第40章 変な奴ら
——「グリス、ローランとは知り合いなのか?…グリスの事を憎んでいる様子だった。」
「…そうか。」
グリスは背を向け木々の間から見える空を見上げる。
「あいつの名前はローラン・メロー。共に旅をし愛を誓い合った大切な人だ。」
ユウの目が一瞬で見開き、その目を泳がせる。
「あ、…え?へ、へぇー。共に愛を誓い合った仲か…。」
「…何だ?真面目に答えたつもりだが。」
片方の眉毛を吊り上げユウに向き直るグリス。
「いや、だって…グリスがそんな事を言うなんて想像もつかなくて…。」
「ちょっとユウ!薄々勘付いてた事でしょ?さっきも大切な人だから守るって言ってたじゃない!」
「ノエルの言う通りだわ!あんた人の事聞いといてその反応はないわ…。」
あたふたとしながらノエルとフーとグリスに目を向けるユウ。
「いや、違くて…その、、グリスをよく知ってるからこそ直接そんな話を聞くと戸惑うというか…。」
「あーその鼻っ柱に体当たりしてやりたい気分だわ…。」
ユウは鼻を抑え全力で首を横に振る。
「まぁ、昔の話だ。簡単にいうと、俺は病と思ってたものに命を蝕まれていただろ?それでローランには幸せになってほしくて無理やりあいつから離れたんだ。俺を恨むのもそこだろう。」
「なるほどね。グリスさんの気持ちはよーく分かるよ。その時はそれが最良の選択だったんだもんね。大切な人だからこそ、遠ざけてでも幸せになってほしい…きっとローランも理解してくれるよ。」
グリスは微笑みまた空を見上げる。
「だといいがなぁ。」
「グリス、ごめんな。別に馬鹿にしてるとかそんなんじゃないから…。」
「分かってるさ。俺は今までお前達に昔の事をあまり話さなかったし態度にも出さない様にしてたからな。この際思いっきり馬鹿にしてほしい気分だ。」
「はは、いつものグリスって感じだ。じゃあそろそろ行こうか。」
「あら?もう行くの?あんたの事を話したりしなくて良いの?」
「歩きながら話すさ。今はこうしてる間にもユーノ達の動きが気になる。早いとこヒール国へ行ってケリをつけなきゃな。」
ユウはノエルに視線を向ける。
「そうだね。ミリルの話でこの力が魔法って呼ばれてる事と、わたしが見てるオーラの様なものが魔力と呼ばれている事も分かった。今まで感覚として捉えていたものが言語化されて、理解できた気がする。…今ならお母さんに届く気がするんだ。」
杖を見ながら魔力を込める。すると火、水、氷、土のそれぞれが杖の周りをゆっくりと周り出す。
「凄いな…それが魔法という代物なら、ケイの能力も魔法なのか?」
魔法を目の当たりにし、グリスは感心した様に問いかける。
「いや、ケイのは少し違うみたいだ。何というか…うーん。」
ユウが返答に困っていると、隣でガルシアがサラサラとペンを走らせる。
『ユーノの娘なだけはある。その力なら奴を止める事が出来るだろう。』
「あ、そうかあんた喋れないから紙に書いてるのね。」
「うぐ。」
「グリス、とにかくヒール国へ行こう。ミリルから聞いた全ての事は道中話すから。」
「あぁ。」
グリスは革袋に入った水を飲み、剣を腰に差す。
「あれ?そういえば何でグリス達はここにいるんだ?逃げてきたのか?」
「まぁそうだな。逃げてきた。」
グリスはガルシアに向けて親指を差す。
「ガルシアが城の裏門に倒れている俺を見つけてくれてな。降り注ぐ隕石の中運び出してくれたんだ。」
「なるほど…。あ、商人が『グリスの部隊』って言ってたんだがガルシアの他にも仲間が?」
「おー、部隊と呼ばれたか。随分と大それた事を。」
グリスは嬉しそうに笑い、ガルシアに説明を促す。
『俺はグリスに言われて城の中に入ってたんだが先に城へ入った他の仲間がゾロゾロと逃げ出してきてな。何事かと思ったが上空に浮かぶ隕石を見て事態はすぐに分かった。俺達はグリスを見つけ一旦その場を離れ、他の仲間達には東領地に行く様命じた。ヒール国はもう盗賊すらも残らない程に壊滅したからな。』
ガルシアの書いた長文を見たフーはフラフラとノエルの肩にへたり込む。
「あたし文字読むの苦手だわ…。」
「グリス、他の仲間というのは?」
グリスはニヤリと笑い答える。
「あぁ、東領地に行った俺達の仲間ってのは盗賊だ。」
——街の城壁に上がり街の様子を伺うケイは上空を飛び回るドラゴンの大きさに圧倒されていた。
「やばいよねあれ。テオ、どうしよう…。」
「…んなもん爆弾で一撃だ。多分な…。」
「いや、みなさん呆気に取られている場合じゃないですよ!さっきの盗賊達が追ってきてます。」
ブランカが指を差す方向にはゾロゾロと数十人の盗賊達が迫ってきている。
「うわ、さっきの間抜けな顔をした盗賊だ。いったん降りて戦う?」
「いや、無視して良いんじゃねーか?どうせ今からおっ始めるんだからな。」
「…え?テオさん今何と?」
取り出した爆弾をドラゴンに向け構える。
