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死神対鬼軍曹 第二戦

『おぅぅんぎゃああああぁぁぁぁぁーーーー!!?』


 蒼髪の魔女 シュラ、まさかの誤爆!! 顔の近くで最後の一匹から盛大なプレゼントが放出され、体をスプリングの様に捻じ曲げながら落馬した。それでも軽やかな受け身を取っているところは流石である。


「うるさいぞ魔女よ」


『うっせぇわこんチクショーー!! 最悪だぜ! まじで直撃しやがった!! うちの流れるような愛くるしい髪に臭い付きやがったしぃぃーー!!』


 自作の特製香水を取り出すや、形振り構わず噴きまくる。

今度は辺り一面に、柑橘系の芳しい香りが漂った。方やスカンクは鼻を押さえて戦線離脱。曰く「魔女臭い」らしい。うっせぇわ。


『……つーか。靖破おめぇ、臭くねぇのかよ。お前の後頭部で爆発したぞ』


「ん? ……あぁ、臭うかもしれんな。だが、それがどうした?」


『……感じねぇのかよ。こういう時だけは便利だなぁお前』


 靖破の後ろに乗りかかる身として、靖破本人が臭いに無関心でも自分はよくない。

シュラはひらりと馬に飛び乗るや、靖破にも香水を噴きかけた。


『それにしても、うちまでバカな巻き添えくらったじゃねぇか! この “バカ” ラス! もうぜってぇ許さねぇからな!! しのごの言わずに掛かってこいやぁ!!』


「「「まさかの逆ギレ!?」」」


『うっせルーベルズ兵! スカンク投げんぞ!』


「「「それは勘弁!!」」」


 やめてやれ、並の人間では死んでしまう。なにせ魔女の研究を軽い一手で凌駕した生物兵器なのだから。と、靖破は思った。


 方やバラガスは、靖破が何を思ってシュラに挑発行為をさせたのかを察した。

彼は静かな怒気を身に纏わせながら、線引きのできる武人として、民を巻き込まない最良の手段を理解する。


(怒らせた我を突出させ、我のみを狙い討ちする事で、民間人の犠牲を最小限に抑える腹か。……奴の考えに乗せられるのは些か癪だが……事ここに至ってはそれが英断)

「古の魔女め、我を散々コケにしくさりおって……!」


「バラガス将軍、どうなされますか? 奚范様の命令は、こちらから仕掛けないようにとの事ですが……」


「我が武人としての心は、軍大将の命に従えぬほど怒り昂っておる!! 逆にここまでコケにされて出ないようでは、それこそ大国北鑑の名に泥を塗るであろう!!

――我を侮辱した事を深く後悔させてくれるわ!! 北鑑の猛将 バラガス! 参るぞ!!」


 半分近くは本音であるが、バラガスは主将同士で決着をつけようとする靖破の考えに、怒り心頭を表現して乗ってやる。

聲をあげるや、いの一番に馬を駆け、側近や緊急徴兵された民兵達に指示も出さず、彼等を捨て置くほどの猪突猛進ぶりを見せた。


「……来たぞ、魔女よ。俺達も出る」


『あぁ、ぶっ飛ばしてやる! ロキは後から来な!』


 バラガス隊全体が遅れて動き出すと同時に、靖破も馬を駆け出した。

両雄は瞬く間に距離を詰め、互いの得物を差し向ける。


「うおおおぉ――っ!?」


「ハァッ……!」


 戦斧を振りかざしたバラガスと、それよりも早い速度で方天戟を突き出す靖破。

バラガスの戦斧は、次の一瞬で簡単に弾かれた。


(貴様がこれほどやるのは承知の上! ここからが我の本領発揮だ!)


