61話〜
街の中心に建つラスレンダールの塔。
高さは10m程、他の塔に比べるといく分か太い。
装飾の無いシンプルな見ため。
年季を感じさせる黒ずんだ外壁をしているが何処も朽ちて崩れている場所はない。
その佇まいは荘厳さと厳めしさを漂わせている。
他の塔と違い、1階部分が開放されておらず簡素な木製の扉がひっそりと塔を塞いでいた。
バーンダーバがドアノブに手をかけて回すとあっさりと開いた、中は螺旋階段が上と下に続く以外は机と椅子が一組あるだけのガランとした雰囲気だ。
その一組の椅子には腰に剣を下げただけで他になんの装備もしていない男が腰かけていた。
バーンダーバに気づくと机の上の本から顔を上げて眠たそうな目で見る。
「珍しいな、冒険者か?」
「あぁ、迷宮に入りたいんだが」
男はバーンダーバとセルカの後ろを覗き込むように見る。
「二人か?」
「そうだ」
「二人とは珍しいな、しかもそっちはグルマじゃないか?」
セルカを指差して変な物を見るような顔をする。
「うむ、非常に優秀なポーターだ。 冒険者は戦うだけが能では無いからな、分かるだろう?」
「そうか、ま、構わないがこの迷宮は入手した素材の2割を無償で渡してもらうことになるがそれでもよろしいかね?」
椅子に座ったまま、男は指を2本立てて見せる。
「それは聞いた、踏破した場合も2割は持っていかれるのか?」
「踏破? 本気で言ってるのか?」
「無論だ」
バーンダーバの表情を見て、本気だと思った男は「ふっ」と笑う。
「その場合は前例が無いから分からんな、ま、同じ2割で間違いないだろうが」
男は肩をすくめる。
「踏破すりゃあ相当な量の素材が出るはずだ、その場合は取り分を1割にしてもらえたりはしないか?」
セルカが話に入ると男は明らかにバカにしたような顔になる。
「さあな、俺にそんな事を決める権限はねーよ」
「分かった、では迷宮に入らせてもらおう」
バーンダーバが下へ降りる階段に向かう。
「名前を聞いてもいいか」
「私はバンだ」
「俺は」
「いや、グルマの名前は必要ない」
セルカが名乗ろうとすると聞いていないとばかりに手を振った。
「なんのために名前を聞いたのだ?」
バーンダーバが少し語気を強くする。
「入った人間を把握しておくためだ、素材を持ち逃げされんようにな」
男は悪びれもせずに肩をすくめて答えた。
「そうか、分かった。 私の名前はしっかり記録したな?」
「あぁ、もちろんだ」
「では行くとしよう」
バーンダーバは男に一瞥すると螺旋階段を下っていく。
「バン、気が立ったまま迷宮に入ると痛い目みるぜ」
言われてバーンダーバはピタリと立ち止まった。
「そうだな、すまない。 ではセルカ、前方を頼めるか?」
「まかせな」
「敵は私が全て仕留める、セルカは罠と道だけに注意してどんどんと先へ進んでくれ」
「分かった、キツくなったら隠さずに言ってくれ。 頼むぜ?」
「セルカの命も預かるんだ、無茶はせん」
「それじゃ、行こう」
セルカと立ち位置を交代して階段を下りると1階部分よりも一回り小さい空間の中心にぽっかりと穴が開いている。
穴のふちに行くと土を削り出したような階段がずっと下まで続いていて底は暗くなって見えない。
セルカが鞄から松明を出して火をつけた。
目顔だけで合図をしてセルカがゆっくりと迷宮に続く階段に足をかける。




