第41章 目的
——八人の盗賊達はニヤニヤと笑いながらテイラー達を迎え撃つ。…しかし、ある物を見た瞬間盗賊達の表情が一気に強張った。
「あ、あいつら…何で…。」
武器を構えて突っ込んでくる者達の中に、長い槍を持って突きの構えで突進してくる男が三人。
その槍の先端の下でヒラヒラとなびく、月と森の刺繍が入った国旗。
「旗槍だ…あいつら旗槍を持ってやがる。」
「城の物置部屋にあるはずだろ…あいつら一体どこで…。」
「何だあいつら、急に…。まぁいいか。よーし、そのまま突撃するぞ!」
旗槍に目を奪われ、迎え撃つ態勢が崩れた盗賊達はテイラー達の猛攻に慌てて抵抗する。
「ふんっっ!!!」
テイラーは剣を上から思い切り振り下ろし、下から切り上げる盗賊の剣とぶつかり金属音が鳴り響く。
「ははっ、そりゃ止めるよな。」
ふわりと力を緩め盗賊の剣を上に逸らし、腕が上がった所へナイフを突き刺す。
「ぐっ…!」
盗賊が苦悶の顔で反射的に腕を下ろすと、テイラーはその隙に喉元にナイフを当てがい横に切り裂いた。
「おえっ!口に入っちまった…。」
返り血を顔全体に浴び、口の中に入った返り血を吐き目の前で血を噴き流す盗賊の体を軽く押す。
力無く倒れていく盗賊の体を踏みつけながら更に別の盗賊へと狙いを定め、仲間達を見渡す。
「数で押し切れ!どんな手を使ってでも殺しちまえ!」
大きめの石で殴り続ける者や、相手の剣を奪って滅多刺しにする者。
旗槍に垂れ下がる国旗で横から相手の視界を塞ぎ、別の旗槍を持つ者が真正面から突き刺し殺す。
ケイにナイフを投げた男は先程までのニヤニヤとした顔の面影はなく、テイラー達の狂気に恐怖の表情を浮かべていた。
——ケイの体に手を当て治療をするブランカは、視線をテイラー達に向けている。
「あの人達…確かに敵ではない事は分かりましたけど恐ろしいですね。」
眉をひそめてブランカと同じ方向を見るテオは黙ってその光景を見ている。
「くっ…。いててて。」
「ケイさん!」
目を開け、ゆっくりと上体を起こし肩を触るケイ。
「僕、気絶していたの…?」
「あぁそうだ。ブランカ、こいつに毒はなかったのか?」
「えぇありませんでした。ナイフで肩を貫かれたショックで気絶していたんでしょう。」
ぼーっとテイラー達の戦いを見ているケイに顔をしからめるテオ。
「それくらいで気絶してんじゃねーよ…。お前どんどん弱体化してんじゃねーか?」
「ちょっとテオさん!そんな言い方は…。ケイさんはトラウマもあるでしょうから…。」
ブランカはケイの体から手を離し、水の入った革袋を指差す。
「お水、飲んだらスッキリすると思いますよ。」
ケイはゆっくりと革袋を手に取り、一口だけ飲む。
「…ふぅ。」
ケイはナイフに貫かれた肩を優しく揉みながらブランカに視線を向ける。
「治してくれてありがとうね。突然の事でつい意識が飛んじゃって…。」
「いえいえ、その為に私がいますので。グリフィット国を救った英雄の役に立つ事が出来て嬉しいです。」
ニコニコと屈託のない笑顔で話すブランカの表情はとても明るく、ケイも自然と笑顔になっていく。
「いやそんな英雄だなんて…。へへっ。」
「おい弱体化バカ。あいつらお前にナイフを投げてきた連中を全員殺ったみたいだぜ。」
テイラー達がゾロゾロとケイ達のいる壁に向かって自信に満ち溢れた顔で歩いてくる中、フォックスは不貞腐れた様な顔であぐらをかいて座っていた。
——「お前、得意気に先行して結局石しか投げてねーじゃねーか。」
テイラーの小馬鹿にする様な発言を無視して座り続けるフォックス。
「あ?何だよ怒っちまったのか?」
相手にしない様フォックスは完全無視を決め込み、そっと立ち上がるとケイ達のいる壁へ体を向ける。
「フォックス〜悪かったよ。流石に今回はやりすぎたな、反省してる。」
テイラーはフォックスの肩を掴んでこちらに振り向かせようと腕を引いた瞬間、フォックス自らテイラーへ勢いよく振り向き、握り拳をテイラーの口へ突っ込む。
そして、ゆっくりと拳を開いた。
ジャリジャリと口の中に広がる手のひら一杯に掴んだ砂利。
テイラーは口の中の唾液が吸われ、呼吸をしようにもうまく出来ずに慌ててフォックスの手を払いのける。
