたリーフィア様が、イリーの腕を引っ張る。


 

「このお花って――」


 イリーと楽しそうに話す姿を視界の端で確認しつつ、周囲へ警戒を向ける。


 ……まぁ、問題はない。


 周辺に不審な気配もなく、屋敷の警備も十分。


 平和だった。

 少し前まで、命を狙われていたとは思えないほどに。


「シル」


 不意に、真剣な目をしたイリーに呼ばれる。

 視線だけそちらに向ければ、いつの間にかイリーがこちらへ来ていた。


「なんだ」

「ちょっと耳を貸しなさい」


 ちらりとリーフィア様を見れば、数歩先で花を眺めていた。


 渋々数歩だけ距離を詰めれば、イリーがさっと防音の魔法をかけたことが分かった。


「皇女ちゃん、最近元気になったわね」

「そうだな」


 ここ最近は笑顔も増え、伸び伸びと日常を楽しんでいる。

 彼女は本当に笑顔が似合う人だ。


「だから、そろそろかと思うの」

「何がだ」

「帰国」


 何気なく発せられた言葉に身体が止まる。


「帝国から使者が来ていたわ」

「……聞いていないが」


 警備に当たっていた私の部下からはそんな話は聞かなかった。


「そりゃそうよ。皇女ちゃんが貴女には秘密にしてって言ったんだもの」

「何故だ」


 瞬間的に詰め寄ると、イリーが身体を反らせる。

 ニヤニヤと笑うイリーが、何か企んでいるのは分かったが、冷静ではいられなかった。


「私も用は聞いていないわ。皇女ちゃんが防音魔法を使っていたし」


 帰国。

 その言葉が、頭の中でぐるぐると回る。


 当然だ。

 リーフィア様は、帝国の皇女である。

 いつまでもこの国に留まることはない。


 ――当たり前で、分かっていたはずなのに。


「……シル様?」


 不意に呼ばれて顔を上げる。

 花を抱えたリーフィア様が、不思議そうな顔でこちらを見ていた。

 隣を見れば、先ほどまでいたはずのイリーの姿が消えていた。

 ……逃げ足が速い。


「どうかされましたか?」


 あと何度、リーフィア様に会うことができるのだろうか。

 そう思った瞬間、胸の奥が嫌なほどざわついた。

 

 




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