第126話 リフレクションシールド
魔法は使う機会が無かったから、あまり技とかは考えたことはなかった。
学校のクラスには、漫画やアニメに感化されたのかかっこいい技名なるものを考えている人がいた。
厨二病なんて言葉もずいぶん過去のものになった。だってみんな当たり前のように出来るのだから。灼熱の業火に灼かれろ、なんて決め台詞をいって短く詠唱すれば炎が出てくる。
出来ないことを真面目にやろうとするから恥ずかしいのだ。出来るなら誰も文句は言わない。
実は、そんな私も1つ考えていたものがある。まあ、いざ戦うってなったらかっこよく決め台詞なんて言えるかわからないけど。
――――――…………
「……セインス。動かないで」
「わかった!」
周囲を囲むのは5体のゴブリン、遠距離が2体に近距離3体、ぐるっと半球状に囲めば良さそうだ。
「『リフレクションシールド・オールスフィア』」
安直な名前だなぁ、とは昔から思っていたが、口に出してみるとやっぱりめっちゃ恥ずかしい気持ちになる。人と話せるようにはなったけど、根暗なのは変わらないんだから無茶すべきではなかった。
「すごいな!これならゴブリンの攻撃も怖くない!」
「なら早く倒して!私に攻撃手段は無いんだから!」
この防壁は一方通行だ。外部からの相手の攻撃は全てブロックするが、内側からは問題なく敵に攻撃できる。遠隔攻撃さえ出来れば安全地帯からやりたい放題、敵からしたら理不尽極まりない。
「ギャアアアア!?ハネカエッタ!?」
「タダノバリアジャナイ!」
近接組はこの防壁の効果も知らずに攻撃しまくって、倍近くに増大した反動をモロに受けて怯んでいる。貴族のボンボンではあったけど、ずっとサテナで戦ってきたセインスにとっては、こいつらを殲滅するのは難しい話ではない。
「『聖閃光』」
振り払う剣から放たれる光の斬撃は、正確にゴブリンの身体を捉えて斬り伏せていく。光の速さ(誇張なし)の攻撃が避けられるわけがない。目で捉えた瞬間には直撃しているのだから。
「グギャ……」
「ふう、これで先に進めそうだ。もう解いていいよ」
「わかった」
もう全部終わっているかもしれないが、自分の目で確かめなければなんとも言えないのが事実だ。どうにも、精一杯何かを為したうえでの後悔と、何もしない後悔は、後者の方が大きいらしい。
全力疾走とまでは行かなくとも、筋肉も脂肪もまるでついていない細身の身体を動かして森の中を走る。
近づけば近づくだけ、魔法がぶつかり合う気配がする。たかだか数回でも、命の危機にさらされていると、人の勘とはかなり鋭くなるものである。
そして、その先にあったのは……
―――――
「着いた!ここに……あれ?」
「倒……されてる?」
私はチラチラとあたりを見渡し、巨大な身体を持った、ゴブリンロードと思わしきものを隅々まで見た。そこにはどこかで見た男どももいた。
所々から流血していて、生きているのかすら分からなかった。まあ、多分死んでる。まさか生死を確認していないほどコイツラも間抜けじゃないと思う。
「遅かったな?噂に聞くほど強くなかったからな。もう倒してしまったよ」
心底気持ち悪い笑顔で、リーダーらしき男は言った。明らかにこっちを嘲笑っている目だ。私は昔の感覚を思い出して不快な気持ちに包まれていた。
「さて、それじゃあ戦利品をいただくとしようか」
彼はゴブリンロードの身体に手を掛けて、金になりそうなものは無いか探り始めた。
その時だった。
『『エナジードレイン』』
「「「「「!?」」」」」
どこからともなく声が聞こえ、ゴブリンロードの身体が何かの力を帯びる。
同時に、リーダーの男は膝が崩れ落ち、バランスを崩して地面に倒れ伏す。
「あ、兄貴!?一体どうしたんですか!?」
「か……身体が動かない……力をごっそり抜き取られたような……」
『人がそれの身体に触れた瞬間、術式が発動するように細工しましたの。流石に限界が近かったようですが、貴方がただけでも殺して差し上げます』
ゴブリンロードはムクリと起き上がる。とうに止まっていた魔力のめぐりは再び活性化し、傷が塞がり、ほとんど万全の状態まで戻っていく。
初見殺しすぎる。まさか身体に触れたらアウトなんて想像できる訳が無い!
「……良くもやってくれたな。ニンゲン共よ。身体の疲れが消えた今なら、お前たちなど楽勝だ」
「う、嘘だろ……倒したっていうのに……」
全身の筋肉ははち切れそうなほど膨張し、遠目に見れば仁王の如きその顔を見て、大惨事の気配を感じ取るのは難しくなかった。
「『アビリティ・パワーアップ』……そして、『錬合』『衝壁波動』」
「なんかヤバそうな気配がプンプンするんですけど!?」
「カノン!済まないが防ぐか避けるかしてこの場だけでも凌いでくれ!後隙に確実に攻撃をいれる!」
「えっ……ちょ待って!?」
私がセインスに向かって手を伸ばしたとき、ゴブリンロードは手に握りしめた棍棒を振り下ろしている。最中だった。時すでに遅しとはこのことだろう。避けられない。
「来るなっ!!」
私は体制を崩しながらゴブリンロードの攻撃を防ぎ切る!力が周囲に乱反射した影響で、ソニックブームじみた衝撃波が拡散した。
「ほう……『衝壁波動』を加えた我が力を耐えきるとは。よほど高等な防御術式と見える」
「ぐう……どれだけのものか知らないけど……怯んでないの……?少なくとも数割は反動増えてるはずなんだけど!」
指向性が無いとはいえ、多少は反射しているはずの力をものともせず、奴は私の防壁に棍棒を押し付け、余裕そうな表情で佇んでいた。
「力の反射か。答えるとするなら、この攻撃はまだまだ全力ではないからな。反動ならばまだまだ耐えられる100年を生きたこの私を侮るなよ」
(100年で未だに全盛期ですかい!さっさとヨボヨボな爺さんになってしまえばいいものを!)
心のなかで悪態をつきながら、私はシールドが壊れないように、必死になって押さえつける。
「そのまま抑えていてくれ。カノン!」
ゴブリンロードの背後から一筋の閃光が迸る。




