第54話 罠
すみません、遅くなりましたっ!
派手な音と共に現れたのは……空?
「え?」
急激に襲う浮遊感、そして重力に引かれて落ちていく感じ。
う、私フリーフォール系苦手なんだけどな……。
とか言ってる場合じゃない。
これ、私死ぬんじゃなかろうか?
でも一回は死んでるから大丈夫?
うーん、だとしても……痛いのはやだなぁ。
「で?
何してるんです? 弥勒さま?」
あまりに長い浮遊感に違和感を覚えふと横を見ると、やはりそこにはふよふよと浮かぶちびっちゃい弥勒さま(ことミニろくさま)が。
「あれ、何だもっとびっくりするかと思ったのに」
なんともつまらなさそうな顔でそんなことを言う。
「いや、世界が割れた時点でなんとなく察してましたから」
2回めですし。
しかし、千代ちゃんの里で認識阻害を破った時もそうだけど……
「なんでこういう時ってガラスが割れる感じになるんだろう」
「それは、螢子ちゃんのイメージだね」
「ふむ、なるほど……って、心を読まないでください」
「人を盗聴犯みたいに言わないでくれるかな?」
「だってそうじゃないですか」
「いやいや、今のは螢子ちゃんが口に出してたんだしね?!」
「え? すみません、風の音が強すぎてよく聞こえませんでした」
ミニろく様のおかげで落下自体は止まったものの、いまだ空の上。
突然の突風に声がかき消される。
そうでなくても、吹き荒れる風で非常に聞こえづらいのに。
「ちょっと、絶対聞こえてるよね?」
「あー、ごめんなさいよく聞こえません」
「……螢子ちゃんのイメージってワンパターンだよね?」
「そういう小憎たらしい事言う口はこれですか!?」
むにーーーっとミニろく様のほっぺを引っ張る。
あ、これ気持ちいい。
「やっぱり聞こえてるよね!?」
「あー、とにかくこれじゃ会話にならないですし、何より寒いので場所変えませんか!?」
「……わかったよ!」
なんで微妙にふてくされてるんだろう?
ミニろく様に連れられて降りたのは、ポツンと建った倉庫のような建物。
地面は白い砂利で埋め尽くされ、建物の壁も白。
屋根だけが黒いけど……すごく熱を吸収しそうだなぁ。
まぁでも、なるほど。
ミルティ先輩の言ってたとおり、この白と黒の世界が本当の姿なんだな。
「入って」
全部白いせいでどこがドアか分からずにいたら、ミニろく様が開けてくれた。
開けてくれた、というか、壁に手をついたらぽかっと穴が空いた感じなんだけど。
どういう仕組みなんだろう……まぁいいか。
中に入ると、空いていた穴がすっと閉じる。
……実はこのミニろく様が偽物で、ここが監禁部屋だったら逃げようがないな……。
必要最低限のものしか揃っていないうえ、さらに白と黒しかないせいで妙に監獄っぽいんだよなぁ。
「安心してよ、ボクは本物だよ。
ここには天界からの干渉を防ぐ結界も張ってあるしね」
「えー、そう言って騙す気なんじゃないんですかー?」
ドヤった顔がイラッとしたので(あとちょうどいい高さにいたので)つんつん、とほっぺをつついてみる。
「やーめーろーよー」
「……うん、本物だな」
きゃっきゃ言うミニろく様を見て確信する。
すると、急に真面目な顔になったかと思うと(ほっぺはつつかれたまま)
「待って、その判断の仕方おかしい」
と。
「おかしくないですよー」
つんつん
「おかしいってばー」
つんつん
「そんなことないですよーー」
つんつん
「もー、やーめーろーよー」
もうね。
これで偽物ならそれでもいいかな。
「いや、それはダメでしょ!」
なんて思ってたら、すごく真っ当なツッコミをされてしまった。
うん、私もそんな気がします。
っと、いけない。
どうしても弥勒さまといるとすぐ漫才になってしまう。
これじゃいつまでも話が進まない。
「で、これどういうことなんですか?」
「……急に本題に入るのはいいけど、それならつつくのやめてくれないかな?」
「あ、すいません、つい」
どうもミニろく様のほっぺって気持ちよくて。
「やれやれ。
そうだねぇ、どう、と言われると説明しにくいんだけど。
簡単に言えば『天界向けの罠』に螢子ちゃんが見事ハマりこんだってとこだね」
「罠??」
「そう。
ボクの本体がね、ここに来た追っ手の『天界の力』に反応して発動する罠を張ったんだよ。
どういうものかというと、そいつ自身の力を利用して内側に仮想世界を作り出すってもの。
基本的な世界構造はここをベースにしてるんだけど、細かい所は罠にかかった者自身が不自然に思わないようにその都度調整されるんだよ」
「なんか、すごいですね……」
どうやら、私の『腕輪』が天界からの追っ手として認識されてしまった原因らしい。
千代ちゃんの里のミニろく様から情報伝達しといてほしかったけど、そういえば全部のリンクが絶たれてるとかなんとか言ってたな。
……てことは、次からも同じようなことが起こりうるってことか……。
「ねぇ、ミニろく様?
紫翡翠の眼って、こういう『認識阻害』系のものには強いと思ってたけど、なんでダメだったんですか?」
この二年間、結構色んなことを試してみた。
けれど、違和感を覚えることすらなかったのは、納得がいかない。
「だからさ、言ったろ?
螢子ちゃんが見ていたのは、ここをベースにしてはいるけど、螢子ちゃんが違和感を持たないよう、自分自身で調整し続ける世界。
『疑い』があって初めて違和感に気づけるものなんだよ」
「……つまり、あの世界の中では『自分で自分をひたすら騙すよう強制〔矯正?〕されてた』、ってこと?」
「うん、そうだね」
「あれ、でも、それならなんで真贋鑑定は全部に『YES』を返してきたんだろう?」
「4択までの物事になにが正解か判定するスキル、だっけか?
ある意味、あの空間の中では全部が正解だとも言えるからじゃないかな?
弥勒の力で作られたものでもあるしね」
うーむ。
「そういうことはもっと早く教えて欲しかったです」
「あっはっは、ごめんねぇ」
「もう、笑い事じゃないですよ」
まぁでも、そのおかげで天界は未だに手がかりすら掴めてないんだろうけど。
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