表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/48

第33話 接続前夜


尼崎を出たのは午後四時を少し回った頃だった。


空はまだ明るいが、修司には一日が異様に長く感じられる。


警察本部の重苦しい空気。


0番線。


そして《第零駅》側からの逆探知。


頭の中で整理しようとしても、情報が多すぎた。


JR尼崎駅へ向かう途中、玲奈が小さく口を開く。


「修司さん、少し休みませんか」


「疲れた顔してるか?」


「かなり」


正直、自覚はあった。


二人は駅前の小さな喫茶店へ入った。


平日の夕方で客は少ない。


窓際の席に座ると、ようやく少しだけ肩の力が抜けた。


玲奈はアイスティーを頼み、修司には勝手にブレンドコーヒーを注文した。


「俺の好み、完全に把握してるな」


「付き合ってるんですから、それくらい覚えます」


玲奈は少し微笑んだが、その目の奥の不安は消えていない。


コーヒーが運ばれてきても、二人はしばらく無言だった。


やがて玲奈が静かに尋ねる。


「今夜、本当に行かないんですよね」


修司はカップを置いた。


「今のところは、そのつもりだ」


「“今のところ”なんですね」


鋭い。


修司は苦笑するしかない。


「美咲たちが調査する。俺が勝手に動けば、向こうの作戦を乱すことになる」


玲奈は少し考え、それから小さく頷いた。


「それなら、信じます」


だがその言葉には、「もし動くなら一緒に行く」という覚悟も滲んでいた。


西宮へ戻ったのは午後六時前。


マンションへ着くと、玲奈はすぐにキッチンへ向かった。


「今日はちゃんと約束守ってもらいますから」


「はいはい」


冷蔵庫から取り出されたのは、昨日買った鶏肉と野菜だった。


トマト煮の残りをアレンジして、パスタにするらしい。


修司はリビングでノートパソコンを開き、今日の会議内容を整理し始めた。


第零駅 現時点で判明したこと


1952年に中止された未成線と関係


東梅田駅地下約40m付近に接続反応


0時13分が最終接続時刻


視認者への精神干渉能力あり


警察・自衛隊の電子機器へ干渉可能


黒いコートの「案内人」が存在


そこまで打ち込んだ時、スマホが震えた。


美咲からのメッセージ。


『現地確認班が旧設備区画へ到達しました』


修司の表情が引き締まる。


すぐに続報が届く。


『図面にない下り階段を発見』


右腕がじわりと熱を帯びた。


ズキン。


《観測者》が反応する。


【接続経路との共鳴を検知】


修司は思わず画面を見つめた。


玲奈がキッチンから顔を出す。


「どうしました?」


「東梅田で動きがあった。図面にない階段が見つかったらしい」


玲奈の手が止まる。


「……本当にあるんですね」


「ああ。少なくとも“何か”は存在してる」


午後七時過ぎ。


夕食のパスタを食べながらも、修司のスマホには断続的に美咲から報告が届いていた。


階段は地下四層相当まで続いている


コンクリートの年代が周囲と一致しない


電波状況が不安定


温度が異常に低下している


そして最後の報告。


『階段の最下部で、古い駅名標のようなものを確認しました』


添付された写真は暗く、はっきりとは見えない。


だが白いホーロー看板に、かすれた黒文字が浮かんでいた。


「第零」


玲奈が息を呑む。


修司も背筋が冷たくなるのを感じた。


警察の推測ではなく、現実の地下空間に《第零駅》の痕跡が存在している。


午後九時。


美咲から電話が入った。


『相良さん、現地の状況をご報告します』


彼女の声は落ち着いていたが、わずかに疲労が滲んでいる。


「階段の先は?」


『地下約42メートル地点で行き止まりになっています。ただし、その壁の向こうから列車走行音のような振動を複数回検知しました』


「壁の向こうに空間があるのか」


『可能性は高いです』


電話の向こうで、誰かが慌ただしく報告している声が聞こえる。


美咲は少し声を落とした。


『それと、現地隊員の一人が壁に耳を当てた際、“まもなく最終列車が到着します”という放送を聞いたと証言しています』


修司は無意識に時計を見た。


21:08


まだ0時13分まで三時間以上ある。


それなのに、すでに向こう側では“運行”が始まっている。


『現在、現地は封鎖を維持しています。ですが、0時13分に何が起きるかは予測できません』


美咲は短く息を吐いた。


『念のため、今夜はスマートフォンの電源を切らずにいてください』


「分かった」


電話が切れる。


部屋に静かな緊張が残った。


午後十時。


玲奈はソファの隣へ移動し、修司の肩に頭を預けた。


テレビはついているが、内容はほとんど頭に入らない。


時計の秒針だけが妙に大きく聞こえる。


修司の右腕は、断続的に熱を帯び始めていた。


《観測者》はまだ沈黙している。


だがその沈黙の奥で、何かがゆっくり近づいてくる気配があった。


窓の外では、西宮の夜が静かに更けていく。


そして大阪の地下深くでは、《第零駅》が0時13分の接続時刻へ向けて、確実に目を覚まし始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