第51話 改変
「はぁい、天界王ちゃん、お久し~★
といってもワタシあなたが王になった姿見たことないんだけどね~★」
「まさか、お前だったとは、な……」
大量の血を流しながら、天界王は立ち上がる。
爪は刺さったままだ。
「あらあら、無理しちゃダメよ★
大人しく王の証を渡してくれたら、ちゃんと助けてあげるから★
それとも、死んじゃう★?」
「なるほど……。
事実が改変される前に、未来へ飛んだ、というわけ、か。
……ああ、そうか……だから、あの改変の言葉……」
「『今この時この世界において、王の証の能力について知るものは天界王を除いて存在しない』事実へ、でしょ★?
ワタシは『あの時』にも『あの世界』にもいなかった★
だから影響はないのよん★」
「どおりで……『未来永劫』という、文言を省かせた……わけだ」
「でも、み~んな納得したじゃない★?
どっちにしても、そ~んな曖昧な指定は通らないし、そもそもそれだけの力は誰にもないわよん★」
それは、王の証にかけられた制約。
あくまで道具であり『判断』をするのは使用者自身。
『証』が判断をしなければいけないような場合には作用しない。
また、使用者自身の生命力を消費するため『未来永劫』などという『常時発動型』の指定はできない。
無条件で何度でも何にでも発動させないための措置であり、クピュリレルが言い出し、全会一致で採用されたものだった。
「そう、だな……」
今にして思えば、全てこのための布石だったのだろう。
あの時すでに、この未来を作るために動いていたのだ。
「だが……ここで起こったこと、を、なかったことに……すれば……すむこと……」
「そうねぇ★
でも、『何を』なかったことにするのかしらん★?
ここで起こったこと、全部わかるのかしらん★?」
「わからない……。
だが……元凶である、貴様の存在は、否定……できる!」
すでに大量の血を流しすぎている。
これをなかったことにするには、すでに生命力が足りない。
なんにしろ、残った生命力では一つの改変がせいぜいだ。
ならば、この場をおさめるための改変を行うしかない。
「証よ、我が呼び声に答えよ。
俺の生命力の残り全てを使い、この時よりこの世界においてクピュリレル・ドレ・アの存在を認めない!」
天界王の掲げる『王の証』が激しい光を放つ。
「あ、あんた、馬鹿じゃないの!?
存在の否定なんてしたら、あなたの生命力なんてすぐになくなっちゃうわよ!?」
ここへ来て、初めて慌てた言葉を吐く。
「はっ、そんな、こと……。
わかって、るさ」
「信じられない!
いいわ、今は負けを認めてあげる!
けど、未来ではわからないわよ!」
「また未来に、逃げるか……」
時空の扉を開き逃げようとするクピュリレルに対し、天界王は動けない。
「せいぜい遠くまで逃げろよ……意外と、しぶといぜ、俺は……」
王の証の光が益々強くなっていく。
世界の改変が始まろうとしているのだ。
これが終わった時、もしまだこの時空にいたら存在を否定されたクピュリレルは改変に巻き込まれて消滅してしまう。
その時だった。
あまりの眩しさに眼を閉じた瞬間を狙い、虚空よりヴェイのナイフが投げられた。
それにより、クピュリレルは弥勒のスキルを時空の狭間に取り落としてしまう。
だが、それを取りに戻るわけにはいかない。
「くっ……覚えてらっしゃいっ!」
「これから死ぬってのに……無茶を……言う……」
◇
弥勒が目を覚ました時には全てが終わっていた。
まず最初に見たのは、何かによって腹に大きな傷を負い、大量の血と共に地面に倒れ伏す天界王だった。
「天界王!!」
痛む体をなんとか動かし駆け寄るも、すでに事切れていた。
「なんてこと……」
王の証の授与と共に壇上は煙に閉ざされたことまでは覚えている。
だがそれ以上は何も思い出せない。
何者かによって壁に叩きつけられスキルを奪われた『結果』はあるものの、過程がまるっと抜けている。
だが、今の弥勒はそのことに疑問を持つことはない。
『王の証』によってクピュリレルはその存在を否定された。
存在の否定、とは、単にその瞬間から彼がいなくなった、ということではない。
すべての事象において彼の存在が関わるもの全てが抹消されるということである。
存在そのものが否定されている以上、それの関わる過程に疑問を抱くことはない。
それこそが『王の証』による事実改変なのだ。
実際、弥勒が修行の中で天界大騒乱の際『王の証が使われたこと』を知るまでは、その可能性・不自然さに思い至りすらしなかったくらいだ。
それから600年。
当時の『作戦』に加担していたクジ・ファ・ア、シャル・ド・ネ、ヴェイ・クが突然姿を消し、同時に『王の証』そのものも失われていた。
理由は全くわからない。
天界王亡き今、『王の証』の真の力について知るのは弥勒のみ……のはずである。
だが、あの時と同様、今回の件にはそれを『知る者』が関わっているとしか思えない。
その頃を境にして、天界に妙な動きが見え始めたのも偶然の一致ではないだろう。
とはいえ、恐らくだがその『黒幕』の手に『王の証』が渡ったわけではなさそうだ。
もしそうならば、天界大騒乱の時のように『疑問を抱く』わけがないのだ。
(まぁ、仮に使われてたとしたら絶対わからないから、気休めでしかないんだろうけど)
その直後、弥勒の紫翡翠の眼は地球で螢子に融合することとなる。
(これも、偶然、なのだろうか……)
◇
――そして現在。
「王の証???」
「そそ、ついででいいからさ。
ボクの本体を探す時にちょっとだけ気にしててよ」
「いいですけど……。
どういうものなんですか?」
「見たらわかるよ、たぶん」
「写真とか、なんかそう言う感じのって……」
「ないよ?」
「……ですよねぇ……。
まぁ、あんまり期待はしないでくださいね」
「うんうん、よろしくー」
「はぁ……」
いまいち納得しかねる顔をしつつも、これ以上聞いても無駄だとわかっている螢子はそのまま洞窟を去っていった。
残されたミニろくこと弥勒の残留思念は、それを見送ると姿を消したのだった……。
これにて過去編終わりです。
また来週からは、螢子視点に戻ります♪
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