第34話 牢獄
★10/22 前話(33話)を改稿しています。再度そちらからお読み頂ければと思います。
★今回はミルティ視点でお送りします。
「螢子くん!? 螢子くん!!??
……途切れたか」
「恐らく意識を失ったのだろう。
安心しろ……とまでは言えないが、天界の狙いはホタルコに紫翡翠の眼を使わせることだからな。
危害を加えられることはない、はずだ」
「そうか……それだけでもまだマシか」
まさかこんなことになるなんて……。
気を抜いたつもりはなかったけど、襲撃が落ち着いていたことで油断があったんだと思う。
その隙をつかれてしまった、ってことよね。
いや、むしろそこまで待った、って言ったほうがいいのかもしれない。
天界人からしたら、1、2年なんて待つうちに入らないんだろうし。
それに……千代ちゃんに連絡がつかないのも気になる。
元々何か用事があるってことだったので、単に返事ができないだけならいいけど、彼らの仕業なのではないかと疑ってしまう。
あの子は強いから大丈夫だとは思うけど……嫌なタイミングだ。
「一つ、聞いていいアルか?
ホタルコの言っていた『敵性スキル』だの『逮捕』だの、ってのはどういうことアルか?」
どうにも重い沈黙が落ちる中、ファラスがいつもの調子で話し出す。
「ん? ああ、えっと……ファラスといったっけか」
「そうアル。
よろしくアル、フ局長どの」
「噂には聞いているよ。
能力課に変わったやつがいる、って」
「そんなに褒められると照れるアルよ」
なんとなく空気が変わった気がした。
こんな時にこういうヤツがいるとありがたい。
まぁ、あいつはそんなこと考えているわけではないんだろうけど。
「で、結局どういうことアル?
支配者の瞳が問題だった、ってことアルか?」
「半分正解といった所か。
正確には
『謁見の間』で『支配者の瞳』を使ったこと
が問題なんだ。
天界王が引退して以降、王宮自体が使われなくなっているので知らない者も多いが、『謁見の間』には王を害する行動を防止する結界が張ってあってな。
直接的な攻撃スキルはそもそも使えないんだが、今回のような間接的に害する可能性のあるスキルについては『審議』されることになっているんだよ」
「……つまり、1回めの赤い光が審議のためのものだった、ってことアルか。
で、その結果『王への敵対行動』と取られた、と」
「理解が早くて助かる。
まぁそういうことだ」
「となると、アル。
こちらのデータは全て敵に渡っていた、と考えてよさそうアルね。
その上で『捨て駒』を使って支配者の瞳を使わざるを得ない状況に追いこんだ、と。
黒幕サンは相当賢い人間アルな……」
「加えて、王宮に詳しくかつ出入りが可能な者、ってことだろうね」
ファラスの言葉をラビエン局長が引き継ぐ。
相当な大物が絡んできている、って考えてよさそうね……。
「天界50貴族の誰か、なのは間違いないだろうな。
……なんとなく心当たりはあるけど……あいつが相手なら尻尾を掴ませるようなことはしそうにないな……」
苦虫を噛み潰したかのような顔をするフ局長。
何か因縁でもあるんだろうか。
「まあでも、今はなによりも螢子くんをどう助けるか、だよ。
下手な犯人探しで刺激してもいいことないだろうからね!」
「うむ、もふもふの言う通りだ。
しかし……何がしたいのか、いまいちよくわからないな……」
「どういうことですか?」
「彼らの本当の目的が見えないんだよ」
フ局長によるとこうだ。
紫翡翠の眼を手に入れること、は恐らく手段であって目的ではない。
その上で、現状螢子ちゃんから分離する術については、ファラスとの研究の中でも全く判明していない以上、螢子ちゃんごと手に入れる必要があった、と考えられる。
また、精神支配系のスキルで操り人形にされた状態では本来の力が発揮できるかは未知数だ(さすがに実験するわけにもいかなかったし)。
長時間をかけての洗脳などによって自らの意思で使うよう仕向けることは可能みたいだけど……。
「そうして手に入れた後は?
それで、何をしようとしている??
