第6話「昼休みの出会い」
あのあと、エイモアは授業が始まるまで質問攻めにあっていた。授業が始まると、邪魔にならないように教室の後ろの方に立っていた。
授業が終わり、昼休み。
軽い食事を済ませた後、エイモアと屋上に来ていた。
「どうだった?」
隣にいるエイモアに聞いてみた。
「たくさん質問されたわ。でも、こういうのも悪くないわね」
エイモアは笑顔でそう答える。
「とても優しい人たちね。連様は話したことなかったのかしら?」
「いや、ちゃんと話したことはないな。話しかけてきたことはあったかな」
エイモアがびっくりした顔をした。
「そうなの?」
「ああ。生徒の中にも虐げられている人たちもいるしな」
「それは、連様と同じような境遇の人たちということ?」
「そうだな。スキルが弱かったり、うまく使えなかったりすると、周りから馬鹿にされることもあるんだ」
俺は屋上の柵に手を置き、校庭を眺めた。
「この学園は、スキルを伸ばすための学校なんだけどな。結局、スキルの強さで人を判断する奴もいるんだよ」
「……そう」
エイモアは少しだけ表情を曇らせた。
「連様も、ずっとそのような扱いを受けてきたのね」
「まあな。でも、もう大丈夫だよ」
「本当に?」
「ああ。エイモアがいてくれるからな」
そう言うと、エイモアは嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ。それならよかったわ」
「それに、今日みたいにみんなと話せるなら、これからは少しずつ変わっていくかもしれない」
「そうね。今日の方たちは、連様のことをもっと知りたいと思っているようだったわ」
「そうなのかな?」
「ええ。私にたくさん質問していたけれど、連様のことも何度も聞かれたもの」
「あはは……そうだったのか」
俺は少し照れくさくなり、頬をかいた。
今まで、自分から誰かに話しかけることはほとんどなかった。話しかけられても、スキルのことを聞かれたり、からかわれたりすることが多かったからだ。
だから、今日のようにクラスメイトが俺のスキルに興味を持ってくれたことが、少し嬉しかった。
「連様」
「ん?」
「これからは、もっとたくさんの人とお話しできるといいわね」
「そうだな。俺もそう思うよ」
俺たちはしばらく屋上から景色を眺めていた。
青空が広がり、心地よい風が吹いている。教室にいるときとは違い、ここではゆっくりと過ごすことができた。
「ところで、エイモアは昼食を食べてみてどうだった?」
「そうね。初めて食べるものばかりだったけれど、とても美味しかったわ」
「それならよかった。母さんも喜ぶと思うよ」
「ええ。お母様の料理も、とても美味しかったもの」
エイモアは昨日の夕食を思い出したのか、楽しそうに話していた。
「そういえば、学校の食事はどうだった?」
「こちらも美味しかったわ。ただ、周りの方たちが私のことを気にしていたから、少し落ち着かなかったけれど」
「まあ、あれだけ目立っていたら仕方ないよな」
「ふふっ。連様も一緒だったでしょう?」
「俺は別に……」
そう言いかけて、俺は言葉を止めた。
確かに、今日の昼食はいつもと違っていた。
普段なら一人で食べていることが多いのに、今日はエイモアと一緒だった。それだけでなく、女子たちが何度も話しかけてきたのだ。
「……まあ、少しだけ落ち着かなかったかな」
「そうなのね」
エイモアはくすりと笑った。
「でも、連様が楽しそうでよかったわ」
「そう見える?」
「ええ。昨日までとは少し違う顔をしているもの」
「そっか……」
自分ではあまり意識していなかったが、エイモアには分かるらしい。
俺はもう一度、校庭を眺めた。
すると、屋上の入り口の方から扉の開く音が聞こえた。
「あれ? 神代くん?」
誰かが俺の名前を呼んだ。
振り返ると、そこには同じクラスの生徒が立っていた。どうやら、俺たちに気づいて声をかけてきたようだ。
「ん?」
「あ、ごめんね。急に話しかけちゃって。私は『朝日奈ひより』。同じクラスのクラスメイトだよ?」
「そうだったのか。あまり教室を見ていなくてな」
「私に質問攻めをした生徒の一人ね。連様に何か用かしら?」
エイモアがそう言うと、ひよりは両手をパンッと叩いた。
「うん! あと、エイモアちゃんにも!」
「私にも?」
「えっとね、神代くんには前から話しかけてたんだけど、うまく話せなくて。エイモアちゃんが来てからは、なんだか元気になったみたいだったから、今度こそ話そうと思って探してたんだ」
俺は驚いた。
話しかけられた記憶はないが、どうしてだろう?
そう疑問に思っていると、ひよりが少し恥ずかしそうに頬をかいた。
「実はね、何度か話しかけようとしたんだけど、いつも周りに男子たちがいたから……」
「ああ……」
なるほど。あいつらがいるときに話しかけようとしていたのか。
確かに、あいつらは俺を見つけると、何かとからかってきた。そんな状況で話しかけるのは難しかっただろう。
「ごめんね。もっと早く話しかければよかったんだけど」
「いや、そんなことないよ。気にしないで」
俺は慌てて首を横に振った。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「うん。神代くんと、もっとお話ししてみたいなって思って」
「俺と?」
「うん! それに、エイモアちゃんのことももっと知りたいし!」
ひよりはエイモアの方を向き、にこりと笑った。
「エイモアちゃんって、すごく不思議な子だよね。見た目も可愛いし、話し方も大人っぽいし」
「そうかしら?」
「うん! それに、神代くんのことをすごく大切にしてるんだなって思ったよ」
「当然よ。連様は私にとって大切な方だもの」
エイモアは迷うことなく答えた。
その言葉に、ひよりは目を輝かせた。
「わぁ! やっぱり仲良しなんだね!」
「まあ、そうだな」
俺がそう答えると、エイモアも嬉しそうに頷いた。
「ふふっ。そうですね」
「ねえ、二人はいつも一緒にいるの?」
「ええ。私は連様のそばにいるわ」
「そっか! いいなぁ。私もそんなふうに仲良くなれる友達がほしいな」
「ひよりさんなら、きっとできると思うわ」
「本当? ありがとう、エイモアちゃん!」
ひよりは嬉しそうに笑った。
そのとき、校内に昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。
「あっ、もう終わりだ! そろそろ教室に戻らないとね」
「そうだな」
「二人とも、一緒に戻ろう?」
「ああ。もちろん」
俺たちは屋上を後にした。
階段を下りながら、ひよりは学校のことや授業のことをいろいろと話してくれた。俺はそれに答えながら、今までとは違う時間を過ごしていることを実感していた。
教室に戻ると、ひよりは自分の席へ向かう前に、こちらを振り返った。
「またあとでお話ししようね!」
「ああ。またな」
ひよりは笑顔で手を振り、自分の席へ戻っていった。
「よかったわね、連様」
「ん? 何が?」
「新しいお友達ができたのでしょう?」
「友達……か」
俺はひよりの後ろ姿を見つめた。
まだ、友達と呼べるほど仲良くなったわけではないかもしれない。それでも、これから少しずつ話していけば、そうなれるかもしれない。
「そうだな。これから仲良くなれたらいいな」
「ええ。きっと大丈夫よ」
エイモアは優しく微笑んだ。
昨日までの俺には、こんな学校生活が待っているなんて想像もできなかった。
だけど、今は少しだけ楽しみになっている。
俺の隣にはエイモアがいて、新しく話しかけてくれる人もできた。
これから少しずつ、俺の毎日は変わっていくのかもしれない。




