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Despair  作者: まぐろこわい
序章
5/11

圧倒的な力

一年後。

僕は十六歳になっていた。

この世界では成人として扱われる年齢らしい。

つまり、自立して生きることを許される歳だ。

もっとも、僕にとって年齢など最初から大した意味はない。精神だけなら、とっくの昔に老人を通り越している。だが、それでも“自由に動ける”というのは都合が良かった。

そして――。

「……そろそろ、いいか」

森の奥で一人、僕は静かに呟いた。

目の前には、半壊した岩山がある。

いや、正確には“かつて岩山だったもの”だ。

数分前までそこには高さ数十メートル級の岩塊が存在していた。だが、僕が魔力を圧縮し、放出した瞬間、轟音と共に崩壊した。

粉々になって。

まるで最初から存在しなかったかのように。

吹き荒れる土煙の中で、僕はゆっくりと息を吐く。

「はは……」

乾いた笑いが漏れた。

正直、自分でも笑えてくる。

ここまで来るとは思わなかった。

この十年間、僕は狂ったように鍛え続けた。

魔法。

体術。

身体強化。

魔力制御。

寝る時間すら惜しみ、肉体が壊れても回復魔法で無理やり動かし、限界を超えてはさらに限界を塗り替え続けた。

その結果。

僕は悟ってしまった。

――自分には、限界がない。

最初は偶然かと思った。

だが違う。

鍛えれば鍛えるほど、魔力総量は増え、身体能力は上昇し、成長速度すら加速していく。

普通ならどこかで頭打ちになる。

才能にも器にも上限はある。

だが、僕にはそれが存在しなかった。

どれだけ強くなっても、その先がある。

底がない。

「……気味が悪いくらいだ」

そう呟きながら、自分の掌を見る。

魔力が脈動している。

まるで心臓のように。

前世の僕ですら、ここまでではなかった。

《Torturer》として生きていた頃の僕は、確かに最強だった。だが、あれはあくまで“人間としての最強”だ。

しかし今の僕は違う。

既に人間という枠組みから外れ始めている。

おそらく今なら、前世の僕を素手で殺せる。

それほどの差があった。

だからこそ、僕は思ったのだ。

――もういいだろう、と。

もちろん、まだ強くなれる。

きっと十年後の僕は、今の僕より遥かに強い。

百年鍛え続ければ、本当に世界そのものを壊せるかもしれない。

だが。

「いつまでも引きこもって修行してるのも、さすがに馬鹿らしい」

思わず苦笑する。

世界への復讐を掲げておきながら、森の中で延々と筋トレしているだけでは意味がない。

力というものは、実戦の中でこそ完成する。

血。

殺意。

恐怖。

命の奪い合い。

そういったものの中でしか、人間は本当に研ぎ澄まされない。

それは前世で嫌というほど理解していた。

だから僕は決めた。

村を出る。

王都へ行く。

この狭い村では、もう学べるものがない。

世界を知る必要がある。

権力を知る必要がある。

強者を知る必要がある。

そして必要なら――壊す。

「……あとは実戦だ」

夕焼けに染まる森の中、僕は静かに呟いた。

胸の奥が僅かに高鳴っている。

期待。

高揚。

あるいは、獲物を前にした捕食者の本能か。

前世の僕は、組織を作るまでに時間がかかった。

力を得るまでに、多くを失った。

だが今世は違う。

僕には最初から記憶がある。

技術がある。

経験がある。

そして何より――圧倒的な力がある。


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