 バラガスは左手を得物から離すや、即座に水属性の魔力を実体化させ、水の刃を重ね合わせた鋭利な斧を生み出した。

そして何食わぬ顔で方天戟を構え直す靖破に向けて、二丁斧で襲い掛かる。


『なんだなんだバラガスゥ〜。めっちゃ殺る気じゃねぇか! その生み出したヘニャヘニャ斧で、うちらを倒せたら良いな!』


「戯言を抜かすな! 初戦と違い、もはや貴様らを侮る理由はない! 我の全力を以て、貴様らを余さず屠る!!」


『上等だぜ。靖破、加減してやんなよ! また手ぇ抜いて、うちの頭ゴッチンするのは御免だからなっ!』


「……少し静かにしていろ。次が来る」


 シュラを後ろに乗せたまま戦うのは、少し煩わしい様子の靖破。それでもバラガスの手数を一本の長柄武器で軽くあしらい続けるのは流石だった。

刃先や石突、時には持ち手で防ぎ止め、バラガスの荒々しい攻撃を受け流す。


「まだまだいくぞ! 手に持つ得物が全てだとは思うなよ!!」


 バラガスが体に纏った魔力を放出させると、彼の周囲に宙に浮く手斧が四つ五つ六つと出現していく。どれも水属性の魔力で生み出した自在兵器だ。

その手斧は靖破に絡みつくように動き、バラガスは更に増えた手数で攻め立てる。


『おぉー、頑張れ頑張れ靖破。頑張れ頑張れ靖破。おぉー』デンデンデンデン♪


「……気が散る。静かにしていろ」


 シュラの手を借りずとも、全方位から迫る攻撃の全てを一人で対処する靖破。

彼の背後には、大虎伝統のデンデン太鼓を両手に、ヤル気の削がれる応援歌を歌うシュラがいた。デンデンデンデン♪


『おぉー……おっ! 弾かれた斧が消えたぞ。儚いな。そんでもって脆いぜ』


「……なるほどな」


 絶え間ない攻撃の合間に、シュラの呟きとその現象を耳目する。

今しがたバラガスとは反対方向に弾き返した斧が、飛ばされ先で淡い光の粒子となって消えたのだ。


 そしてシュラの言った “脆い” とは、魔力で生み出した自在兵器の強度ではなく、バラガスの扱える魔力放出範囲が狭いことを意味する。

その範囲がより広ければ、斧は弾かれた先で向き直り、再度牙を向ける事ができる。


 つまりバラガスは、武芸に重点を置いた魔人によくある、零距離戦タイプの使い手だということ。猛将らしく敵に近接した状態でこそ、真価を発揮できるのだ。

尤も彼に限らず、猛将と呼ばれる類は、多くの魔人が同タイプに位置づけられる。


「とばすぞ。頭下げろよ」


『えっ?』「ぬぅ……!?」


ガッ!! ブゥオンッ!!


『ちょ、わぁぁっ!?』「ぅおぉっ!?」


 方天戟の刃先を戦斧に絡ませ、怪力をもってバラガスを後方へ投げ飛ばす。

その際にシュラの頭上スレスレを、バラガスの巨体が高速で通過した。頭を下げるのが遅れたシュラは、低身長が味方して難を逃れたのだ。


『ぅおい靖破ァ!! 頭ゴッチンはやめろっつったろ!! なんでやんだよ! わざとか!?』


「ハァッ……!」


 涙目で訴えるシュラを盛大に無視して、靖破は地面に叩きつけられたバラガスに馬上から飛び掛かる。

バラガスが生み出した手斧は、魔人から急激に距離を離された事で自然消滅しており、落下の衝撃から物理的な得物も手から離れていた。


「ぬぐっ!? ぐあぁぁっ……!?」


 靖破の左足がバラガスの右腕に着地し、衝撃を与えて骨を折る。

方天戟はバラガスの左手を平行に切り裂き、魔力の斧を握ることすらさせなくした。


「魔女よ、バラガスの魔力を封じておけ。ついでに止血もしてやれ」


『あぁーはいはい。うちの出番ね。ったく……』


 シュラは馬の手綱を手に取ると、バラガス以上に荒々しい戦法を目の当たりにして動揺する馬を優しく撫でながら、ゆっくりとバラガスに駆け寄った。


「ロキ。バラガスを捕らえたぞ。兵達に叫ばせろ」


「承知ッ!! 敵将・バラガス! 靖破殿がとっ捕まえたぞ!!」


「「「ウオオオォォォーーー!!!」」」


 ルーベルズ騎兵隊の大歓声が、徴兵された民兵達を大いにたじろかせる。

彼等はようやく、バラガスが戦っていた場所に辿り着いたばかりだった。


 つまりロキ率いる騎馬隊の加速から衝突まで、丁度良い距離の所で指揮官を失い、あげく立ち止まってしまったのだ。


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