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Despair  作者: まぐろこわい
序章
3/11

決意

僕は昔から、不運だった。

そう言うと、多くの人間は「そんなことない」と適当な慰めを口にする。

だが、僕の場合は違う。比喩でも誇張でもなく、本当に、生まれた瞬間から世界そのものに嫌われていた。

僕を産んだ直後、母親は死んだ。

物心ついた頃にはその事実を聞かされていたが、不思議と悲しみはなかった。顔も知らない人間を愛せと言われても無理な話だ。ただ、その話をする周囲の大人たちの目には、いつも奇妙な色が浮かんでいた。哀れみとも違う、もっと薄気味悪いもの。まるで、「この子は何かおかしい」とでも言いたげな目だった。

そして父親は、その数年後に自殺した。

理由は知らない。借金だったのか、絶望だったのか、それとも僕の存在そのものが耐えられなかったのか。

まあ、どれでもよかった。

祖父母は既に死んでいたため、僕は叔父夫婦に引き取られることになった。もっとも、“保護”という言葉から想像するような温かさは一切存在しなかったが。

「お前、飯食ったのか? 誰の金で?」

酒臭い息を吐きながら叔父が怒鳴る。

答えるより早く、頬に鈍い衝撃が飛んできた。

叔母は叔母で、僕を見るたび露骨に顔を歪めた。

「本当に気味悪い子……」

そう吐き捨てながら、冷えた味噌汁と固くなった米を机に置く。

子供ながらに理解していた。僕は家族ではない。ただ“仕方なく置かれている異物”なのだと。

だが、僕の不運はそんな家庭環境程度では終わらなかった。

サイコロを振れば一が出る。

じゃんけんをすれば、ありえないほど連敗する。

外を歩けば鳥の糞が頭に落ち、急いで走れば段差もない場所で転倒して骨を折る。

「っ……はは」

病院の白い天井を見上げながら、僕は笑っていた。

骨折したと思ったら、その検査のついでにマイコプラズマ肺炎まで見つかったのだ。

ここまで来ると、もう笑うしかない。

「なんなんだろうな、本当に」

泣きっ面に蜂、なんて言葉では足りない。

蜂に刺されたあと崖から突き落とされ、下で待っていた熊に噛み殺されるレベルだ。

僕は気づいてしまった。

――ああ、この世界は僕を不幸にするためだけに存在しているんだ、と。

だから、運というものを信用するのをやめた。

幸運を期待するから裏切られる。

偶然に頼るから叩き潰される。

ならば必要なのは、運をねじ伏せるだけの“実力”だ。

僕は勉強した。

身体を鍛えた。

人を観察した。

どうすれば相手が怯えるのか、どうすれば支配できるのか、どうすれば壊れるのかを徹底的に学んだ。

その頃だった。

僕は、“復讐”という言葉を知った。

不思議なほど、その響きは僕の中へ自然に溶け込んだ。

復讐。

なんて美しい言葉なんだろう、と思った。

では、僕は誰に復讐すればいい?

いつも僕を殴っていた叔父か。

冷たい視線を向け続けた叔母か。

違う。

違うのだ。

そんなものは枝葉に過ぎない。

僕をここまで歪めたのは、もっと巨大で、もっと根源的な存在だった。

――この世界そのものだ。

生まれた瞬間から僕を呪い、嘲笑い、何もかも奪い続けた理不尽。

それが僕の敵だった。

だから僕は組織を作った。

Executor。

人の憎悪を集め、悪意を現実へ変えるための組織。

復讐者たちの居場所。

そして、僕自身が世界へ叩きつける呪詛だった。

僕は多くの人間を殺した。

悲鳴を聞いた。

絶望を見た。

壊れていく顔を眺めながら、心の底から笑った。

なぜなら、その瞬間だけは、この世界に傷を付けられている気がしたからだ。

だが、結局。

僕は敗北した。

どれだけ力を積み上げても、世界そのものには届かなかった。

時代は進み、僕は老い、世界は僕を飲み込んだ。

処刑台へ向かう時、不思議と恐怖はなかった。

むしろ、美しかった。

死とは、こんなにも完成された瞬間なのか、と感動すら覚えたほどだ。

「美しく殺してくれ」

そう言った時、看守は奇妙な顔をしていた。

理解できなかったのだろう。

だが、僕は満足していた。

首に縄が掛けられ、床が外れ、肉体が軋む。

意識が暗闇へ沈みながら、僕は笑っていた。

及第点だ。

敗北にしては、美しい終わりだった。

……けれど。

終わりじゃない。


終わるものか。

たとえ魂がどこへ流れ着こうと、たとえこの意識が別の世界へ落ちようと、僕の決意だけは変わらない。

僕は必ず復讐を果たす。

元の世界に。

僕を生まれた瞬間から呪い続けた、この理不尽そのものに。



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