『牢獄』へ入れては、結局何もできないではないか……」
「王宮のこと、少し調べてみるアルよ。
まだ何か秘密がある気がするアル!」
「そうだな、頼む。
少し落ち着いて考えたほうがよさそうだし、今日は一旦解散しよう。
何かあればすぐに報告を」
◇
螢子ちゃん拉致からすでに数日が過ぎていた。
同時に千代ちゃんも音信不通になったままだ。
嫌な予感が拭えない。
どうか、ふたりとも無事でいて!
連日、業務終了後に対策を練っているけど、なかなか進展しない。
ふと顔を上げて見回すと、フ局長もラビエン局長も目の下にはくっきりとクマができている。
ファラスはよくわからないけど、ふんわり感が足りないのは見てわかる。
今はここにいないけどクレィも手伝ってくれているし。
けど。
時間が経つほどに焦りが募っていく。
必死の作業に結果がついてこないのは精神的に堪える……。
なんとか、手がかりだけでも……!
「そうか……そういうことか!
わかったぞ! 奴らの狙いが!」
ファラスからの報告書を見ていたフ局長が突然叫ぶ。
「本当かい!?」
「間違いないと思う。
これを見てくれ!」
そう言って差し出された用紙には『謁見の間にて攻撃スキルを暴発させたものの処分について』と書かれていた。
「『牢獄』についての報告書だよ。
これまでの歴史の中で、実際に投獄された実績が見当たらなくてな。
ようやく見つけたのがこれだ」
「大変だったアル。
『どうすれば捕まるか』はいろんな所から情報が出てきたアルが、『捕まるとどうなるか』は全然情報がなかったアル」
「天界王は非常に人望があって、敵対勢力はほぼいなかったようでな。
まぁ、そういった奴らにしたって、わざわざ結界のある謁見の間で仕掛ける理由もないし。
こいつのような『うっかり』でもなければ捕まることもなかったみたいだ」
その報告書によると、処分内容は『奉仕活動』。
言葉だけ見れば平和な雰囲気だが、具体的には拒否権のない強制労働と見るのが正しそうだ。
厳密には拒否は可能だが、その場合は即処刑のため実質ないのと同じだ。
「これって……螢子ちゃんの拒否権をなくして何でもさせられる、ってこと?」
「そういうことだろう。
これならば『洗脳』など必要ない!!」
PRRRR……PRRRR……
「ん? クレィ?」
フ局長の通信端末から場違いに軽快な音が鳴る。
向こうで何かがあったんだ。
スピーカーモードにして、通話を受ける。
「どうした?」
『局長! 大変です!!
転移予定者がいないのに“転移ゲート”が開いているんです!!
しかも、場所は天界の『牢獄』付近!!
これ、もしかしてホタルコちゃんでは!?』
「なん……だと!?
……クレィ!! 転移先を死ぬ気で追え!!
絶対に見失うな!」
『は、はい!!』
「頼む!!」
ツー……ツー……
「くそっ、何もかも後手じゃないか!
頼んだぞクレィ……」
何もかも向こうの方が上手だ。
追いついたと思ったら、簡単に引き離される。
けど、突き放されるわけにはいかない。
腹立たしげに端末を机に叩きつけ、その表面を見つめながらうなだれるフ局長。
無数にある転移先を追えなければジ・エンドだ。
お願いクレィ!
私には、ただ端末を見つめ祈るしかできなかった。
みんなが一心に祈っていたその時――
「転移先なら、私がわかります……」
思ってもみない所から声がする。
え?
今まで誰もいなかった空間に突然あらわれる人影。
「千代ちゃん!!!」
いつもの和装メイド姿なのに、至ることころが破れ裂け、血に染まっていた。
「大丈夫!?」
慌てて駆け寄って支える。
「あはは……ちょっとドジっちゃい、まし……て…………」
そのまま気を失った。
服はボロボロだけど、出血は止まってるみたいで見た感じ傷も浅い。
ラビエン局長が駆け寄ってくる。
「命に別状はないようだね。
よし、バトルフォームで運ぶので、乗せてくれるかい?」
言うなり巨大化した局長の背中にそっと千代ちゃんを乗せる。
これ、螢子ちゃんが聞いたら羨ましがるだろうなぁ、なんて思いながら……。
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