第5話「エイモアとクラスメイト」
「それじゃあ、二人とも教室に戻っていいぞ」
先生にそう言われ、俺とエイモアは職員室を後にした。
廊下を歩きながら、俺は小さくため息をつく。
「……なんだか、朝から疲れたな」
「そうかしら? 私は楽しかったわよ」
「いや、楽しかったって……」
エイモアは不思議そうに首を傾げた。
「連様を馬鹿にする者たちに、少しお灸を据えただけよ」
「少し……?」
さっきの光景を思い出し、俺は苦笑する。
「もうあんなことはしないでくれよ」
「連様がそうお望みなら、従います」
エイモアはいつもの落ち着いた口調で答えた。
そして、俺の手をそっと握る。
「ですが、連様。何かあれば、いつでも私を頼ってね」
「……ああ。ありがとう」
俺は握られた手を握り返した。
教室に戻れば、きっとみんなから注目されるだろう。それでも、今までとは少し違う気がしていた。
やがて教室に入ると、たくさんの視線を感じた。その視線はすぐにエイモアに向かう。
「何この子!? かわいい!」
「!?」
クラスメイト(主に女子)が、エイモアをあっという間に取り囲んでしまった。
「ねぇねぇ、どこから来たの?」
「もしかして転校生? どんなスキルなの!?」
「あ、え、えっと……じ、順番に答えてくれないかしら……」
エイモアが困惑している。
まだ時間はあまり経っていないが、少し意外だ。
「ねぇねぇ! 名前は?」
エイモアは少し落ち着き、コホンと咳払いをした。
「私は木星のエイモア。連様のスキルで召喚された存在よ」
エイモアがそう答えると、クラスメイトの視線がまた俺に戻る。
「そうなの!? すごい! 可愛い子を作れちゃうんだ!」
女子の一人がグイグイと迫ってきた。
「えっと、まあ……そういうことになるのかな」
「ねえ、連くん! 今までそんなスキルだって教えてくれなかったじゃん!」
「いや、だって……今まで使えなかったし」
「それって、急に使えるようになったってこと?」
「そうだよ。昨日、初めて発動したんだ」
俺がそう答えると、女子たちは一斉に驚いた。
「へぇー! そんなことあるんだ!」
「それで、エイモアちゃんはどんなことができるの?」
「私は『想像』の権能を持っているわ。想像したものを具現化することができるの」
「えっ!? 何それ! すごくない!?」
「じゃあ、何でも作れちゃうの?」
「いいえ。何でもというわけではないわ。想像するものによって、必要な力も違うのよ」
エイモアは落ち着いた様子で説明している。さっきまで困惑していたのに、もうすっかり質問に答えていた。
「ねえねえ! 何か見せてよ!」
「そうね……それなら」
エイモアが手をかざすと、机の上に小さな猫が現れた。
「わぁっ! 猫だ!」
「かわいいー!」
女子たちは一斉に猫を覗き込む。
猫は机の上で丸くなり、気持ちよさそうに目を細めていた。
「触ってもいい?」
「ええ。構わないわ」
女子の一人がそっと猫の頭を撫でる。
「わっ! 本当に触れる!」
「すごい! これもエイモアちゃんの能力なの?」
「そうよ。私の権能を使って具現化したものよ」
「へぇー! こんなことまでできるんだ!」
教室の中が一気に賑やかになった。
俺はその様子を少し離れた場所から眺めていた。
今まで、俺が教室に戻っても誰かが話しかけてくることなんてほとんどなかった。それなのに、今日はみんなが俺のスキルに興味を持っている。
なんだか、不思議な気分だ。
「ねえ、連くん!」
突然、女子の一人に呼ばれた。
「な、何?」
「エイモアちゃんって、連くんのことを連様って呼んでるよね?」
「ああ、まあ……本人がそう呼びたいらしくて」
「へぇー! なんかお姫様みたい!」
「ふふっ。連様は私の創造主ですから」
エイモアは少し誇らしげに胸を張った。
「創造主!? そういえば、召喚したって言ってたね」
「やっぱりすごいスキルなんだね!」
「他にも誰か召喚できるの?」
「ええ。私以外にも存在しているわ」
「ええっ!? まだいるの!?」
「そうよ。ですが、今はまだ私だけね」
エイモアの言葉に、女子たちはさらに盛り上がった。
「すごいなぁ……連くん、これから人気者になっちゃうんじゃない?」
「いやいや、そんなことないって」
俺は慌てて手を振った。
すると、今まで黙って様子を見ていた男子の一人が口を開いた。
「でもさ、結局それって人形みたいなものだろ?」
その言葉に、教室の空気が少し変わった。
「えっ?」
「スキルで作った存在なんだから、本物の人間じゃないんだろ?」
男子はエイモアを見ながら続けた。
「そんなのがいるからって、連のスキルがすごいとは限らないじゃん」
俺は思わず言葉に詰まった。
確かに、エイモアは俺のスキルによって生み出された存在だ。
だけど、彼女はただの人形なんかじゃない。
自分の意思があり、考え、俺と会話している。
「……あなた、失礼ね」
「そうよ!」
エイモアと他のクラスメイトたちが、静かに男子を見つめた。
「いいよ」
俺は慌てて彼女たちを止める。
「ですが、連様」
「大丈夫だから」
エイモアは少し不満そうにしながらも、俺の言葉に従った。
「まあ、俺は別に悪口を言ったつもりじゃないけどさ」
男子はそう言って肩をすくめる。
「それに、そんなスキルで何ができるんだよ」
その言葉に、俺は少しだけ俯いた。
昨日までの俺なら、何も言い返せなかっただろう。
だけど、今は違う。
「……エイモアは、俺の大切な仲間だよ」
自分でも驚くくらい、自然と言葉が出てきた。
「だから、人形みたいに言わないでほしい」
男子は少し意外そうな顔をした。
「ふーん。まあ、好きにすれば?」
そう言うと、男子は自分の席へ戻っていった。
「連様……」
エイモアが俺を見上げる。
「ありがとう。私のことを仲間と言ってくれて」
「いや、当然だろ。エイモアは俺の仲間なんだから」
「ふふっ。そうですね」
エイモアは嬉しそうに微笑んだ。
その後も、女子たちはエイモアに質問を続けていた。
好きな食べ物は何か、どんなことができるのか、普段は何をしているのか。
エイモアは一つ一つ丁寧に答えていたが、時折、俺に助けを求めるような視線を向けてくる。
どうやら、質問攻めには慣れていないらしい。
そんな様子を見て、俺は思わず笑ってしまった。
「連様、何を笑っているのですか?」
「いや、エイモアも大変そうだなって」
「……連様も一緒に答えてください」
「えっ!? 俺も!?」
エイモアは少しだけ頬を膨らませた。
そんな彼女の姿に、周囲からまた歓声が上がる。
「かわいいー!」
「エイモアちゃん、もっとお話ししようよ!」
どうやら、エイモアはクラスの女子たちに気に入られたらしい。
俺はそんな光景を見ながら、これからの学校生活に少しだけ期待を抱いていた。
今までの俺にはなかった、誰かと一緒に過ごす時間。
そして、俺の隣にはエイモアがいる。
これから先、どんなことが起こるのかは分からない。
それでも、昨日までとは違う毎日が始まろうとしていた。




