第35話 裁判
★少し時間は遡り、再び螢子視点にて
謁見の間で気を失った私が次に気がついた時、全く知らない場所にいた。
まぁ、天界に知っている場所があるか、と言われると一箇所もないんだけど。
簡易のベッドに机とテーブル、簡易の水道やシャワーがあり、お手洗いはしっかりと個室になっている。
一切窓がなかったり、唯一の出入り口と思われる頑丈な鉄扉には取手がなく、郵便ポストくらいの隙間くらいしか外が見られなかったり。
そういうのがあからさまに『牢獄』感を出しているのを除けば、ワンルームのアパート、と言ってもいいくらいの部屋だ。
確か『逮捕』とか言ってたな。
詳しいことは何もわからないけど、良くないことが起こってるのは間違いなさそうだ。
この右手首にはまってる腕輪も気になるし。
一切なんの装飾もなく、ツルリとした金属製と思わしき腕輪。
くるっと回してみても継ぎ目が見当たらず。
なのに、ぴったりと隙間なく手首に巻き付いていて、どうやって取り付けられたのかがわからない。
ガチャ
『桜坂螢子、出ろ』
天井の光に透かしてなにか見えるかな? なんてやっていたら突然扉が開く。
と同時に聞こえる声。
さっきのアナウンスと同じ声に聞こえたけど……。
そっと扉から外を伺ってみるものの姿は見えない。
ふむ。
なるほど、今度は姿を見せない事で紫翡翠の眼対策、ってわけか。
外に出ると左右に長い長い廊下が広がり、所々に今出てきたのと同じ鉄扉が見える。
廊下の感じは転生局っぽいな。
逆か、転生局がここっぽいんだ。
天界っていうともっときらびやかなものを想像してたけど、謁見の間にしてもここにしても意外とそういう感じでもないらしい。
まぁ、ここは牢獄だからかもしれないけどね。
『左へ進み、突き当たりのドアを入れ』
「あのー、これから何があるんですか?」
『…………』
試しに声をかけてみたものの返事はなし。
そんな気はしてたけど。
諦めて廊下を歩き始めるけど、とても『突き当たり』があるようには見えない……。
うぇ、一体どれだけ歩かされるんだろう。
そうだ、ちょっと『視て』……やめておこう。
今回の敵さんは、どうにもこっちの手の内を知り尽くしている気がする。
さっきの拉致犯と同じに考えない方がよさそうだ。
黙々と『突き当たり』を目指して歩く。
見える景色は変わらず、何もない廊下にたまに出てくる鉄扉だけ。
「もしもーし、どこの誰かは知りませんけど、あとどれくらい歩けばいいんですかね?」
『…………』
やっぱりダメか。
そういえば、意味のないことを延々と繰り返させる拷問がある、と聞いたことがあるけど。
まさか本当は『ない』突き当たりを目指して歩かされているわけじゃないよね??
……ない、よね?
結局、それから30分近く歩いてようやく目的の突き当たりに辿り着いた。
もっと近くの部屋に入れておいてくれませんかね……。
コンコンッ
「しつれいしまーす……」
取手がないのでとりあえず押してみると、スーッと開いた。
「呼ばれたの出来たんですけどー?」
中を覗き込むと、なにもない真っ白な部屋だった。
ん? 謁見の間に戻された?
いや、なんかテーブルとか置いてあるから、違う部屋か。
とりあえず真っ白にしておけばいい、みたいな安直な発想を感じなくもな――
『中央まで進め』
「ひゃぁ! ごめんなさいっ!」
『…………』
失礼な事を考えていたので思わず謝ってしまったけど。
特になんの反応もないことからして、別に心の中を読まれたわけではないようだ。
しかし、ホント一方的だなぁ、この人。
『中央まで進め』
「ああ、はいはいわかりましたよ」
『こちらが許可をするまで発言は認めない』
「むぅ……」
さっきまで何を言っても無視してたくせに。
言葉に従って部屋の中央――全体が真っ白なせいでいまいちどこが中央かわからないが――まで進むと、そこそこ背の高い柵? が置いてあった。
半円形で、もちろん真っ白。
危うくそのまま突っ込む所だったよ。
『桜坂螢子の王への敵対行動に対する裁判を始める』
「……へ?」
王、って……あそこにいたのはタダの捨て駒さんだよね?
