圧倒的苦境でこそ際立つ覇者の風格
開戦二日目の早朝。リナムは起床してすぐに支度を済ませ、城壁南西の角に設けられた本陣に赴く。
身だしなみだけは最低限整えていたが、目の下には小さなクマが見られ、昨日の緊張が体を蝕んだように動きが鈍かった。
それでも本陣に踏み込めば気丈に振る舞い、情報部の徹夜班が残した資料をいの一番に確認するなど、気立ては立派な官僚のそれであった。
『おはようリナム。もう少し寝ててもよかったんだぞ』
「あっ、シュラ様。おはようございます。……靖破様は?」
存在に気づかれなかった為、シュラの方から聲を掛けた。
彼女は本陣の片隅に置かれた木箱の山の上に、ちょこんと座っていた。
そしてリナムの問いに対しては、首を僅かに傾げながら人差し指で櫓上を指し示す。
靖破ならいつもみたく、高い場所で足癖悪く腰を降ろしている……と。
「……靖破様。おはようございます」
「ん? あぁ、リナムか。ちゃんと寝たかね」
『寝てないと思うぞー。昨日も深夜まで作業してて、それで今だからなー』
シュラの言う通り、リナムは三時間ほど仮眠しただけだ。最前線にいる嶄篠ですら七時間の睡眠をとっているというのに。
『リナム、昨日は風呂も入ってなかっただろ。大丈夫か? 何なら今から入ってもいいぞ。朝風呂ってのも中々気持ちいいからな』
「軽く拭いたので大丈夫ですよ。それに今は、お風呂に浸かっていられる様な状況ではありませんから」
『ふーん。……靖破、リナムの健康の為にも、この戦は早く終わらせる必要があるぞ』
「もとより長引かせるつもりはない。目障りな北鑑どもは早々に討ち払うまでだ。
――リナム。ケトに居るロキから、何か報せは届いたか?」
一日待機しただけでも凄まじい生殺し感を味わった靖破。
彼の北鑑軍に向ける視線には怒気が見て取れるが、一転してリナムに対しては普段通りの雰囲気を放った。
「……兄様からは、まだ何も……。というのも兄様が城を不在にしているらしく、連絡が取れないのです。……おそらく、榲國軍の対応に追われているのだろうと」
情報部の資料を見直しても、ロキからの連絡は未だ来ていない。
領内に侵入したという榲國軍の数も目的も不明のままだ。それ故にケトに関しては、優劣の判断さえつかない状況にあり、全てはロキの采配にかかっていた。
途端にリナムの表情に曇りが生じ、不安を隠しきれない彼女は櫓上の靖破を見上げる。
「靖破様……。兄様は、来てくれますよね?」
「……。心配いらんよ。目立ちたがりで妹想いのロキが、この状況を前に黙っているなどあり得ん事だ。存外、もう近くまで来ているかもしれん」
捨てられた子犬の様な上目遣いをされた靖破は、半ば衝動的に櫓から降りるや、リナムの頭をそっと撫でてやる。
するとリナムの憂い顔から不安の色が消え、兄を信じる心と靖破の頼もしさに、彼女は僅かに頬を赤らめた。
『安心しなリナム。ロキが来ようが来まいが、うち等にかかればこのぐらいの敵は朝飯前だ。出撃さえできればあっという間に蹴散らしてやる』
シュラも腕を組み、リナムを安堵させるべく大言を吐いた。
尤も破壊の魔女からすれば、有言実行が可能な台詞でしかないだろう。
『そんで早く終らせて、ゆっくりとリナムの体をいただく。最近溜まってるからなぁ〜。ちょっとやそっとじゃ終わらんぞ!』
「えっ……!? あの……長くなるようでしたら、静養して体の調子を整えてからにしていただけると……助かります」
『心配すんな。うちの手にかかれば静養を兼ねた触れ合いなんて造作もない。体の調子が悪けりゃそれごと治してやるよ!』
「あ……あはは。助かります」
戦後の入浴タイムと聞いて、リナムは全裸の自分がシュラの玩具になって身を任せている光景が容易に想像できた。
シュラの巧みな手技はリナムの思考を完全に蕩けさせ、彼女を快楽の楽園へと陥れる。
そして全身隈無く揉んだり挿れたり舐めたりした後は、疲労感が解消されて朝まで熟睡でき、体の調子もすこぶる良くて健康的な翌日を送ることが可能だ。