「おぉぉえっ!!ごほっ、ごほっ、おぉぉえぇぇっ!」
激しくえずきながら涙目でフォックスを睨みつけるテイラー。
「あーはっはっはっ!ひぃ、ひぃ、」
フォックスは腹を抱えテイラーの背中をバンバンと叩く。
「おおぉぉぉえぇぇっ!!」
テイラーのえづく声とフォックスを筆頭に仲間達の笑い声が辺りに響き渡っていた。
——「何か…荒っぽい超えて野蛮じゃない?」
驚きの中に少しだけ恐怖の表情を浮かべるケイ。
「あいつらな、ずっとあんな感じだったぜ。何故盗賊同士敵対してるか分かんねーが、あいつらは俺達の敵じゃねーって事は分かった。」
「そうですね…まだ安心は出来ませんが今の所は大丈夫そうです。」
フォックス達の様子を伺っていると笑い疲れた者達から再びケイ達の方へと歩いてくるのが分かる。
「まぁ僕は元々話を聞きたかったから二人が納得してくれたなら良かった。」
「ふん。奴等が変なことしやがったら速攻で仕掛ける。」
テオは爆弾袋に手を突っ込み鋭い眼差しでフォックス達を睨んだ。
——「おーい、そろそろ降りてきてくれないか?出来れば物陰に入りたいんだ。」
笑い疲れて涙目になったフォックスがケイ達に声をかける。その後ろでテイラーが口の中を水で必死にゆすいでいた。
「あぁ。だが何で物陰に入りてーんだ?」
テオの問いかけにフォックスは空を見上げる。
「ドラゴンがいるだろ?あ、ドラゴンって言っても分かんねーか。あの空を飛び回ってる化け物だ。」
街の反対側で先程よりも高く飛び上がるドラゴンに指を差す。
「確かに…物陰に入らないと見つかっちゃうね。」
困った様にドラゴンを見ながらそう呟くケイは早速壁から降りようと足を下に落とす。
「あ、ちなみにあれがドラゴンだって事は知ってるよ!」
「あ、知ってんの?じゃあ一旦お互いの情報を交換しようじゃねーか。」
一気に壁から飛び降り地面に着地するケイにフォックスは笑いかけた。
——テオとブランカも壁から降り、街の中にある倉庫の様な、人気のない所へ移動する。
「おい、流石に人が集まりすぎると目立ってダメだ。お前達は別の場所で待機しておけ。」
「は?リーダー面すんなよ。」
「またゲボ吐かせてやろうか?」
「殺すぞ。」
文句を言いながらもテイラーの言葉に従い別の場所へ散らばる仲間達。
ケイはどこか気まずそうな表情を浮かべ、テイラーの顔をチラチラと見る。
フォックスはそんなケイの肩に突然ポンと手を乗せ視線を合わせる。
「お前、ユウか?それともケイ?」
ケイは思わず小さな悲鳴の様な声をあげる。
「あ、すみません…。僕はケイです。」
それだけ伝え、気持ちを落ち着かせる様に一度深呼吸をしたケイは再びフォックスに視線を向ける。
「あの、グリスの仲間…なんですよね?そのグリスはどこにいるんですか?」
「グリスは今ガルシアって男と一緒にヒール国周辺にいるはずだ。俺達だけ東領地に行く様言われてな。」
「そうそう。その時旦那から聞いていたのさ。お前達の事を。」
フォックスとテイラーは同時にテオへ視線を向けた。
「あ?何だよ。じろじろ見てんじゃねーハゲオヤジ。」
テオの言葉にフォックスがゲラゲラと笑いテイラーの頭をポンポンと叩く。
「ハ、ハゲオヤジだってよ!はっはっはっ!良いこと言うじゃねーかテオ。」
「黙れ役立たず。」
フォックスの脳裏に先程の戦闘が頭をよぎる。
「だ、誰が役立たずだ!テイラーが邪魔しなけりゃ俺もなぁ…!」
「へぇ!テオ、お前こいつの無能さを見抜けるなんて大した奴だ。中々出来る男だな。」
テイラーはニヤニヤとフォックスに視線を向けながらケイ達の前に手を差し出す。
「俺の名前はテイラーだ。見ての通りハゲたおっさんだがそれなりに修羅場は潜ってきた。こいつはフォックス。別の場所に待機してる奴ら含めて俺達にはある目的がある。」
「おいてめー!自己紹介くらい俺にさせ…」
「僕はケイ。この妖精はブランカ。僕もグリスから東領地に向かえと言われてここに来ました。そして、僕にも目的があります。」
フォックスの言葉を遮りケイがテイラーの手を取り握手を交わす。
「ま、大体は俺達同じ道筋だろうな。」
テイラーは手を離し窓の外に身を乗り出して上空を飛び回るドラゴンを見上げる。