「なにそれ?
どういうこと??」
『許可をするまで、発言は認めない』
「ぐ……」
……なんなんだもう!
『謁見の間における“敵性スキル”の使用は王への敵対行動とみなされる。
貴様の使ったスキルは間接的に王を害する可能性があることが認められた。
が、身体の防御のために必要であったことも同時に認められるため、情状酌量の余地があると結論が出た。
故に、判決! “異界送りにて奉仕活動”を命じる!!』
カンッ!!!
「……え!?
ちょ、ちょっとまって!?
なにそれ、発言の許可はないの!?
こんなん裁判じゃない!!!」
『許可なき発言は認めない。
裁定はくだされた。
変更はない』
淡々と告げる声。
『許可なき』って……いつまでも許可が出ないじゃん!!
「そんなの納得いかない!!!」
『……受け入れられないのであれば、死刑となるが?』
「はぁあぁ!?」
こんなん実質選択の余地がないじゃない……。
……ここまでの流れ全部が仕組まれていた、ってことか。
となると、『奉仕活動』も何をさせられるのやら……。
『自由意志ってのはな、作れるんだよ』
捨て駒さんの声が思い出される。
と、同時に『絶対に助けに行く』というもふもふの声も。
下手な抵抗は無駄だろうし、おとなしく従っておくしかない、か。
「あの、一つ聞いても?」
『許可する』
「『奉仕活動』って何をするんですか?」
『その“眼”を使った捜索活動だ』
「捜索……」
そういうことか。
つまり――
「弥勒さまを探してこい、と」
『そうだ』
はぁ……いい加減しびれを切らして強硬手段に出たのね。
思ったよりかは悪い話ではなさそうか。
私も気にはなっていたし。
ただ、せめて行く前になんとかしてこの状況を誰かに伝えておきたい……。
けれど、そんな暇もなく問答無用で目の前の空間が歪む。
「『転移ゲート』!?」
『詳しくは転移先でわかるようにしてある。
行け』
敵さんは考える時間を与えるつもりはないようだ。
なんの対策もできないまま吸い込まれ――
「螢子さん!!!」
ドンッ!
その瞬間、何かに弾き飛ばされる。
勢いよく床を滑ったかと思えば、壁にあたって止まる。
「いつつ……」
「大丈夫ですか!?」
「え……?
千代ちゃん!?」
吸い込まれる直前、私を助けてくれたのは千代ちゃんだった。
「ごめんなさい、助けるのが遅くなりました」
「ううん、ありがとう!」
『許可なきものの入室は認めない』
バリバリバリバリッ!!!!!!!
「うわぁあああああああああああああ!!!!」
喜んだのも束の間、千代ちゃんに向かって雷が落ちる!
服が破れ皮膚が裂ける。
一気に血が吹き出し、いつもの和装メイドの衣装が真っ赤に染まる。
「千代ちゃん!!!」
『排除する』
声と共に、周りの空気が急激に冷え……
「待って!!!!
私は逃げたりしないから!!!」
「螢子……さん…………」
床に崩れ落ちた千代ちゃんを、刺激を与えないように抱き起こす。
息も絶え絶え、と言った所だけど、なんとか意識はあるようだ。
「千代ちゃん、大丈夫。
ちょっと弥勒さま探してくるね。
さっさと見つけて戻る、って言っといて」
ギュッと手を握り、安心してねと伝える。
ん……?
「いい?
千代ちゃんにはこれ以上危害を加えないでよね?」
『……よかろう』
よし。
「行ってきます」
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