北面の死闘。気炎万丈の武士達
「めっちゃ燃えてきたぜェェェ!! 戦はやっぱこうじゃねぇとなァァ!!」
祝鉱が矛を振り回しながら叫ぶ。近くにいる部下達はその刃を片手間に躱しながら、自分達も得物をメッチャクチャに振り回しながら闘志を漲らせ、やっぱりその刃を祝鉱も軽やかに躱す。
見ているだけでもヒヤヒヤする光景だが、当の本人達は純粋に楽しんでいた。
「滾ったか祝鉱! よし、久々に稽古をつけてやろう! 来い! 祝家の将として、お前がどれだけ成長したか見てやるぞ!」
「へへっ、祝家随一の猛者が誰か……兄貴が知らねぇ訳はねぇよな? 俺と戦って負け面かいても恨むなよ!」
「お前など、俺から見ればまだ子供だ。さっさと掛かってこい」
「言ったな兄貴。んじゃ、容赦しないぜェ!!」
祝鉱もまた、軍を離れて祝覧に向かって単騎駆けする。
そして祝覧は剣を、祝鉱は矛を得物に一騎討ちを始めた。仲の良い兄弟だろうと関係ない。命を賭けた真剣勝負だ。
「祝鉱! 以前出した問題の答え合わせをするぞ! 祝家が扶美南方の宿場街から得られる税収入のうち、その何割を軍事費に割いているか答えろ!」
「ぎょええぇぇぇっ!!? そんな問題聞いてねぇぞ!?」
「隙あり!!」「待っ――」
これも兵法。祝覧のやり慣れた足技が、動揺した祝鉱を馬上から蹴り落とした。
そして祝覧自身も速やかに下馬するや、流れるように無駄のない動きを以て祝鉱を組み伏せ、彼の耳下で魔力のこもった念仏を唱える。
「北部と大虎中枢を繋ぐ祝家は多くの商人の通り道にして街道沿いに設けられている五十以上もの宿場街から多大な税収入を得られており内一割を大虎王家に収めもう一割を北部軍本部に収めているこの時点で実際に得られる税収入は八割となり南方は半分の四割と単純計算してブツブツブツブツブツブツブツブツ…………」
「ギィやアァァっ!!? ぎゃあぁーー!! ぐわアァァィィーーん!!? ……ガクッ……」
「我が弟、祝鉱! 生け捕ったりーー!!」
祝覧隊・祝鉱隊「「「うおおぉぉーー!! 祝覧将軍ーーー!!」」」
念仏を前に、祝鉱は血反吐を吐きながらあっけなく捕縛された。
祝覧隊は大きく士気を高める。謎なのは祝鉱隊も歓声をあげて士気が上がった事だ。
「やるじゃないか兄者! でもアタシに算術の攻めは効かないよっ! さぁ! 燃えてきたアタシと、兄妹水入らずの大喧嘩といこうじゃないのさっ!!」
「お前達が束になったところで恐ろしくもなんともない。いいから掛かってこい!」
「言ったね兄者! 容赦しないよっ!!」
次は祝那が一騎討ちを名乗り出た。兄妹はすぐに間合いを縮め、やはり命を賭けた真剣勝負と相成る。祝覧は変わらず剣を、祝那は細剣を振るう。
「おぉ……! 腕を上げたな祝那。祝家随一の猛者は、もしかしたらお前かもしれん」
「はっはーん! そうだろそうだろ! 兄者は見る目があるねぇ! 女だてらに先陣を切るんだ。アタシが強くて当然なのよ!」
「うむ。祝鉱は勢いこそ良いが、戦に関する事以外は致命的に頭が悪い。反面、祝那は面倒見が良いし、兵団の管理もよくやっている。“北部軍に祝那あり” と言われる日も、そう遠くないかもしれんな」
「何だいなんだい! 今日の兄者はやけに褒めるじゃないか……! 褒めても勝ちは譲ってやらないよっ! でもちょっとは手を抜いてやろうか――」
「隙あり!!」「なぁっ!?」
いつになく絶賛する兄を前にして、祝那は照れくさそうに頭をかく。
しかし、おべっかも戦術とばかりに、祝覧は無慈悲だった。
純粋に喜ぶ妹の腕をガシッと掴むや、瞬く間に自分の馬の方へ手繰り寄せ、無防備な彼女のお尻に兄特有の必殺技・高速お尻ぺんぺんをお見舞いする。
「お前達が俺に勝とうなんて百年早い!!」スパスパスパスパスパスパスパァァーーン!!
