夜の狩は死神の専売特許
日没後に始まった第二次戦。疲労困憊の于雲鮮軍に攻撃を仕掛けたのは、于雲一族が大虎に亡命して以降、姜純の配下に組み込まれた于雲夏軍と于雲鮮の兵団だった。
休む間もない連戦。傷の手当てすら満足に出来なかった于雲鮮軍は大きく後手を踏み、躊躇いの見える敵の刃にも容易く討ち取られてしまう。
(今から士気を奮わし、同胞を手にかける覚悟を宿らせるなんて……無理だ。皆、体力・精神ともに限界に近い。戦術を練る暇もなければ、陣形も歪なままだ)
ぐちゃぐちゃの本陣に留まって全体の指揮を任された于雲鮮だが、体力・人員・時間がない最悪の状況である。打開策を見いだせる訳がなかった。
そして彼が頭を悩ませているうちにも、最前線では知己の者達が刃を交えていく。
「于雲蓋様……こうなっては仕方がありません。いざ尋常に勝負!」
「むぅ、お前達か。まさかこんな形で戦う事になるとはな……。これも乱世! 許せ!」
「于雲芳様。ご無礼ながら……参ります!」
「やれやれ、この歳にもなって息子ほどの部下と戦うとは……堪えるわ」
「お久しゅうございます霊玄様! 早速ですが、じゃーんけーんぽんっ!」
「ワハハハハッ! 残念だったなぁ! 儂のこれはパーだ!」
「その丸い刃がパーとグーを兼ねるなんて卑怯でございますぞ! ……と見せ掛けておいて死ねぇーー霊玄様ーーー!!」
「ワハハハハァァーー!! お前こそイネェェーーー!!」
(……玄叔父さんの持ち場から愉快な声が聞こえるのは……俺だけか?)
一部楽しそうな命のやり取りをしているが、あの霊玄に限ってただのじゃんけん勝負で終わらせる筈がない。
時間の経過とともに、霊玄によって元部下達は討たれていくだろう。
一貫して討ち取る側の霊玄も、蓄積する疲労に動きを鈍くする。他の将兵もまた、夥しい犠牲を出すに違いない。
正しく何の旨味もない損耗戦だ。姜純本軍と矛を交えてない現状、こんな無駄しかない戦闘は本気でしたくなかった。
「昼間以上の被害が出る……みんな、この一戦で相当な数が死ぬ……!」
予想がつくだけに、思わず弱音を吐いてしまった于雲鮮。
有力な将達が揃って武器を取り、最前線で戦う中。本陣に控える于雲鮮を精神面で支えられる者は居なかった。
「全員を下げろ。あとは俺と魔女がやる」
「えっ……? あ!? 牙殿っ!?」
そこへ現れたのは靖破とシュラだった。夜の闇に一体化して現れた死神は、方天戟を片手に悠々と歩いていく。
『夜の戦いで有利なのはうち等も同じだ。派手に殺らなきゃ、敵もうち等が出てきた事はわからねぇだろうよ』
「もし気付かれたとしても、北鑑以外に夜戦の準備を整えている軍があるとは思えん。今迫っている奴等を追い返すだけなら、本陣を多少離れても問題はない」
『つー訳だから鮮坊。お前はさっさと軍を下げな。特別にうちと靖破が代わってやる!』
「……感謝します! 各隊の将校達に伝令を出せ! 戦闘を中断して後退!」
于雲鮮の端的すぎる指示はすぐに飛んだ。組織的な動きが取れずに個々で戦っていた将達は、その指示を疑い、中には聞き返す者も居た。
しかし、于雲鮮の本陣がいの一番に後退しているとの情報を続けて聞くや、何か策があるのだと理解を示し、素直に後退を始める。
「……あぁ? 陽慶の奴等、城に引くつもりか? 残党どもに追撃の指示を出せ。徹底して醜い戦いを続けさせろ!」
于雲鮮軍から後退の声が上がったのを、姜純は聞き漏らさなかった。
彼はすかさず追撃命令を下し、于雲夏・于雲鮮兵団に後を追わせる。
「……気は乗らないが、戦うしかないんだ。申し訳ありません。于雲夏さ――!?」
躊躇いのある于雲夏・于雲鮮兵団がわざと遅れて追撃を始めたところへ、突如出現した靖破が一閃をお見舞いした。
無音にして衝撃のない横一文字状の一閃。戦場の様子を知らせる篝火を根本で切るような高さで真空波が生じ、敵兵の命の灯火ごと明かりを吹き消した。
「何だ! 何が起きて――っぐ!?」
「灯りが……。おい、大丈夫か…………うわっ!? い、いつの間に殺られたんだ!?」
「ひっ、た……助け――ガハッ……!?」
「え? え!? いったいどうなってる!? お、おい誰か――ぁっ……!?」
一帯を暗闇に落とした靖破は、血生臭い鎌鼬となって静かに蹂躙した。
于雲鮮に悪いとは微塵も感じていない。ただこいつ等も、身一つで陽慶側に寝返りさえすれば、于雲鮮の下で好きにさせてやっただろうな、とは思った。
于雲夏・于雲鮮兵団は知らず知らずのうちに前衛の多くが削ぎ落とされていく。彼等は追撃もままならず、一陣の夜風とともに味方が絶命していく現象に恐怖心を抱いた。
