第108話 殲滅作戦
「機嫌悪そうだな。亜紀」
港川区の南側に位置する台田駅に私は来ていた。目の前には修司がいて、こちらを見てそう言っていた。
ただでさえ美空ちゃんからウェブサイトの解析なんてものを頼まれていて、終わってからはゆっくりできると思いきやこれだ。
「こっちの身にもなってくれない?」
「緊急事態なんだ。暇なら付き合ってもらうぞ!理由が無いわけじゃないからな」
なんか、ゾンビ事件の犯人から犯行予告がきたらしい。
嘘だと思いたいらしいが、備えておかないといざ起きたときに対応出来ないらしい。
「あ、いた」
「昨日はすみません」
私の乗ってきたすぐ次の電車で来たらしき時雨ちゃんと咲ちゃんが駅から出てきた。
「……場所はここで合っているの?」
「どうでしょうか。港川区としか聞いていないらしいので」
ここ、平坂第3産業道路沿いの沿岸部だと考えているらしいが、この周辺は籔子あたりから続く工業地帯であり、石油コンビナート、輸入物のコンテナに、大量の船舶、工場など日本の産業の心臓とも言える場所だ。
(引火したら大惨事だよなぁ……まさかそのことまで考えてってこと?やっぱり趣味が悪すぎる)
沿岸部には既に周辺の主力自警団がスタンバイしており、その気になれば半日も掛けずに制圧できる見通しらしいが、果たしてそれは周辺の環境を考慮したものだろうか?
「ともかく、今回お前を呼んだのは、犯人の索敵をしてもらうためだ。今回犯人はかなり大胆に動くようだからな」
「ハイハイ、分かったから。やってやるわ」
私はそう言ってあくびをして、スマートフォンを見始めた。
だけど、それのロックを外す寸前で、四方八方からアナウンスがした。
『やあ!みんなお揃いだね!ちょっと近くの防災無線とかハッキングさせてもらっているよ!
たった今11時になったわけだけど、今からそっちに僕のゾンビが行くからね〜。
それじゃ、楽しんでっ!』ブツンッ
「警戒しろ!すぐに来る!」
次の瞬間、眼の前にワープホールのようなものが現れて、その中から多数のゾンビが現れた。
「ヴアアアアアァァァァァ!!」
「『オーバーバーン』!」
第一陣は時雨ちゃんの魔法で消し炭にされたが、留まることなく第二陣が襲来する。
「そう言えば!冬木とかってどうなっているのよ!?」
私はそう叫ぶ。鷺沼と一緒にセットで居そうな冬木の姿がないからだ。
「夏鈴と圭介は別行動だ!あと、俺たちのところに来てもらって悪いが、時雨は遊撃をしていてくれ!高度な炎使いはお前しかいない!」
「わかった。3人で大丈夫?」
時雨ちゃんは鷺沼に聞く。
「俺が何年この仕事をやっていると思っている?この程度屁でもない。
『薙ぎ払え』」
彼がそう言うと、真っ黒で、巨大な人間の手の骨のようなものが現れる。
間違いない。召喚術だ。
横に薙ぐように手を振り払い、多数のゾンビを一気に仕留める。同時に勢いよく地面もえぐれる。
「チッ……やっぱりまだ動くな。完全に押しつぶすべきか」
「こいつらの発生源を辿ればいいの!?」
「そういうことだと思います!」
ワープホールからの出現は予想外だったが、鷺沼たちにとっては、私が犯人の特定を済ませられるまでの時間稼ぎで十分。
「『覚』
『束』
『封』!」
薙ぎ払ったゾンビに対して、咲ちゃんは封印を発動し、復帰を完全に阻止する。
時雨ちゃんはタイミングを見てその場から離れ、浮遊魔法を使って、港川区は北上していく。
(『魔力共鳴』魔力質を深くまで探れ。同質の物を平都市内から探し出せ!)
だが、ここまでやって問題が出てきた。この方法を取るときに一番相性が悪いやつ、良く考えればこいつだった。
(……これ、犯人が港川区にいたら特定無理じゃない!?そうじゃなくてもゾンビをブラフにされたらもう平都市内でもわからない!)
無制限の召喚術や、何かを支配下に置く魔法は、魔力質が全く同質のものをいくつも作り出すことになる。
当然標的を誤認する原因にもなり、勘付かれたら逃してしまう何てこともある。
「長くなりそうね……」
私はそう呟いた。だけどそれは、目の前で起こる戦闘の轟音にかき消された。