「ぎぃやあああぁぁーーー!! 鍛えてないところがぁぁぁぁ…………ガクッ!」
「我が妹、祝那! 生け捕ったりーー!!」
祝覧隊・祝那隊「「「うおおぉぉーー!! 祝覧将軍ーーー!!」」」
兄は強し! 何年経っても超えられない壁を実感し、かつ恥辱のお尻ぺんぺんをされた祝那は、兄の膝上で気絶した。
そしてやっぱり、祝覧隊に加えてなぜか祝那隊の士気も上がった。
「「「うおおぉぉーーー!! 俺達も祝覧将軍に遊んでもらうぞーーー!!」」」
士気最高潮となって自制が効かなくなった祝鉱隊・祝那隊の将兵達が、龍伯の命令もなく突撃する。純粋にして子供心を忘れない良い将兵達だ。
「鎮まれ祝家の兵士諸君! 私は祝家当主 祝万だ!」
「「「ええぇっ!? 祝覧将ぐ――」」」
「違う! 私は祝万だ! この顔を忘れたのか!」
陣形を気にせずアヒルの群れの如くドドドッ! と押し寄せる祝家の兵団を前にして、祝覧は威風堂々と仁王立つ。
彼等には、当主の祝万と瓜二つな外見を利用した錯覚術を以て惑わそうとした。
「私は靖破殿にお味方致す。祝家の兵士諸君! 祝家はこれより陽慶側だ!!」
「お、おおぉっ! 祝覧将ぐ……祝万様がそう仰っているなら間違いないぞ!」
「よし、祝万様! 俺達は今から陽慶に走るぜ!」
「祝覧将軍……いや、祝万様っ! その御言葉を待っておりましたぞ!」
「いくぞ皆の者! 祝覧将軍も祝万様も、祝鉱様も祝那様も陽慶だ!!」
「「「わあああぁぁぁぁーーーーっい\(^o^)/!!!」」」
祝覧を実兄の様に慕い、祝万にも敬服する祝家の兵団は、祝覧の言動に彼と祝万の存在を重ねてしまった上で見事に騙され、ものの数十秒で全軍が寝返った。その数一万。龍伯は額に手をやって絶句した。
「これぞ祝家の団結力よ!! 楽羅も北鑑も白眉も恐るるに足らず!!」
祝覧隊・祝鉱隊・祝那隊「「「うおおぉぉーーー!!! 祝覧将軍ゥンーーーーー!!!」」」
いとも容易く大部隊を結成した祝覧と、彼の下へ走った兵士達の生き生きとした姿は、万人が水と魚の関係であると気付く。
熱血教師・祝覧は、更生した元不良兵達に絶大な人気を誇るのだ!!
