八十五話 螺鈿
運命の子、汝を示して我となる……時にしても日が経てば終わることと等しく同じ。
永劫の石などなく見栄となれば、脆くなりゆく地に変わる。
ならば派手に弔ってやってこそ君主ならば、我はきっと暴君の類であろう……ならば合理的に娯楽的に、歴史と見栄を弔う我が子なり。
神暦767年九月二十三日 神聖アウグスタ帝国宮殿・玉座の間
死闘と轟音が響き渡る玉座の間、殺気と魔力が相反する熱意と思いが渦となってこの部屋を支配していく。
片方は、遊びとして本気のお遊戯を始める童ならば、もう片方は、弟のように思う弟子の成長に酔いしれる死神。
「フッ……楽しそうだなぁホルテンシア、我が剣が玩具のように遊ばれてらぁ」
植物の蔓が何重にも螺旋を描くように巻き付いた杖を地面に突き刺し、握り締め結界の魔法を展開しているエルフの侍女が冷たい視線を向けて見つめ返す。
「そうですね陛下、あの脳筋小僧が本領を出す前に龍閻ちゃんが本能を剥き出しに暴れ始めましたね」
「それがいいんだよ……英雄に生まれし運命の童、出雲国の聖剣を持つ英雄の権能が見られなければ俺としては、ここに居座る意味も無い」
「……権能ですか、出雲国のどの神にあたるのでしょうか?」
「いや概念かもしれん、神話の断片は今なお理解に及ばん」
「姫様には、恨まれるのではありませんか?」
「恨まれようと関係あるまい、国の繁栄なしに血の覇権はない」
「その繁栄の証しをあぁして壊すのは、如何かと」
「壊れ方にも見え方が必要なのは、理解してるだろ?」
「……」
「繁栄と権威の最初の椅子の部屋こそ壊れるべきだ……頑強な巨像は、岩を砕き新たな時代の幕開けとならんって事だよ」
「まだ見た目は、平気でしたのに隠しきれましたよ?」
「隠してもいつかは、崩れるなら早めのほうがよかろう」
「なら何故、隠れてこの様な」
「確認さ、英雄と呼ばれる俺といずれ英雄と呼ばれる子供の距離と確認を……試練を与えてこそ英雄が開かれるのならば、恨まれても国家の為に怨霊になるのが俺の役目よ」
「はぁ……貴方様は、何一つ変わりませんね坊ちゃん」
「あはは、坊ちゃんは辞めてくれもう十年以上の昔だろう?」
「私からしてみたら坊ちゃんは、坊ちゃんですから……しかし陛下、彼を槍にするかしないかはお任せしますが貴方の持ち物じゃありませんよ彼は」
「だからだよ……だからこそ、父親として君主として……大罪者になろう」
「焦っておられますね」
「焦るさ、獅子が動こうとどうでも良いが揺らがない永劫の橋を築くには未だに駒が足りない」
「――がお目覚めなのですか?」
「林檎は、熟成に至り次なる血を選んで彷徨い……未来を見るのは月の狩人か騎士か」
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死戦でなければ、戦いにも在らず……たかだか
遊びに過ぎない子守り。
子供がどれほど成長しようと、勝とうと思えば勝ちは揺るがない。
この戦いにルールが無いのだから揺るぎようも無い、ただの余興に過ぎないお遊戯。
神々に誇れる戦でも無い、主人に誇れる戦いでも無い……じゃあ何故戦うと聞かれたらァ?
そんなの単純明快――未来へ次に繋げる防壁となろう……切り開く鍵であろうためだ。
故に我は、故に英雄はチンケな意志を抱いて、小さな願望を秘め一太刀を乗せる……さぁ止められるか新たな蛮族よ。
穿てるか、真の一撃を以て英雄たる才覚を、力を、権能を吐き出させる為の壁に……師として壁として、敵として俺を表せ英雄よ。
「さぁ、戦を始めようか……クソガキ」
「こいよスキピオ、もっともっと……すごいの見せてぇ」
待ち切れない、年齢相応の子供に戻った龍閻を見ていると……少しばかり背中に悪寒が走るのは、気のせい?
