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Despair  作者: まぐろこわい
序章
4/11

虫けら

そこからさらに九年。

僕は十五歳になっていた。

この世界に転生してからというもの、僕は一度たりとも鍛錬を止めていない。むしろ年齢を重ねるごとに、その量も質も異常になっていった。

もっとも、その成果を誰かに見せびらかすような真似はしなかったけれど。

「力を誇示するのは三流だけだ」

それは前世で嫌というほど学んだ教訓だった。

どれほど強大な存在でも、目立てば監視される。

監視されれば対策される。

そして最後には、必ず群れに潰される。

僕はそれを知っている。

実際、前世の僕――《Torturer》が敗北した最大の理由もそこだった。力を持ちすぎたことで世界そのものに認識され、時代に追い詰められた。

だから今世では違う。

僕は力を隠した。

村では適度に失敗し、適度に怠け、適度に“普通”を演じた。

木剣の訓練でも、わざと打ち負ける。

魔法も火花程度しか見せない。

「レオ、お前ほんと器用貧乏だよな」

村の少年に笑われた時など、内心では少し愉快だった。

器用貧乏?

違う。

お前たちが弱すぎて、僕が手を抜いているだけだ。

もちろん、そんなことを口にするほど愚かではないが。

僕は表では平凡を装いながら、裏では狂気じみた鍛錬を続けていた。

魔力操作。

身体強化。

感覚拡張。

近接格闘。

殺傷技術。

さらに、前世の記憶も徹底的に掘り起こした。

暗殺技術。

人体構造。

戦闘心理。

効率的な殺傷法。

最初の頃は断片的だった記憶も、年齢を重ねるごとに鮮明になっていく。

「ああ、そうだったな」

夜の森で木を殴り砕きながら、僕は時折そんなふうに呟く。

「僕はこうやって、人を壊していた」

妙に懐かしかった。

そして、この九年間で特に役立ったのが、“観察”だ。

この村には時折、近隣領地の騎士団らしき連中が訪れる。

治安維持だの魔物討伐だのを名目にしているが、実際は半分以上が税の徴収と権力誇示だ。

鎧を鳴らしながら村を歩く様子は、前世の警察や軍隊と大差ない。

だが、僕にとって重要なのはそこではなかった。

僕は彼らの動きを観察した。

呼吸。

重心移動。

剣筋。

視線。

筋肉の使い方。

一つ残らず盗んだ。

そして理解した。

「……非合理的すぎる」

この世界の武術は、驚くほど無駄が多かった。

動作が大振りだ。

力任せだ。

隙が多い。

騎士たちは皆、“型”に縛られている。

もちろん一般人から見れば強いのだろう。実際、村人たちは彼らを英雄のように見ている。

だが、僕からすれば欠陥だらけだった。

「そんな振り方じゃ、首を落とす前に殺される」

思わず口に出た時は、自分でも笑ってしまった。

前世の僕は、もっと効率的だった。

もっと合理的だった。

もっと洗練されていた。

だからだろう。

十五歳になった今、僕は既に理解していた。

――僕は、一般の騎士より遥かに強い。

いや。

“強い”なんて生易しい話じゃない。

もはや比較にすらならなかった。

虫けらだ。

僕にとって、この世界の騎士団など、その辺を這っている虫と同程度の脅威でしかない。

本気を出せば、一瞬で全員殺せる。

それも、息をするより簡単に。

「……随分差がついたな」

森の奥で木剣を振りながら、僕は静かに呟いた。

理由は単純だ。

この世界の人間は、あまりにも鍛錬不足だった。

僕は幼少期から、死ぬ気で魔法を練習してきた。

毎日、限界まで魔力を絞り出し、気絶し、回復したらまた鍛える。

その繰り返し。

一方で、この世界の連中は才能だの血筋だのに胡座をかいている。

差が開くのは当然だった。

だが、それでいい。

むしろ都合がいい。

僕の敵は人間ではない。

世界そのものだ。

ならば、人間相手に苦戦している暇などない。

もっと強くならなければならない。

もっと壊れなければならない。

この程度で満足していては、また前世と同じ結末を迎えるだけだ。

「次は負けない」

誰に聞かせるでもなく呟きながら、僕は掌に魔力を集める。

瞬間。

圧縮された魔力が暴風のように周囲へ放出され、森の木々が一斉に軋んだ。

鳥たちが悲鳴のような鳴き声を上げ、空へ逃げていく。

その光景を眺めながら、僕はゆっくり笑う。



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