(嫌いではないのですが……ほぼ毎日入浴する度に味わうと……いずれ自分が馬鹿になるんじゃないかなって思うんです)
快楽が人を駄目にする。リナムはそれを危惧していた。
「……魔女よ。何度も言うがリナムで遊ぶのも程々にしておけよ」
「既にだいぶ引かれてるし、そのうち本気で嫌がられるぜ!」
「張侍の言う通りだ。…………お前がなぜ居る。さっさと戻れ。今すぐ出撃しろ」
人知れず本陣の一角で朝食を作っていた張侍が、話の輪に入ってきた。
靖破は即座に除外しようとするが、当の張侍は鍋の蓋を押し出して抗議する。
「待った待った。お宅等のために朝飯を作りに来ただけじゃねぇか。あとついでに、天使ちゃん成分も補給しにな」
『一呼吸あたりアサギ箱百個な』
「破産するわ! 独占禁止を要求する!」
「む? 何やら賑やかだと思えば、張侍殿も居られたか。士気が高いようで上々上々!」
「おー、祝覧殿! おはようさん! そっちも大活躍の一日だったな! いやお見事!!」
『おっさんのはあれ……兵法って言っていいのか? うちは戦に関してずぶだからよく知らねぇけど……兵法書に書いてないだろう事はわかる』
「祝家の絆は兵法にも勝る。北鑑や白眉でさえ度肝を抜いたことだろう」
「流石だな、祝覧。戦局は確実に好転した。感謝する」
「ありがたく! このまま北側の戦線から、戦場全体を動かして見せよう!」
「いよっ! 名将・祝覧殿! カッコ良いねぇ!!」
「お前は飯を残してさっさと行け。出撃の時間だ」
「鬼か!? 出るも何もまだみんな寝てらぁ!」
『復讐の鬼だからなー。張侍頑張れーー』
いつの間にか参上した祝覧も交え、早朝の本陣は勇壮な声で満たされる。
圧倒的不利を前にしても普段通りの靖破とシュラ。知恵と人望を駆使して状況を打破せんと、英気盛んになる祝覧。気さくな言動で場を盛り上げる張侍。
リナムはこの光景を見て、未だに抱いていた不安を安堵に変えた。
(…………大国の権力が大軍を用意しても、人の和には敵わない。戦争も政治も、肝要となるものは人の和なんですね。それを自ずと引き出せる靖破様は、やっぱり覇者の器です)
靖破とシュラの武力は凄まじい。それは三軍に匹敵し、一国を滅ぼす事も可能だろう。
だがそれだけでは勝てないものも必ずあると、リナムは本能的に察していた。
武人でも参謀でもない一介の貴族令嬢たるリナムが感じ得たそれは、得てして孤高の強者が持つ弱点のそれである。
それを補って尚、圧倒的な存在感と武力を誇る靖破は、リナムにとって世の動乱を治める覇者の理想像だったのだ。
リナムは誰に気づかれるでもなく頬を染め、暫くのあいだ靖破を見つめていた。
《不変の男 靖破》
午前
「靖破様、シュラ様。紅茶を淹れました。休憩しましょう」
「ん? あぁ、そうだな。頂こう」
『靖破ぁー、お前休憩するほど何かしたか?』
正午
「靖破様、シュラ様。お昼になりましたから、御飯にしましょう」
「ん? あぁ、そうだな。……魔女よ、飯だぞ」
『よっしゃ飯だ……って靖破! お前なんか仕事したか!?』
夕方
「ふぅ……今日の政務も一段落つきました。靖破様、シュラ様。お疲れ様でした」
「ん? あぁ、そうだな。もう終わりか。疲れただろう、ゆっくり休むといい」
『やい! 靖破てめぇふざけんな! 仕事しろ! リナムも靖破のケツ蹴ってやれ!』
「そんな……靖破様の臀部に……お触りなんて……!? そんな……///」
「構わんぞ。好きなだけ揉みたまえ」
「で、では……失礼します///」モミモミモミモミモミモミモミモミ
『……おぉーーいロキぃーー。お前の妹が忙しさのあまり可怪しくなっちまったぞ』
「靖破殿のケツに失礼致す」モミモミモミモミモミモミモミモミ
「あぁ、構わんぞ。存分に揉みたまえ」
『お前ら兄妹揃って何やってんの!?』
ケツを揉んだルーベルズ兄妹の感想
リナム「……すごく固くて、立派でした」
ロキ「ほぉー、リナム。なんかその言い方エロくて良いな」




