第22話 目的と手段
「えーっとですね、1つ先に言っておきますけど。
私を殺したら紫翡翠の眼は一緒に失われますし、無理矢理洗脳とかしたら本来の力は発揮できませんよ?」
先手必勝。
おもむろに起き上がるなり、なんの前触れもなく一方的に話し始める。
「な! なんでお前起きてるんだよ!?」
「どうなっている!?
まだ起きられるほどの時間は経っていないんじゃなかったのか?!」
「いや、そのはずだ!
わけわかんねーよ!
俺の紅玉の眼の光をまともに浴びてんだぜ?
なんで数時間ぽっちで目が覚めてんだよ!?」
とかなんとか。
混乱しているっぽいけど、全部スルー。
「というわけで。
あなた方の目的はわかりませんが、紫翡翠の眼を手に入れることが必要ならば、私に危害を加えないようにしてくださいね?」
にっこり。
……自分では満面の笑みを浮かべたつもりだったんだけど、なんかすごい怯えられた……。
引きつった顔で固まってるし。
おかしいなぁ、私の笑顔は天使のようだと評判なのに……私の中で。
「お前は、なんなんだ?」
少しの沈黙の後、ようやく偽クレィさんが捻り出したのがこの言葉。
「え?
『なんなんだ』もなにも、自分たちで拉致したんじゃないですか?
知らないで連れてきたんですか?」
「いや、そうだけどそうじゃねーよ!
なんでこの状況でそんな落ち着いてられるんだよ。
てめぇの立場わかってんのか!?」
「立場……立場、ねぇ。
でも、さっき言ったようにあなた達は私に危害を加えられないし、私を使って何か交渉ができるわけでもない。
私に気持よく紫翡翠の眼を使ってもらわなければいけない、ってことは……少なくとも私の立場は悪くないはずですよね?」
「……力づくで従わせることだってできるんだぜ?」
「先程も言ったように、暴力等で無理やり力を使わせようとしても、発動しませんよ?
魂と結びついた力ですから、私の精神状態が落ち着かないとダメなんです」
「んなこと、さっきは言ってなかったじゃねーか」
「あら、そうでしたっけ?」
そりゃまぁ、嘘だし今作った設定だから。
内心、冷汗ダラダラだった。
それでも、笑顔を崩さず、余裕があるように淡々と返していく。
「そもそも、その『発動条件』が本当かどうか証明できるのかよ?」
「では、試してみますか?
それで本当にダメだったら、困るのはあなた達では?」
「…………ちっ」
……偽クレィさんがバカじゃなくてよかった。
「じゃあ試してやろう」とか言われたらどうしようかと思ったよ。
心臓はバクバク言ってるけど。
慌てず、騒がず。
今のところはなんとかこっちのペースでやれている……はず。
「で。
今度はこっちから聞かせてもらいますけど。
あなた達こそ何者なんですか?」
「はんっ、んなもん答えるわきゃねーだろ」
「えー、でも答えてもらえないと協力のしようもないんですけど」
「…………」
答えは沈黙。
まぁ向こうも身分を明かすのはリスクなんだろうけど。
こういう時どうしたらいいんだったかな。
メリットの提示?
とりあえず、答えてくれそうな辺りから聞いてみるか。
「困りましたね。
私としては、納得さえいけば協力したっていいんですけど」
「……納得しなかった場合は?」
「…………どうしましょうか」
「話にならねぇな」
「ですよねぇ……」
失敗。
やっぱり、あの時の交渉術講習を受けておくんだった。
どう考えても市役所の受付嬢に必要のない研修だったけども。
今になって後悔する日がくるなんて。
まぁ、いいか。
めんどくさいし、『視』ちゃおう。
「すーはー……」
深呼吸をひとつ。
右眼に神経を集中、一点を見るように全体を俯瞰して――
紫翡翠の眼発動。
スキル:高速スキャン
最近できるようになった新技『高速スキャン』。
発動時間を抑えることで読み取れる情報量を減らす代わりに、体への負担(主に頭痛)のリスクを減らすことができる、というもの。
転移局での業務ではそこまで深く『視』なくていいよ、とフーちゃんに言われてやってみたらできた。
知りたい情報に絞るので、『実は……!』みたいなことはわからないけど、絞った内容に関してはしっかり情報が得られる。
今回は、彼らの『正体』と『目的』について。
「お前……今なにかしやがったな?」
「え?
特に何もしてないですよ?」
発動時間が短いおかげで、発動時の眼の変化も最小限に抑えられる。
なので、よく見てないと何をしたのかはわからないはずだ。
ちょうどこっちを見ていない瞬間を狙ったし。
「ちっ……」
見た目はクレィさんだからキレイな顔をしているのに、あまりにも柄が悪いせいで全く別人だなぁ。
さて、ゲットした情報を確認。
偽クレィさんの正体は転移局の職員、偉そうな下っ端ことKさんは転生局の職員。
どうやら二人とも変化系の魔法で本来の姿とは変えているみたいだ。
どこかで見られてもわからないように、ってことか。
本当のお顔は……残念ながら私は見たことがなかった。
目的は……え、なにこれ。
有望な『転移候補者』を瀕死にさせることで、無理矢理転移を承諾させること。
転移局側が間に合わなくても、そのまま死亡すれば転生局へ行くので転生させられる。
世界を救う『目的』のために、個人がどうなろうが構わないと『手段』を選ばない人たち。
彼らは無理矢理転移(及び転生)させるための『選別』を私にさせようとしている、ということのようだ。
さすがにこれは協力できないなぁ……。
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