第128話 山麓の森林、再び
「…………マジで……?」
私は呆気にとられてしまった。え?嘘でしょ?今から入るの?しかも裏の元凶って……まさかあのレベルがゴロゴロいる場所にダイレクトアタックしに行くの?
「……根拠は……?」
「さっき魔法でエネルギーを吸い取って回復したとき、誰かの声が聞こえただろう?あれはゴブリンロードの声じゃなかった。だからあの魔法を仕掛けた誰かがいるってことになると思うんだ。術式の緻密さからして、かなり強いだろうね」
確かに、あれはゴブリンロードの声とは似ても似つかない。月とスッポンというか、雲泥の差というか、もっときれいな感じだった。細工をしたとも言っていたし、その声の主が魔法を仕掛けたのだと推測出来る。
だけど……それならもっと手を出してはいけない。ゴブリン単体であのパワーだ。それを支配する誰かなんて、想像を絶するような魔法使いに違いない。
「そこまでわかっていて……何で行こうとするの!?これ以上は本当に危険……情報だけでもお金は十分もらえる!もっと腕の立つ人が解決してくれるはずだよ!」
流石にこればっかりは許容できない。こんなの、自ら火山の火口に飛び込んでいくようなものだ。ゴツゴツした、山頂に続く険しい道だけで十分危険だと分かっているのにだ。
「解決してくると言ってしまったからね。それに、元凶の強さがわからないと、情報を持ち帰っても対策のしようがないだろ?せめて固有魔法だけでも把握して戻ったほうがいい」
「それは……まあそうだけど……」
ゴブリンロードによる被害を無くすだけなら、私の案で問題ない。だけど、その根本的な原因はまだ詳細不明、私の拙い見立てではゴブリンロードよりも数段上の実力者、不十分なのには違いない。
「…………まあ、本心はどうせ人が悲しむのが見過ごせなくなったとか、そういう理由でしょ?」
「良くわかってるじゃないか」
こういうヒーロー気質の人間は、こうなってしまうとテコでも動かない。多分もう止めても聞かない。
「なら、さっさと行こうよ。防御は大切なんだよね?」
「やけにあっさりとしてるな」
「勘違いしないでよ。セインスが無茶言うから、制止するために私が付いていくの。どうしょうもなくなったら私が身代わりになるためにもね」
なら、もう自由にやらせて、危なくなったら逃げれるようにしなければならない。守れたはずなのに守れなかった後悔だけはしたくない。
「そうならないようにしないとな」
約40分後、セインスとカノンが、再び森林に入る。
◇◇◇
私は、セインスが強いからセインスを守る。
理由は簡単、将棋で例えれば、私が歩で、セインスが飛車だ。
強い駒を失いたくないのは当然の心理、いざ飛車が相手の飛車にでも狙われたとき、加えてどこにも逃げ道がない状態に追い込まれたとき、弱い駒を盾に使用するのはまともな戦術の一つだ。
多分、セインスは逆のことを考えてる。弱い者いじめは良くない的な精神から、私をなんとしても守ろうとしてくるだろう。
(そりが合わないわけじゃない……だけどどうもやりづらい。万が一が起こったら嫌だからついてきたわけだけど……)
もう空は夕焼け終わりの薄暗い色を映し出し、魔物も活発に活動しだす時間帯だ。魔法学の授業で習ったのだが、魔物とは大半が夜行性らしく、昼間も活動しない訳では無いが、あまり好戦的ではない場合が多いらしい。
最初に村に到着したのが昼過ぎ、大体3:00くらいの話で、森の中を歩いたのが1時間半くらいだったと思う。ゴブリンロードと戦って、逃げて、到着したのが5:30くらい……
(時計とか有ったらなぁ……)
「あ、うっかりしていたな……」
「えっ!?一体どうしたの!?」
セインスが唐突にそんなこと口走るものだから、私は心臓の音が大きくなるような感覚を覚えながらそう聞いた。
「『伏魔の森』はね、他の場所に比べて、濃密な魔気が充満しているのさ」
「うん……魔気ってなに?」
「中性ではないが、僅かにエネルギーを持った魔力の総称さ。マナとも言うね。魔法をぶつけても反応はしない。だけど一つ問題がある」
良くわからないけど、それが何か悪いことを引き起こすわけらしい。
「魔気はにも種類がある。この周辺にあるのは『月の魔気』……月の光を浴びると、淡く光って可視化できるようになるんだ。さっきこの森には魔気が充満しているといったね。つまりこういうことさ」
完全に太陽の光が消え去り、文字通り夜の闇を月のみが、照らす。その指の先には、白味の強い薄紫色の霧が、広がっていた。
「視界最悪ってことかぁ……ミスったよね。これ」
「ああ、それに活性化した魔気を取り込んだ魔物は強くなる。それは僕たち人間も同じだけど、注意していこう」
光の霧が、『伏魔の森』を包む。