「俺達はな、盗賊なんだ。だが、テッセンと言う奴が俺達の仲間や他の盗賊を操り今は全く統制の取れないただの人殺し集団になっちまった。」
「あぁ?お前達盗賊は元々極悪人じゃねーか。人のせいにしてんじゃねーよ。」
「はっはっはっ!そりゃ否定はしねーが一般人を襲うなんて事はした事がねー。何か事情があって殺す事はあってもな。」
テオの表情はどんどん険しくなっていき、ケイはその様子を伺っていた。
「お前達盗賊は悪なんだ。今の盗賊とか関係ねーよ。俺は心底お前らが嫌いだ。」
「お前、昔何かあったのか?」
「あぁ?何でもねーよ役立たず!」
フォックスの問いに答える事もなく強い言葉で返したテオは一人、倉庫から出て行こうと歩き出す。
「あ、待ってテオさん…。」
ブランカはテオの後を追いかけ、倉庫の出口で一度ケイに振り向く。
「私、テオさんといます。」
「うん。テオがどこかに行っちゃわないように見てて。」
「はい!」
ヒラヒラと倉庫を出ていったブランカの、テオを呼ぶ声が倉庫内に響く。
「まぁ、そんな感じだ。テッセンも許せねーが簡単に操られた馬鹿共も許せなくてな。」
テイラーは視線をケイに戻し仕切り直す。
「それで、グリスとはどこで会ったんですか?元々の知り合いとか?」
「旦那はな、ヒール国の地下牢で監禁されてた俺達を助けてくれたんだ。」
テイラーは自分の頭をパチパチと軽く叩き、フォックスに視線を向ける。
「そうだぜ。その時は百人程いたんだが南領地に逃げる時に散り散りなり、その後ヒール国へ攻め込んだ時に結構死んじまったな…。ほとんどがユーノの隕石のせいだが…。」
フォックスは天井を見上げ隕石の降る光景を思い出す。
「ヒール国は本当に壊滅したのでしょうか?」
「壊滅…そうだな、ありゃ壊滅だ。ステイトラ城だけは無傷のまま、街は全部瓦礫の山。ユーノやライラ王、ローラン、テッセンは未だにヒール国で何かを企んでる。そして…。」
テイラーは倉庫の外を親指で指をさす。
「あのドラゴンと盗賊達がこの街にいる。」
「グリフィット国のサンドワームなんかよりもドラゴンの方が驚異だぜ全く…。そもそもこれまでサンドワームを倒せない時点であのドラゴンには敵う訳がねー。お手上げだよ。」
フォックスはため息をつきその場にしゃがみ込む。
「確かに、サンドワームは飛びもしないし直線にしか進まない単純な奴だったですもんね…。」
「そうだろう?いやー困った困った。俺達に出来る事と言やぁ盗賊を一人残らずぶっ殺すくらいだぜ。」
鼻の中に指を突っ込みホジホジしながら話すフォックス。
「今回はノエルがいないから僕とテオでどこまでやれるか…。テオは火の魔法をノエルと特訓してたからそれをどこまで活かせるかにかかってるのかな…。いや、ドラゴンが火に弱いと決まったわけじゃないから…。僕の草を体の中に入れて内側から壊す…。」
フォックスはブツブツと呟くケイに眉をひそめる。
「…何言ってんだ?お前。」
「何って…ドラゴンを倒す為に何が有効かを考えて…。あ、もしかして…。」
ケイは手を前に突き出し集中する。
「やっぱり…なんか頭の中がスッキリしてる。」
「はぁ?おいおいお前何して…」
突然ケイの目の前の空間に裂け目ができ、束ねられた草が勢いよく飛び出す。
「うわぁっっ!!」
しゃがみ込んでいたフォックスはその姿勢のまま後ろへ後ずさりし距離を取り、テイラーの足にぶつかった。
「出来た…!出来る気がしたんだ!これは強いぞ!色んな所から草を出せる!」
「てめ、いきなりそんな力を使うんじゃねぇっ!!」
フォックスは自分の胸を押さえながら大きな声を放つ。
「グリスから能力の事は聞いてただろうがよ…。東領地に行く時に草に乗って移動していたこいつらも見たし…。」
テイラーは足にぶつかってきたフォックスに冷たい視線を向ける。
「あは、すみません。でも、これで僕ドラゴンとも戦えるかもしれません!」
「…いやいや、何言ってんだお前。」
フォックスは立ち上がり、呆れた表情を浮かべる。
「良いか?俺達人間はあんな化け物には勝てない。考えりゃ分かるだろ。」
「そうですか?…まぁ確かにサンドワームを初めて見た時はそう思ってたけど、案外戦ってしまえば何とか勝てる見込みもあるもんですよ。」