「前に出れば死……下がれば処罰……! 俺達に道はないのか!?」
『んじゃ、いっそ寝てな』
「「「!!?」」」
進退窮まって絶望する北鑑兵達の耳元に、シュラの聲が届けられる。
不意の聲に動揺が加速した彼等が辺りを見渡すと、周囲にもやが漂っていた。魔女が独自開発した、催眠作用付きの煙玉が炸裂していたのだ。
「な……こんな……所で…………無念……」
「于雲夏様……于雲鮮様……申し訳ありま……せ…………ぐがぁぁ〜〜」
「スヤー、スヤー(-_-)zzzzzz」
『寝るの早くねぇか!? どんだけ疲れてんだよこいつ等!?』
シュラもびっくりな効き目だ。それは裏を返せば于雲夏・于雲鮮配下の兵士達が、如何に今回の従軍に精神的負荷を負わされていたかを意味する。
「戦闘準備整いました! 総員、突撃!!」
「「「オオオォォォーーーッ!!!」」」
そこへタイミング良く、隊形を整えたと豪語する于雲鮮が全軍に喚声をあげさせた。
だが実際は、軍の形は崩れたままだった。于雲鮮達は靖破に倣って灯りを消した為、暗闇の中で陣形を組む事はさすがに困難であり、簡単な作戦で敵を追い払う事にしたのだ。
「霊玄の名を知らぬか!! 儂は于雲一党の兵だろうと容赦せぬぞ!!」
「張侍登場!! 俺の鉄球捌きで、あっという間に蹴散らしてやるぜ!!」
「鐘鬼見参! 于雲夏殿の兵士達よ、覚悟せよ!!」
辺り一帯が暗闇のまま、名のある魔人達が迫り来るように名乗りをあげる。
于雲一族が得意とする虚報を用いて、于雲鮮軍は想像に語りかける突撃を行った。
「敵わねぇ!? 逃げろぉぉーー!!」
その意図を察してか、はたまた本音か。一人の北鑑兵が叫ぶと忽ち周囲の兵士にも伝染。全体の指揮を執れる人物がいない事から、崩壊の波は瞬く間に広がり、于雲鮮達が追い立てる必要もなく逃げていった。
「牙殿。救援感謝いたします! お陰で被害を最小限に抑えられました」
「魔女の道具で眠りこけている奴等がいる。回収しておけ。用途はお前に任せたぞ」
「何から何まで感謝いたします。本陣部隊、俺に続け! 他の将兵は今の内に休むように!」
于雲鮮と彼の直下部隊は戦闘の後始末を行う。張侍と鐘鬼も個人的に手を貸した。
これにて二日目の戦闘はようやく幕を閉じた。
一方、姜純は逃げてきた北鑑兵から戦いの一部始終を聞き、不敵に唇の端を上げる。
「フッ……まぁそんな事になるだろとは思ってた。良かったな、皆殺しにされなくて」
「……姜純将軍。我々は……その……」
「あ? ……あぁ、気にするな。元々お前等に期待なんざしてねぇよ。ただ奴等を疲れさせればそれでいい。さっさと下がれ」
靖破の出現を予期していたように微笑する姜純。
于雲夏・于雲鮮兵団の将校達は、取り敢えず処罰が下らない事に安堵したが、総大将の言動に于雲鮮達の明日を憂慮した。
《大虎流お料理教室》
嶄篠十秒クッキング♪
「ナマハッハッハ! ナマハッハッハ! ナマハハハハハハハハ! ハッハッハッ!!」
食材は戦場にある♪ 陽慶靖破軍の提供でお送りします♪
「ナマハッハッハ! ナマハッハッハ! ナマハッハッハッハッ! ハハハハハッ! ナマハッハッハ! ナマハッハッハ! ナマハッハッハッハッハ! ハハハハッハッハッハッハッ!! ハッハッハハッハ! ナマハッハッハハッハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ナマハハハ!! ナマハッハッハ! ナマハッハッハッハ、ハッ! ハッ! ハッハッハ!!」
みんな憧れ裸エプロン姿の嶄篠が、悪ノリ全開で腰振りダンスを踊る魅力満載の図。
その後には褌一丁の大虎兵達が拳を掲げて合いの手を送っていた。
「…………ん? あぁ、始まっていたか。今日の料理は「大虎の武人盛り」だ。調理は嶄篠が行う。……嶄篠、早速始めろ」
司会は靖破。料理人は嶄篠。食材を乗せる大皿の上には捕縛された魏逸。
嶄篠は巨大包丁を手に取り、十秒以内の調理を目指す。
「三億光年早いんじゃボケェェ!!!」ペンッ!!
「ぐわぁっぷ……!!?」
巨大包丁の面の部分で叩かれた魏逸が、一瞬のうちに全裸状態。気絶して大皿の上に横たわった後、嶄篠が男の大事な部分を菊の花で盛大に飾り隠す。
「出来上がりじゃぁぁーー!! ナマハハハハ!!」
「「「うおおぉぉぉぉーーー!!!」」」
大虎兵による大歓声の下、お手軽料理は大完成。今日も無事に番組が終了した。
食材は戦場にある♪ 嶄篠十秒クッキング♪ 〜おわり〜




