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悠久のクロスファンタジア 〜DUAL WORLD〜  作者: はとかぜ
第4章 死霊術師(ネクロマンサー)編
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第116話 ただ、前を

誰かが幸福を望むのなら、誰かは幸福を諦めなくてはならない。


法によって幸福と不幸を分配しようとしても、結局誰かがしわ寄せを喰らう。誰かにとっての幸福は、その他の誰かの不幸であるかもしれないから。


そしてそれが、必ずしも悪であるとは限らない。




「……」


時雨は黙っていた。何も言えなかったからだ。時雨が止まっている間も、戦況は大きく動いていく。


冬木は、何度も脚に力を籠めて、ゾンビを振り払っていた。


夏鈴は、写真を撮っては破き、を繰り返し、効果を受けたゾンビはバラバラになって動かなくなる。


時雨の作戦が失敗したと、この二人はすぐに気がついた。そんなの気にもとめず、奴は時雨の元に向かって歩く。


「さあ……俺が……俺が殺してやる」


まだ、魔力量は十分にあった。殺そうと思えばいつでもできる。なのになぜか身体が動かない。


……いや、理由は分かっていた。この眼だ。深い憎しみと愉悦をたたえたこの瞳は……


◇◇◇




……克服したと思っていた。


だけど、幼少期の頃に植え付けられた意識は、そう簡単には変われない。


何年前だったか、もう思い出せない。


その間に、その恐怖は私の心に着実に根を張って、再び解放される日を待っていた。




こいつは……違う。だけど、その中に宿る、歪みきった憎しみは全く同じだった。




近づいてくる。吹き飛ばしてしまえば済むものだ。


それをしたらどうなる?怒り狂ってこちらに殴り込んでくるだろう。


あの時と同じように。




◇◇◇


一歩一歩、背後に多数のゾンビを従えながら、彼は時雨に近づく。


冬木や夏鈴の攻撃は当たり前のようにブロックされ、その残り滓すら届かない。




「それが見たかったんだよ。その絶望に歪んだ顔がさあ!!」


「……まてぇ!!」


ゾンビの濁流に飲み込まれていた夏鈴が、彼らを無理やりかき分けて現れ、その後ろ姿を撮影する。


彼女は表にあまり出さないが、かなりパワーが強い。腕っぷしだけで一学年上の男子をボコせるくらいの力である。もちろん魔力無しで。


腐った筋肉でのホールドなんて意味はない。幼子に摘まれたようなものだ。




「うるさぁい!!さっさと潰れろ!!」


「大人しく潰れるわけ無いだろっ!」


ゾンビのパワーが一気に上がる。オート制御からマニュアルに切り替えたことで、出せる出力が跳ね上がったのだ。


まあ、それをしたからどうなるという話だが。


「『エレメンタル・フレイムボルト』!!」


後ろ姿の写真をぐしゃりと握り潰して、夏鈴はそう唱えた。


その瞬間、握りしめた右手から光が溢れ、瞬く間に巨大な火の玉になり、轟音を立てて炸裂した。




「あがっ!?何で!何で俺が燃える!?あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」


「よっしゃ命中!爆発の勢いもあったから、皮膚も裂けたんじゃない?」


例え爆発の威力を受け流しても意味がない。こいつは今、調子に乗ってゾンビ以外のガードを無くしていた。お陰で威力軽減も出来ずに夏鈴の魔法効果をもろに食らうことになった。


「……え……っ?」


「ほら、呆けてないで立ち上がって!今はあなたしか攻撃要員がいないんだから。終わったら悩みでも願いでも何でも聞いてあげるから〜!」


夏鈴は素早い動きで、時雨の後ろに陣取って、年上のくせに、泣きつくような形でそう言った。


というか、冬木はどこだ?まさか潰されたのか?


……いや、大丈夫。まだ生きている。




「何でも……何でも聞いてくれるんだね?」


「え……まあ、一体何をさせるつもりなの!?」


「……私にレズの気があると思う?


……終わったら……悩みを聞いて」


そう聞いたとき、泣きついていた夏鈴は、時雨の肩から手を離して、既に復活しかけている死霊術師に目を向けた。


「……わかった……私は……何をすれば良い?」


「周りのゾンビを、できる限り倒して。本命は私が叩く」




「ふざけるなああァァァ……人形のクセになまいキなぁ……」


復活した死霊術師は、もはや人の体を成していない。周囲のゾンビと完全に融合し、その姿は完全な異形、『狂った屍』を、自分を核に発動したのだ。


「がぁぁぁああああア゛ア゛ア゛ア゛」




ビルの屋上で、絶叫が響き、建物が丸ごと崩れ落ちる。


「うわっ!?まだこんな余力を!」


「落ち着いて!着地態勢をとって!今ここで全て終わらせる!」


私は両の手のひらに火の玉を作り出す。




暗い地下室に1人なんてことはない。


周りには助けてくれる人もいて、もう怯える必要もない。




自分のことは、後で考えれば良い。


今は、ただ、前を向け……絶対に止まるな!




「『フレアエスパーダ』」

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