「誇るな!! ……まったくあの馬鹿どもは……」
龍伯のツッコミ至極尤も。しかし彼は、祝家のやりたい放題を咎める事はしなかった。
代わりに動揺した楽羅軍の将軍達が、残った北部軍に祝家の背信行為を糾弾したが、彼等は龍伯の一睨みで黙らされた。
その様子は祝覧の聲実況によって恐ろしい早さで戦場全体に知れ渡り、リナムの本陣に戻った靖破は北鑑連合軍の醜態ぶりをほくそ笑む。
「喜劇のような兵法だな、祝覧よ。聲之魔人は伊達ではない」
『男ってのはいつまで経ってもガキだなぁ……。おっさんが至って真面目にやってるところが尚更質が悪いや』
「そ、それでも凄いです! 軽い一手で万の軍勢を寝返らせるなんて……!」
祝覧隊・祝鉱隊・祝那隊の大歓声は尚も止まない。用兵家の祝覧曰く「檄とはこういうものである」との事。
刃を交えずとも大いなる戦果を上げ、聲だけで戦局を傾けるのは流石であった。
《祝覧の財布事情》
これはいつ頃の話か。久方ぶりに登場するロキが、祝覧の出で立ちに苦言を呈す。
「祝覧殿。軍服がだいぶくたびれてるぜ。もう少し立派で若々しいのに新調したらどうだ? そのままだと “おっさん” 通り越して “爺さん” って呼ばれる日も遠くないぞ」
「……余計な世話だと言いたいが……一理ある。だが残念な事に、俺は流行には疎くてな。今の若武者にどのような風が吹いているかわからんのだ」
「そこは俺とキクズナに任せてくれ。金さえ用意してくれれば、良さそうなのを見繕ってくるからよ」
「そうか。ではお言葉に甘えるとしよう。これが予算だ」
「確かに預かったぜ。それじゃ早速、祝覧殿に合いそうなやつを――」
祝覧が革製の財布を取り出し、それをロキに手渡す。
受け取ったロキはちょっとした好奇心から、祝覧が普段どれだけ持ち歩いているのかが気になった。彼は財布の中身をそっと覗く。
「……ん? ……んん?」
「じっと見てどうしたのだ」
「…………なぁ祝覧殿。これ何?」
「金子だが……それ以外に別のものでも入っていたか?」
「いや……全然足りねぇよ? さすがにこれだけじゃ絹買って終わりだ」
「そうなのか……とは言っても、俺が自由に使える金はそれだけしかないぞ」
「ホゲェェタッ!!? いやねぇよ! そりゃねぇよ!! いくらなんでも稼ぎ悪すぎだろ!? 下級将校でももう少し貰ってんぞ!! おっさんの財布事情どうなってんだ!?」
「おっさんおっさん言うなと言っとろうがこの糞鳳がァ!」
「怒るとこはそこじゃねぇぇーー!!」
ロキは思う。祝覧ってもしかして更年期障害か難聴なのか? ……と。
「あんた将軍だろ! それも大虎中・央・軍!! 方面軍に入った時は監軍・参謀も兼ねる実力者だろうが!! 高給取りも納得の上級武官様だろ!!」
※ロキと靖破は将軍の位には就いておらず、二人の父にして当主が将軍を勤めていた。
「う、うむ。改めて言われると照れてしまうな。背中が痒い」
「おぅ背中ぐらい掻いたるわい! ……じゃねぇよ! なんでこんなはした金しか持ってないんだあんたは」
「はした金とは失礼な。それだけあれば充分生活できるし、時々の楽しみだって味わえる。軍務を終えて行きつけの飲み屋で酒を頼み、旨い肴をゆっくり食べる。……うむ!!」
(こりゃだめだ……思考回路がそこら辺のおっさんと同じだぜ)
「あぁ〜、質問を変えるか。そんな地味……いや質素かつ素朴で庶民的な遊びをする祝覧殿が、なんで一般的な武官よりも金欠なんだ?」
「俺は剣豪である以前に用兵家だ。貴殿や靖破殿のように、最前線で勇猛果敢に剣矛を振るう事はせん。聲之魔人として兵士達の力を最大限に引き出し、彼等の存在に依存する事で大きな戦果を上げるのだ。
――故に、俺は私財をなげうって兵士諸君を厚遇している。そうすると必然的に、俺の手元にある金は少なくなって当然だ」
「おーう……かなり真面目な話か。……崇高な用兵家だな祝覧殿は。いずれはそれが、戦場を大きく変える事になるかもな。
――まっ、今回は俺の奢りにしとくぜ。変わらず兵士を大事にしてくれや」
「おぉ、感謝するぞロキ殿。持つべきは良き戦友だな!」
そして現在。
「見たか!! これぞ祝家の団結力よ!!」
祝覧隊・祝鉱隊・祝那隊「「「うおおぉぉーーー!!! 祝覧将軍ゥンーーーーー!!!」」」
ロキによって新調された軍服に身を包んだ祝覧が、兵達の前で威風堂々たる仁王立ちを魅せていたという。
祝家の兵士達が、色んな汁をブシャー!! させたのは言うまでもなかった。




