第3話「エイモア、はじめての登校」
翌日、俺とエイモアは朝食をとっていた。
「これが、パンなのね。初めて見るわ」
エイモアがそんな言葉を口にした。
「初めてなのか? というか、召喚?される前はどこにいたんだ?」
「それは教えられないわ。秘密だもの。今は教えられないわ」
エイモアは指を口元に当てた。
「そうか」
まだまだ知らないことだらけだな。それに、『今は』か。
「いつか、教えてくれるのか?」
「ええ、時が来れば、お教えしますよ」
エイモアは微笑みながら答えた。
「……まあ、楽しみにしておくよ」
俺はそう言って、パンを口に運んだ。
その後も、エイモアは初めて見る料理に興味津々だった。母さんもそんなエイモアを見て、嬉しそうにしている。
「エイモアちゃん、おかわりはいる?」
「ありがとうございます。いただきます」
(……すっかり馴染んでいるな)
そんなことを考えながら、俺は朝食を食べ終えた。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
エイモアも手を合わせる。
「それじゃあ、連。そろそろ学校に行く時間じゃない?」
「ああ、そうだな」
俺は立ち上がり、登校の準備を始めた。
すると、エイモアも椅子から降りて、俺の方へ近づいてくる。
「連様、私も一緒に行きますね」
「……え?」
思わず聞き返した。
「だから、私も連様と一緒に学校へ行きます」
「いやいや、ちょっと待て。エイモアは学校に行く必要なんてないだろ?」
「どうして?」
「どうしてって……」
俺は言葉に詰まった。
確かに、エイモアは俺が生み出した神様だ。けれど、学校に通う理由はないはずだ。
「それに、学校にはいろいろな人がいるんだ。エイモアみたいな子がいたら、目立つだろ?」
「ふふっ。それなら問題ないわ」
「何が問題ないんだ?」
「私は連様のそばにいたいの。それに、連様が普段どのような場所で過ごしているのかも気になるわ」
エイモアはそう言って、にっこりと微笑んだ。
「……」
どうやら、行く気満々らしい。
「連、いいじゃない。エイモアちゃんも一緒に行きたいみたいだし」
母さんまでそんなことを言い始めた。
「母さんまで……」
「ふふっ。学校のお友達にも紹介してあげたら?」
「いや、友達なんて……」
言いかけて、俺は口を閉じた。
学校に友達と呼べる人はいない。
「連様?」
エイモアが不思議そうに俺を見上げている。
「……分かったよ。一緒に行こう」
結局、俺は渋々ながらも了承することにした。
「ふふっ。ありがとう、連様」
エイモアは嬉しそうに微笑んだ。
「ただし、学校ではあまり目立つことはしないでくれよ?」
「ええ、分かったわ。善処するわね」
(……本当に大丈夫だろうか)
俺は少し不安になりながら、家を出た。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい! 二人とも気をつけてね!」
母さんに見送られ、俺とエイモアは学校へ向かった。
「ここが連様の通っている学校なのね」
「ああ、そうだよ」
通学路を歩きながら、エイモアは周囲を興味深そうに見回していた。
「人がたくさんいるわね」
「まあ、朝だからな。みんな学校や仕事に向かっているんだよ」
「そうなのね」
エイモアは納得したように頷いた。
そのとき、すれ違った女性たちの声が聞こえてきた。
「ねえ、あの子かわいくない?」
「本当だ。お人形さんみたい」
「隣にいる男の子の妹さんかな?」
(……やっぱり目立つよな)
俺は思わず苦笑した。
エイモアはそんな視線を気にする様子もなく、俺の隣を歩いている。
「連様?」
「いや、何でもない」
「そう?」
さらに歩いていると、今度は同じ制服を着た生徒たちとすれ違った。
「あれ、あの子ってうちの学校の生徒じゃないよな?」
「見たことないけど……誰だろう?」
「めちゃくちゃかわいくないか?」
そんな声が聞こえてくる。
(頼むから、あまり注目しないでくれ……)
俺は心の中でそう願った。
一方、エイモアは楽しそうに周囲を見ている。
「ふふっ。賑やかな場所ね」
「そうだな……」
そんな会話を交わしながら、俺たちは歩き続けた。
そして、しばらくすると見慣れた建物が見えてきた。
「あれが学校だ」
俺は目の前の建物を指差した。
「まぁ! あれが連様の通っている学校なのね!」
エイモアは目を輝かせながら、校舎を見上げた。
「ああ。ここが俺の通っている学校だよ」
こうして、俺とエイモアは学校へと到着した。
「なんという名前なのでしょう」
エイモアは首を傾げた。
「そこに書いてあるだろう」
俺は校門の柱を指差す。
そこにある看板には『天ノ宮学園』と書かれていた。
「スキル保持者の育成を掲げてはいるが、スキルの優劣が激しくてな。力が弱いと、簡単に虐げられる」
俺は静かに拳を握る。
「問題ないわ。そんな人間、私の権能で生物ですらなくしてあげるわ」
今、何か怖いことを言った気がするので、聞かなかったことにした。
「とにかく、まずは手続きだな。エイモアのことを先生たちに伝えないと」
「分かったわ。行きましょう」
エイモアが先に進んでしまう。
「おい、場所知らないだろ」
俺はその後をついて行く。
俺は職員室に着くと、先生にエイモアのことやスキルのことを話した。
「なるほど、分かった。その子のことを学園のスキルに登録しておこう」
「ありがとうございます」
俺はお辞儀をした。
「いや、当たり前のことさ。学生によるスキルの優劣をなくすのも先生の務めなのに、遂行できずにいるしな。お前にも悪いことをしていると思っている。すまない」
そんなことを思っていたのか。
「いや、別にいいさ。過ぎたことだしな」
先生との話を終えた俺たちは、職員室を後にした。
「それじゃあ、教室に向かうか」
「ええ。連様の教室、楽しみね」
エイモアは嬉しそうに微笑んだ。
「そんなに楽しみか?」
「もちろんよ。連様が普段どのような場所で過ごしているのか、ずっと気になっていたもの」
「……あまり期待しない方がいいぞ」
俺は少し苦笑しながら、廊下を歩き始めた。
校舎の中には、すでに多くの生徒たちがいた。
「ねえ、あの子誰?」
「見たことないけど、転校生かな?」
「隣にいるのって神代じゃないか?」
そんな声が聞こえてくる。
(やっぱり目立つよな……)
俺は小さくため息をついた。
一方、エイモアは周囲の視線など気にする様子もなく、楽しそうに廊下を見回していた。
「ふふっ。たくさんの人がいるのね」
「まあ、学校だからな」
「皆さん、同じ服を着ているのね。これは制服というものかしら?」
「ああ、そうだよ」
「なるほど。面白いわね」
エイモアは興味深そうに自分の服を見下ろした。
そんな会話をしながら歩いていると、前方から数人の男子生徒が歩いてくるのが見えた。
「あ……」
俺は思わず足を止めた。
見覚えのある顔。昨日、俺を馬鹿にしていた男子たちだった。




