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それ以後は、朝ご飯を食べたり、帰る準備をしたりして、皆でばたばたしていた。
真由と里中君と不登校だった三橋君は、なぜか意気投合して一緒にいるようになった。ま、泣くときも一緒だったし、気が合うんだろう。
問題は、小橋君だった。太陽接近以降、お兄様が話しかけても上の空だし、テレビの臨時ニュースで、「地球連邦」の話題が出ても、興味も関心も示さなかった。啓子が荷物をまとめたりして、世話を焼いている。
私も、のろのろと準備をしていた。
「みんな、地球連邦だぞ、地球連邦。地球連盟だって、地球連合だって、うまく機能しなかったというのに、地球連邦と名前を変えただけで、うまくいくはずがないじゃないか……」
「大石先生、少し黙っていてもらえませんか。考え事があるので」と小橋君が平坦なお経のような声で言うと、「あ、ああ」と言って、大石先生の永遠に続きそうだった熱弁は止まった。
「小橋、大丈夫か? 何かあったら先生に言うんだぞ」
「はい。地球連邦は、うまく機能するでしょう」とお経のような声。
「そう思うのか、小橋。理由は何だ」
「もう、誰が偉いとか、どの国が強いとかいう時代では無くなったからです」
「じゃあ、どういう時代になったと言うんだ、小橋」
「戦争の無い平和な時代になった、ということです」
「そんな時代は、歴史を紐解く限り、これまで存在しなかったんだぞ、小橋」
「これから、存在するようになります」
先生は、小橋君の額に手を当てた。
「熱は無いようだな。安田、帰るまで、小橋をよろしく頼むぞ」
「わかりました」と啓子が答えた。
「山下は、どうする?」と先生は、話の矛先を私に向けた。
「はい?」
「言ってみれば、ここは山下の家だろう? ここで解散してもいいんだぞ」
「ああ、そうですね」と私は学校に帰らなければいけないものと思い込んでいた。
「朱音、そうさせてもらったら?」といつの間にか、お母さま登場。先生が、なぜか、あたふたしている。美女免疫が無いのだろうか。
「うん」どうしようかな~。
「私達も、ここで解散でいいですか?」と啓子が言った。
「うん?」と大石先生。
「どっちみち、土日は朱音の家に泊めてもらうことになってましたし」(ええ?)
「そうだったのか」(そうだった?)
「そうだったんです」と真由、里中君、小橋君、それになぜか、三橋君もハモッた。
「三橋、お前は、今回初めて会ったんだろう?」
「三橋君も、仲間です!」と里中君がキッパリと言った。
「それは、先生としても、非常に嬉しいことだ。三橋も、ここで解散」
「やったー!!」と真由と里中君にハイタッチする三橋君。
なぜか、大石先生は、ハンカチで目元を拭っている。どうしたのだろう??
「ずる~い」という声がした。見なくてもわかる、藤原加奈だ。
「私も、ここで解散がいいです」
「俺も」「私も」「僕も」という声が上がり続け、大石先生は、しばし黙っていた。
「皆の気持ちもわかるが、ここは温泉旅館だ。残りの生徒達は、一旦、学校まで戻って、そこで解散だ。後は、親御さんと相談して、改めて宿泊予約を取るなり、泊まりに来るなりしなさい」
「は~い」と藤原加奈の「ずる~い」という顔を筆頭に、皆、不承不承返事をした、という感じだ。
皆を乗せたバスは、お弁当入りの保温パックと共に、お昼前に帰って行った。
「大石先生、泣いてたみたいだけど」と私は言った。
「学校に来ない、三橋君のことを、心配してたんでしょ。それが、合宿に参加して、友達もできて、安心したんじゃないの?」
「へ~~」そうなのか。
「それに……」と啓子は、三橋君を見たので、私も見た。
「三橋君は、朱音のことを好きみたいだし……」と啓子。
「え~~~~!!」
「やっぱり。気がついてないとは思ってたけど」
「え~~~~!!」
「朱音、鈍すぎ。あれだけハッキリ、気になるとか、写真をもらったとか言われてるのに」
「え~~~~!!」
「もう、いいわ。あんなに美しいお兄さんがいるってのも、不幸な話なのね~」
「お兄様と三橋君と、どういう関係があるの?」
「オーッホッホッホ」と笑いながら、そばで聞いていたらしい、ミーアキャットが時枝祥子の姿になった。