……いや、わかってるんだろうなぁ本能は、コイツの匂いが変わっていることに。
ランテ流で表せば、獣か。
「くっ……あはははッ、はぁ。あぁ肉を喰らう阿呆でなく技を食う獣とか嫌だわぁ〜。もう少しただのガキならば容易いのに」
「……なんか笑える要素あったか?」
「あぁあるよ大いに俺的にはある……が、まぁ良い少し授業をしてやる」
「授業……なにを今更」
「今更でもあるかよ、俺はともかくお前は見定められる獣だとしても弟子に教えるのが師ってもんだと偉いジジイも言ってたもんよ」
「いや、関係ないだろそれ」
龍閻は、呆れた様に刀の構えを一旦解いた……警戒を解かない様にしているが、先程までの熱意は若干薄れている。
まぁ良いその方が都合がいい……戦闘の意識を軽く逸らせられるならばその方が楽だからな。
「さて、お前に教えるのはまず俺の武器を一番気にしてるだろ?」
「……」
「おっと、ビンゴとキタかぁいいねぇわかりやすくて」
2メートルほどの大刀をくるっと回し、風を切り裂きながらも片手で容易く操る。
「これは、俺の相棒であり槍のように長く湾曲していてまぁ多少特殊な剣と言える」
「剣?」
「あぁ剣さ、まぁこの形状を見たものは……いやコレは、後から気づくだろうよ。さて、この武器の名を教えてなかったなぁ。名前は全てを両断する者……まぁ槍と大剣の間さ」
「それが……何?」
「まぁ理解できなくていいよねぇ〜、それは新名ならば相棒を紡ぐのが奏者の役目。お前まだ相棒を使いこなせているかい?」
龍閻が一瞬、話が理解できない表情を浮かべる。
この子の事だ、裏を読みながらもその質問の問いを崩し組み換え、理解しようと脳を回してる。
それを待ってた……お前が思考を切り替えて、技で無く己の思考に囚われる隙を…………ね?
「さぁ、ご笑覧アレ……今宵の一番の道化の騎士が織りなす昔話と指導のお時間だ。代価は要りません、なんせ命なんで」
ロンパイアンの構えを取り、回転と捻りを加えて空気を切り裂く神速の斬撃が来る雰囲気と共に魔力の畝りが大刀の刀身に溢れ、焚き付け燃え上がる。
「フッ……」
選択するなら回避か防御、または詰めるの三択に変わるよなぁ、でも良いのか?
龍閻が狙ったのは、詰めて攻撃の隙のカウンター……石床を蹴り魔力を刀身に纏わせ、受けるにしても攻撃にしても良い態勢を構築しているが、甘い完熟メロンよりも甘い……なんせ最初からの本命は。
ロンパイアンを振るように重心をずらし、剣速が唸ると思わせるまで、思いたくなるまで動き、殺気、魔力さえも充満させる。
獲物の目線が大刀を捉える隙を狙い続ける……ただ一点の本命を狙って、言葉の誘導は伏線なればこそ裏切るのも道化。
ほら伏線は張られていたよ龍閻。
「グッ!」
龍閻は、理解できない表情と共に青ざめる……そして苦悶の声を漏らす前に小さな鈍く鋭く内臓まで届くような槍の如く、一撃。
腹部を押さえ、己が武器を手放す龍閻は静かに天を見上げる……その目に映るは、道化師か戦闘家として見ているか知らんが、哀れにも弱く見えた。
「おっとすまん。蹴りの気分だった」
「見え……な……かった……何しやがった?」
「言っただろう……蹴りだと、ただの重さ重視の蹴りをただ鳩尾に入れただけだ」
「でもみえ」
「言い訳するなよ蛤野郎。お前はこの時点で一度死んでる舐めた事を抜かすなまだ試練を越えられてないさ。まだ遊戯の時間だ見せてくれよ……じゃなきゃ、姫様死ぬよ?」
「あ゙ぁ゙?」
たった一言の火種で十分、覚醒でもない獣に理性を与えるわけでもなし。
ただの小さな呪い、騎士の本能であり英雄らしく輝く宝石に潜む劇薬。
「ジャンヌ……が死ぬねぇ、まだ俺は死んでないよスキピオ」
劇薬に飲まれ、我こそ獣と言わんばかりに殺気が練り上げ積み上がり、放たれる。
それは、純粋な殺意に等しく物語の舞台にふさわしく整った。
故に第一の閉幕と共に第二の戦の音が響く……見たかったものへ近づく事に耐えられるものはいるか?
「「クッ……あははは」」
二人の傍観者は、声を被らせ笑い出す。
片方は国というチェスを行い、もう片方は、君主の為に騎士の在り方の駒の位を上げるために道化を演じる英雄……もう一度この言葉を当てよう、舞台は整った。
「「あぁ見せてくれよ……新たな英雄となる罪人よ」」
「罪を抱いて、一人の主君に命を燃やす騎士であれ」
「国家の為に、血を吐きながらも誇りとなる槍であれ」
さぁ、壁を開け貝殻を……貴殿を囲むチンケな壁はどれほどある。
「「価値を示せ、幕に潜み隠れる真珠層を露わにしろ」」
さぁ秋の季節は、恵みの季節。
しかし今、霧雨が荒れる今日の空は、やけに死の香りが降る冬の色。
八十五話を読んでいただきありがとうございます。
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今後の神代の贈り物を楽しんでください。
あと失踪してて申し訳ございませんでしたー!




