圧倒的な力
一年後。
僕は十六歳になっていた。
この世界では成人として扱われる年齢らしい。
つまり、自立して生きることを許される歳だ。
もっとも、僕にとって年齢など最初から大した意味はない。精神だけなら、とっくの昔に老人を通り越している。だが、それでも“自由に動ける”というのは都合が良かった。
そして――。
「……そろそろ、いいか」
森の奥で一人、僕は静かに呟いた。
目の前には、半壊した岩山がある。
いや、正確には“かつて岩山だったもの”だ。
数分前までそこには高さ数十メートル級の岩塊が存在していた。だが、僕が魔力を圧縮し、放出した瞬間、轟音と共に崩壊した。
粉々になって。
まるで最初から存在しなかったかのように。
吹き荒れる土煙の中で、僕はゆっくりと息を吐く。
「はは……」
乾いた笑いが漏れた。
正直、自分でも笑えてくる。
ここまで来るとは思わなかった。
この十年間、僕は狂ったように鍛え続けた。
魔法。
体術。
身体強化。
魔力制御。
寝る時間すら惜しみ、肉体が壊れても回復魔法で無理やり動かし、限界を超えてはさらに限界を塗り替え続けた。
その結果。
僕は悟ってしまった。
――自分には、限界がない。
最初は偶然かと思った。
だが違う。
鍛えれば鍛えるほど、魔力総量は増え、身体能力は上昇し、成長速度すら加速していく。
普通ならどこかで頭打ちになる。
才能にも器にも上限はある。
だが、僕にはそれが存在しなかった。
どれだけ強くなっても、その先がある。
底がない。
「……気味が悪いくらいだ」
そう呟きながら、自分の掌を見る。
魔力が脈動している。
まるで心臓のように。
前世の僕ですら、ここまでではなかった。
《Torturer》として生きていた頃の僕は、確かに最強だった。だが、あれはあくまで“人間としての最強”だ。
しかし今の僕は違う。
既に人間という枠組みから外れ始めている。
おそらく今なら、前世の僕を素手で殺せる。
それほどの差があった。
だからこそ、僕は思ったのだ。
――もういいだろう、と。
もちろん、まだ強くなれる。
きっと十年後の僕は、今の僕より遥かに強い。
百年鍛え続ければ、本当に世界そのものを壊せるかもしれない。
だが。
「いつまでも引きこもって修行してるのも、さすがに馬鹿らしい」
思わず苦笑する。
世界への復讐を掲げておきながら、森の中で延々と筋トレしているだけでは意味がない。
力というものは、実戦の中でこそ完成する。
血。
殺意。
恐怖。
命の奪い合い。
そういったものの中でしか、人間は本当に研ぎ澄まされない。
それは前世で嫌というほど理解していた。
だから僕は決めた。
村を出る。
王都へ行く。
この狭い村では、もう学べるものがない。
世界を知る必要がある。
権力を知る必要がある。
強者を知る必要がある。
そして必要なら――壊す。
「……あとは実戦だ」
夕焼けに染まる森の中、僕は静かに呟いた。
胸の奥が僅かに高鳴っている。
期待。
高揚。
あるいは、獲物を前にした捕食者の本能か。
前世の僕は、組織を作るまでに時間がかかった。
力を得るまでに、多くを失った。
だが今世は違う。
僕には最初から記憶がある。
技術がある。
経験がある。
そして何より――圧倒的な力がある。




