第110話 殲滅作戦 -Ⅲ-
ゾンビは全身に電気を纏っている。あれ自体がアーマーの役割を果たしているような感じがするので、まずはあれから剥がしていけばいい。
「夏鈴……ここはこいつに任せときゃええ。さっきの見たやろ。多分あいつは瞬殺や。少なくとも俺たちの入る隙が無いくらいには確実にな」
「むう……なら残りを片付けるとしますか」
2人は私に任せて離れる判断をしたらしい。どのみちそう伝えるつもりだったし、手間が省けて助かった。
「かかってこい。一分もかけずに消してやる」
私は手招きをするように右手を突き出し、そう挑発してみる。意味がないのは分かっている。
だけど、乗ってくるだろう?お前はコケにされたって思っているだろうからね。
溜め込まれた電気は最高潮に達し、周囲の電子機器に洒落にならない損壊を与える。
それだけじゃない、電撃は細い線を空に描いて私にも影響を与える。
(スマホはもう使えないね。使わなくても問題ないし放置で良いけど)
放散していた電気は、そいつの前で一点に収束し、小さい稲妻となって私の方向に飛来する。
それに対して、私は魔力装甲を使って自分が喰らう電撃を緩和させ、網の目状に広がる電撃をくぐり抜けた。
電流は言うまでもなく高電圧であり、もろに喰らえばすぐに動けなくなる。地震なんかで寸断された電線から流れる電流とは桁が違う。
「っとぉ……!」
大きく足を踏み込み、ゾンビの電撃と、自分の身体に当たるタイミングをずらしながら、まさしく針穴に糸を通すような動きで、距離を一気に詰める。
「シネェーーー!」
「殺してみてよ!」
私はゾンビの首根っこを掴み、そこに魔力を集中させる。
ズドン、と、轟音が鳴り響き、周囲の車やその他諸々を巻き込んで大爆発を起こす。
普通のゾンビなら、ここで倒せていた。
(……!まだ、動くみたいだね)
「アガッ……アババババババババババババババババババババ」
電撃は一際大きく身体を包み込み、視界全体が青白い光で満たされる。何かが弾ける音がする。
「いった……装甲剥がされた……」
手のひらがビリビリして、感覚も曖昧になっている。剥がされた直後から修復できてよかった。
神経に本来ありえない電流が流れたからか、右手の動きもぎこちない。
(接近戦は無しだね。ならこないだやったように……)
ゾンビは再び魔法を使う。ここ一帯を巻き込む光の柱、それに私も飲み込まれようとしているのがわかった。
だけどそれはありえない。多分犯人も一度見ていて理解しているだろう。私の大火力は、相手が自ら近づくことすら許さない、近づく前に全てが消えてなくなるから。
「『オーバーバーン』」
青白い光は橙色に輝く閃光にかき消され、初夏の暖かさが漂うその場の空気を、サウナと間違えるレベルの熱気へと、一気に上塗りする。
「この直線上はゾンビも建物も全滅かなぁ。あとあんた、これ見ているんでしょ。じわじわ精神的に追い詰めていこうとしたんだろうけど、私にその手が通用すると思うなよ。
私はただ焼き尽くすのみ。悔しかったらさっさと顔を見せなさい」
そう言った私の瞳には、きっと、言葉にできない狂気が宿っていただろう。
◇◇◇
「まったく、厄介だ。まさか関わってくるとは思わなかったが」
港川区の沿岸部から少し離れた場所の、とある建物の屋上で、俺は呟いた。
「俺のゾンビも随分減っちまった。強いやつの顔がストレスでどんどん曇っていく顔が見たくてこの事件起こしたのに、蓋を開けてみればただの作業ゲーしてるみたいな表情しやがって」
つまらなそうな顔をして、ハッキングした防犯カメラから各地の状況を見ていく。
今目をつけていたのは、陽山時雨だった。既に差し向けた最高傑作は潰されたようだが、ついでにこちらが見ていることに気がついたようだった。
「セレナ・エキスマリン、有名だからな、この界隈では。
毎回巧妙に姿と名前を隠して生きていたようだけど、今回はずっと平都市内にとどまっているな。もう魔法も一般に晒しているしさ、何か目的があるのか?」
噂で聞いた程度だった。裏社会で10億円もの懸賞金がかけられているお尋ね者の少女。
最近ROUNDERの連中が接触してこっぴどくやられたらしい。
バレたからもう開き直ったのか、もう魔法を隠そうともしない。
「……ま、さっきの一撃ビル爆破は、脅しとしては十分すぎるな」
フリーの俺には関係ない。そう思っていたが、
「せっかくこんな機会があるんだ。一日で、1億ガッツリ稼いでやろうかなぁ?」
脅し程度で俺は止まらない。
俺の欲望のまま、絶望するような顔を見せてくれればもっと良いな。




