第117話 ゴリ押せ!
「『フレアエスパーダ』」
下に落ちていく中で、私の手のひらの中に現れた火の玉は、熱量を溜め込んでついに青白い炎と化し、細長い剣の形になった。
ここからは近接で追い込んでいく。最小限の火力で一気にゴリ押す!
炎で形づくられた双剣は、激しい光を発する。かすり傷でもただでは済まない。
「的が大きいから写真撮り放題だわ!そこら中に転写したから流れ弾でも何でも当てていって!」
もう一度言おう。彼女の現像は必ずしも紙である必要はない。望めばコンクリートにでも、他者の肉体にでも焼き付けることができる。
現像された写真に魔力が籠められていれば、誰が破壊しても被写体と連動させることができる。やりようによっては自爆を狙うこともできる。
既にビルの壁、ガラス、電柱、道路のアスファルト、そして夏鈴自身、ありとあらゆる場所に写真は焼き付けられている。奴にとっては、迂闊に動けば自分自身を攻撃することになる。
時雨は、大きく踏み込んで、『狂った屍』の懐に入る。『被写体干渉』の効果により、ダメージを受けた身体はかなり鈍い。車のトップスピード並みの速度には付いてこれない!!
「私が範囲攻撃だけだと思ったか?この双剣で斬り伏せてやる!」
「ふざけルナ……おマエはこワした!ニクイにくいにくイ……タイセツナものだッたのにいぃぃぃぃぃ゛ぃ゛ぃ゛!!」
攻撃は一層激しくなり、接敵したと思ったら引き離されるの繰り返し……正面突破は無理か……
(それより……冬木はどこ行ったの!?さっきまでは生きている形跡があったのに!)
さっきまであった気配が消えている。少なくても半径50m圏内に彼はいない。
……いや、戻って来る!それよりもずっと先、他の二人の気配を携えて!
「済まない!気がつかなかった!」
「いたぁ!元凶!」
「わりいな、3人じゃ勝たれへんと思って、ちょっと呼んできたわ!」
巨大で、真っ黒な骸骨がその手を握りしめ、肉塊の中枢部を躊躇なく叩く。
怯んだところに、威力は弱いが中々の連写性能を持つレーザーや、衝撃波が襲いかかる。
「ギゃぁぁぁああああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
「亜紀さん……鷺沼さんまで……」
「高宮が力尽きたから様子を見ていようと思ったが、冬木が鬼の形相でこちらに助けを求めてきたからな。行かないわけにはいかなかった」
鷺沼はそう言った。
さっきの攻撃であいつも満身創痍だ。もう決着をつけてしまおう!4人は大きく踏み出した。
だが……
「ごユウまぼウ゛ッ!がいボウ゛ゥゥゥ!!」
「っ!?何を!?」
その瞬間、4人は未知の力で大きく弾き飛ばされる。全員防壁は貼っていたはずだ……なのに何で……
「っ!みんな!」
夏鈴の声が響く。
いくつかの雑居ビルを貫き、かなりの距離を飛ばされた時雨だったが、すぐに体制を直して立ち上がる。
時雨が遠目に見ると、屍の周囲には、白い何かが漂っており、それは何度も形状を変化させる。
(ゾンビに刻まれた固有魔法を使っているのか!次から次にと厄介な)
さっきの吹き飛ばしもそれだろう。もはやまともに接近出来そうにない。死霊術だけなら対処のしようがあったが、複数の固有魔法など、考えるだけで寒気がしてくる。
だが理性はない。ただその場の対応や、がむしゃらに使うだけならまだ……いや、マシではない。同時使用が可能なんてふざけている。
「全て崩して……勝ってやる!!」
全身に魔力を流し、噴射や強化を利用し、建物の壁や足場の悪い瓦礫の山を素早く渡って、トップスピードのまま屍に突っ込んでいく。
他の4人も動き始めた。夏鈴は再び何枚も写真を撮っては転写し、鷺沼は骸骨を駆り立て、肉の壁を切り開き続ける。
冬木はがむしゃらな猛攻で攻めの手を自分に集中させ、亜紀が3人に飛来する攻撃をブロックする。
だが、それらはほとんど意味をなしていなかった。さっきのやつとは違い、こいつは傷を再生させている!もっと言うなら身体がどんどん肥大化し、人の影すら分からなくなった。
周囲の白い物質も厄介だ。何度も変形を繰り返すその変幻自在な動きは、とてもじゃないが時雨では捉えきれない。
極めつけは、
「っ!硬い!液体では無かったのか!?」
鷺沼の骸骨は、そのラッシュを、白い物質によって途中で阻まれる。
(いや、これは……液体のような流動性を持つが、強い衝撃を加えると個体の性質を示す……非ニュートン流体、ダイラタンシーか!)
ダイラタンシー流体。優しく触れば液体のような感触だが、強い衝撃を加えると個体となる、割と有名な液体……だが、これの強度は片栗粉を水に溶かし続けたものとは訳が違うらしい。
しかも、相手の方は液体状と固体状を任意で切り替えられる。個体状態で攻撃可能だし、その粘性を利用した拘束だって不可能じゃない。
押し出し、ダイラタンシー、そして細胞増殖……複合して攻め立てられると、手の打ちようがない。
「ぐっ!?」
再び身体が大きく外側に引っ張られるような感覚がする。また押し出しだ。だけど2度は喰らわない、防壁は意味無し、表面だけ覆う装甲も駄目だろう。
ならば、体内で魔力を循環させて、魔法効果を相殺する。
「ビンゴ!」
結果、引っ張られる身体に急ブレーキをかけて止まることができた。慣性があったから挙動がかなり気持ち悪いが、何度も押し出されて、その度ここに戻ってくる労力を考えたら安いものだ。
「ナゼぇぇぇ!?フキとばないいィィぃぃ!!!??」
「そのくらい考えろよ!その脳みそでさぁ!」
時雨は再度炎の剣を作り出し、襲いかかるゾンビを連続で斬り伏せていく!
切り口から小爆発を起こして、身体の再生を阻害し、爆炎から飛び散る火の粉を、そのまま爆発の火種として利用する。
この延々と続く無限ループ、これ以上はやつでも対処しきれない。
「フセゲェェェェェェェ゛ェ゛ェ゛ェ゛」
「っ……!クソっ」
このタイミングでダイラタンシーか!しかも流動性をもたせた状態で固定しているお陰で、爆発の威力をうまい具合に分散させている!
勢いに乗っていたのを既のところで防がれた。時雨が体制を崩し、このままこれに飲み込まれようとするその矢先、
「舐めるなよ、死霊術師」
後ろから声が聞こえた。
「俺の『ダメージチャージ』は、自分自身の受けたダメージを、時間経過で増幅させて打ち出すものや。ためたダメージ量や、経過時間によっては、爆撃なんかとは比にならん威力を出せる」
「ま……サ……か……」
傷つけられれば傷つけられるほど、パワーが増してゆく固有魔法、普通に考えればダメージありきのハズレ魔法と言ってもいい。
だが……
「境界事変のダメージが残ってるんや。使わせてもらうで!名前も知らん魔物さんよぉ!!」
そんなの、十年前にいくらでも溜まっている。
白い壁は圧倒的な風圧の前に、なすすべなく弾け飛び、死霊術師は、一切の防御を失った。
その隙を、時雨は見逃さなかった。グロテスクな地面を踏み込み、手に火球を宿して、
彼女は、とどめを刺す。
「これで……終わりだァァァァァァァァ!!」
「……ァ――――――
激しい爆発音が、中央区内に響いた。
丁度正治と星姫が、地下鉄に乗っていたときの出来事であった。




