第118話 冬木圭介
大阪。
昔、東京に次ぐ大都市であったこの地に、俺は生を受けた。
平都に来てからかなり経つが、まだ方言が抜けきらない。人生の半分以上をこの地で過ごしたのだから、当然と言えば当然だった。
当然、境界事変に被災したのもこの地であった。両親は行方不明となり、俺は瓦礫の山で立ち尽くしていたことを覚えていた。
曲がりなりにも、俺の人生に大きな影響を与えたのは言うまでもない。
蓄積されたダメージは、俺がその時に何度も傷ついたことを証明していた。全て集めれば致命傷となるほどに。
多分、半分くらい自傷だ。ショックで何度も自分の身体を掻きむしった。夢だと思って頬を抓るあれlv.100みたいなことを、ずっと当たり前のようにやっていた。
「なあ、冬木。お前東に行くんやて?」
「東というか……北やな。平都に行く」
俺は、晴れて平都の大学に現役で受かり、この年すぐに平都に移住することになっていた。
高校の友人も、俺と同じように上京するやつも、地元の大学に行くやつも、浪人するやつも少なからずおって、まあ簡単な話みんなまちまちだった。
「いいなぁ、大阪や京都はまだ復興途中やし、平都はもう真新しい建物建っとんのやろ。東京終わったんなら、大阪にでも首都移してくれれば良かったのにな」
目の前でグチグチ言っているのは、高校からの友人だった。自分も京大に行くのによく言うな、とは思っていた。
「一度壊れた街の瓦礫を退かして、そこに建物を建てられるようになるまで何年かかると思うとんの?まだ旧仙台の方が楽でええんやろ。新しい土地もあるしな」
「そうかね〜……まあ、たまには顔を見せてくれよ?お前しか友人おらんのやからさ」
俺たちは普通の大学生として過ごすつもりだった。だけど、俺が上京してから程なくして、身体に異変が起き始めた。
固有魔法を自覚したのはこのときだ。それは、バネに負荷を加え続けて、溜め込んだエネルギーを放出するようなものであったが、溜め込んだら溜めた分だけパワーを内に無理矢理抑えることになり、結果として、身体に支障をきたし始めたのだ。
これを解消する方法は、その手の教授とかに聞いて、なんとなくわかった。今思えば、自警団に入るきっかけになったのは、そんな単純なことだった。
「あー!来た!」
「君が今回参加してくれるといった……圭介くんか。歓迎するよ」
指定された場所に行くと、夏鈴と修司の2人がいた。ずっと2人だけでやっていたらしいから、俺が来たことはかなり喜んでくれていた。
最初は、俺はなかなか慣れなくて会話の回数も少なかったけど、時間が経てばだんだん2人とも打ち解けていった。
魔法を使うようになってから、身体の異変は感じなくなってきた。当初の目的は、既に達成されていた。
◇◇◇
『今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、あかり号、新大阪行きです。途中の停車駅は、鳥原、清州平坂、松本、名古屋、京都です』
新幹線のモーター音がうっすらと聞こえる。だけど揺れは感じない、技術力の高さというのは、こういうところに顕著に現れるのだろう。
大阪、俺の故郷、そこは中央新幹線に乗って数時間で到着する、近いようでまあまあ遠い場所だ。この新幹線は名古屋から東海道新幹線と並走する。新幹線の並走区間は、かなり珍しいらしい。
(あいつ、元気にしてはるかな。2年もすっぽかしてしまうとは思わんかったわ。反省反省)
大阪に帰って、たまには顔を見せるって言う約束をしていたのをすっかり忘れていた。連絡はたまに取り合っていたから、そこからたまたま引っ張り出されてきたのだと思う。
このあと、俺は友人にあった。みんな2年前から様変わりしていて、大事は無さそうで安心した。
まだ爪痕が残る街を歩いた。俺の両親は、未だにどこにいるかわからない。骨の1つも見つからなかったのだ。
俺のただ1つの心残りだった。
死霊術師の事件が表沙汰になる、数日前の出来事であった。




