60話〜
「それじゃ、行こう。 先ずはラスレンダールで物資の調達だな」
飛び立ったロゼを見送ってセルカが街に向かって歩き出す。
「セルカ、今回の迷宮の探索に関しては最短で行きたい」
「そうだな、必要なのは金貨35000枚って考えたら踏破することが前提だもんな。 それなら、途中の魔物を倒した素材は全部無視して先へと進むか」
「うむ、それに、1度入ってわかったが迷宮は魔力濃度が濃いから私は食事は必要ない。 セルカの食料だけにしよう、それで荷物も大分減るはずだ」
「食料いらないってどういう事だ?」
「魔界には食料がほとんど無い、魔族の慢性的な食料難をどうにかしていたのは有り余るほど満ちていた魔力だ。魔族は大気中の魔力を吸収して肉体を形成して生き永らえていた、だから私の食料は大丈夫だ」
「そんなに魔界は食物が無いのか?」
「うむ、あるのは屍体に生える死を呼ぶ草という植物と数少ない魔物くらいだ」
「でも、バンは毎日メシ食ってんじゃん」
「もちろんだ、食べなくても生きられるが食べれるなら食べたい。 それに、現界は魔力濃度が低い。 流石にずっと食事抜きでは参ってしまう」
「すげぇな魔族。 ずっとって、どれくらい耐えれるんだよ?」
「フェイに会う前に数年間は現界をさ迷っていたはずだ、まぁ、その間は空腹を感じる程に思考が動いていなかった気もするが・・・」
「ふーん、魔力が濃かったら腹も空かないのか?」
「いや、空腹感はずっとある。 あの空腹感が満たされる感覚は何度味わっても良いものだ」
「そっか、なんか、バンがいっつもメシをやたら旨そうに食べてる理由が分かったな」
「そうか?」
「あぁ、初めて迷宮に一緒に入ったとき、こんなに保存食を旨そうに食うやつは見たことねーなって思ったよ」
セルカは水分をとばした保存食や、やたら身が詰まってるモソモソとしたパンを思うと迷宮に潜るのが少し憂鬱になる。
それをバーンダーバは実に旨そうに食べていた。
「食わなくて支障は無いのか?」
「それに関しては問題ない」
「そっか、なら、バンの言う通りにしよう」
ラスレンダールに入り、迷宮に潜る為の食料を買い込んだ。
デールに渡した金貨の余りが数枚だが残っていたのでそれで買い物を済ませた。
「そういや、ここの迷宮ってなんにも知らねーな」
食料を鞄に積めながらセルカが思い出したように言った。
「そうなのか、どこにあるんだ?」
「ラスレンダールにあるとしか聞いたことねーな、何階層なのかもわかんねー。 ここって魔法使いが幅きかしてるからさ、迷宮から持ち出した物に余計にふっかけられるんだよ。 だから冒険者もあんまり入りたがらない」
「ふむ、誰かに聞いてみよう」
バーンダーバが今しがた食料品を買い込んだ店に戻っていく、セルカが早足で後を追いかける。
「すまない店主、この街にある迷宮がどこにあるか教えてもらえるか?」
頭にぴったり張り付くような帽子を被った店主が顔を上げてバーンダーバを見る。
「珍しいな、冒険者か?」
「あぁ、そうだ。 ラスレンダールの迷宮に入ってみたくてな」
「ここにゃあ冒険者ギルドが無いから滅多にあの迷宮に入る奴はいないからなぁ、入口も知られて無いのか」
「それで、どこに入口が?」
「ラスレンダールの塔の地下だよ、一応誰でも入れるけど出たときに素材の2割を持っていかれる。 その上にここらで素材を売ろうと思ったらかなり買い叩かれるからあんまり金にはならないぞ?」
バーンダーバとセルカは顔を見合わせた。
「素材の2割を持っていかれるっていうのはどういう事だ?」
「ラスレンダールの迷宮はこの街の評議会が管理してるんだ、強突張りな魔法使いの考えそうな事さ」
それを聞いたセルカが「うーん」と唸る。
2割とは想像以上だ。
迷宮の遺物が白金貨100枚になるとして、金貨に換算すれば10000枚。
必要と思われるのは金貨35000枚、迷宮を踏破した後の素材がどの程度の量でどの程度の値段になるか分からない。
その上、素材を2割持っていかれる。
それだと迷宮を踏破しても1000人が半年暮らしていけるか分からない。
「何階層かは分かりますか?」
「確か7階層だったはずだ、勇者アルセンが最下層まで行って戻ってきたらしい」
思わぬところで勇者の名前が出てセルカとバーンダーバは顔を見合わせた。
「ありがとう、助かった。 行こうセルカ」
バーンダーバが店を出て歩き始める。
「どうする? ここじゃ踏破しても必要な金額に足りないかも知れないぜ?」
「考えていても仕方ない、踏破して足りなかったらまた考えよう」
二人はこの街で最も古い塔へ向かって歩いた。