「今からおっ始めるって言ったんだよ!!」
「待って!!テオ!ストップ!!」
「あぁ!?」
「ねぇ、馬鹿なの?何の問題も起きてないのにわざわざ僕達から仕掛けてどうすんのさ。」
「だったらどうすんだ。あの盗賊達とやり合うのか?」
「だからそれをどうしようかって話をしてたんでしょ!?どうして君はいつもそうなんだよ。」
「んだとてめぇっ!」
「ちょっと!こんな所で暴れないでください!…え!?あの盗賊…一人で!」
迫る盗賊の一人が全速力でケイ達の元へ迫っていた。
——「おい!フォックス!あいつら仲間割れしてるぜ!」
「ははっ!随分呑気な奴らだぜ。テイラー!俺は先に行くぜ。」
フォックスはぐんぐんと速度を上げ、一人ケイ達の元へと急いだ。
——「おーい!お前ら!ちょっと降りてこいよ!」
「あぁ!?殺すぞてめー!」
「…その攻撃的な口調…お前がテオか?」
「気安く俺の名を呼ぶんじゃねー!」
綺麗な弧を描き、フォックスの足元に落ちる爆弾。
「いぃっ…!?」
ドン!と爆発音を響かせ地面が弾け飛ぶ。
「ちょっとテオ!ドラゴンにバレるってば!」
「あぁ?バレやしねーよ。ってかバレても良いだろうが!」
「ケイさん…私離脱してもいいですか?テオさんといると命がいくつあっても足りない気が…。」
ケイは泣きそうなブランカの頭を指で優しく撫でながらテオを睨みつける。
「バレていい訳ないじゃん!もっとタイミングってのがあるでしょう?良い加減分かってよ!」
「ふんっ…!」
尻餅をつき下顎を微かに震わせるフォックスは徐々に晴れていく砂煙の中からケイ達を見上げていた。
「あ、あっぶねぇ…びびった…。」
「何だよあいつ生きてるじゃねーか。」
再び爆弾を投げようとするテオの腕をガッと掴むケイ。
「だめ。分かる?だめ。」
フォックスは涙目でケイ達を見上げ、うずくまりながら大きな声を上げる。
「お、おい!俺は敵じゃねー!あんたらグリスを知ってんだろ?俺達はグリスの仲間だ!」
「え、グリスの仲間…?」
テオの手をグッと抑えながらグリフィット国での商人の話を思い出すケイ。
「…あ。」
「おい、離せっ!どんどん増えていくぜあいつら!ここで殺さねーとこっちが不利だ!」
テオは続々と集まる盗賊達を睨みつけながらケイの手を必死に振り解こうとする。
「待って。多分あの人達本当にグリスの仲間だ…。」
——「おいフォックス!お前一人で先に行ったくせに何も話してねーじゃねーか!」
「るっせえよ!あの赤い髪の奴がいきなり爆弾投げつけてきやがったんだ!グリスの話通りならあいつがテオだぜ。気が短くて荒っぽい。」
「ったく!…おーい!こっちにゃ敵意はねぇ!そこからで良いから話を聞いてくれねーか?」
遅れてやってきたテイラー達は持っていた剣を地面に置き両手を上げる。それに倣い他の者も持っていた武器を全て地面に置いていった。
——「あの商人が言っていたグリスの率いた部隊って盗賊達だったんだ…。」
「おい、信じるのか?奴等の言葉を。」
「…ケイさん。テオさんが警戒するのも分かります。盗賊は騙し討ちも得意としますからね。」
険しい顔で盗賊達を見るテオとブランカ。
「でも全員武器は手放した。一度話だけでも聞いてみようよ。」
「殺されても知らねーぜ?」
「大丈夫だよ。何かあったらすぐにまとめて拘束するさ。」
「あ、私も行きます…!」
ブランカは城壁から降りようとするケイの肩に降り立ち、盗賊達に無機質な目を向ける。
「おい!後ろだ!!」
突然、フォックスはケイ達に向かい駆け出し、声を上げる。
「え?」
グジュ。
振り向き様ケイの肩に鈍い痛みが走り、同時に腕を伝う温かな感触。赤く滲む衣服の袖から真っ赤な血が滴り落ちた。
「ケイ!!」
ケイの肩に深く突き刺さるナイフを見て、テオは冷や汗を滲ませる。
「…ブランカ、あの投げナイフには毒が塗ってあるかもしれねー。もし毒を喰らってたら治療を頼む。絶対にケイを殺すな。いいな?」
「は、はい…。」
ブランカはテオの迫力に押されつつ、意識を失い倒れたケイの治療へとかかる。
「舐めやがって…ドラゴンなんか関係ねー。あいつら全員吹き飛ばしてやる。」
街の城壁近くでニヤニヤと不気味に笑う8人の盗賊を睨みつけるテオは爆弾袋に手を入れる。
「お、当たったみてーだな。」
ナイフを回転させながら上に少し飛ばし、落ちてきたナイフを器用にキャッチする動きを繰り返す男。
「当たったじゃねーよ。すぐに殺してやる。」
テオが城壁から飛び降りようと身を屈めると、唐突に誰かに話しかけられた。
「まぁ待てって。俺達に任せな。」
いきり立ったテオの隣に颯爽と駆けつけ、フォックスは城壁の上から盗賊達を見下ろす。
「てめー…。実はあいつらの仲間じゃねーだろーな?」
「勘弁してくれよ…俺達は人形じゃねーんだ。奴等とは生き様が違うんだよバーカ。」
テオの眉毛がピクリと動き、フォックスを睨みつける。
「あぁ?てめー調子に乗ってんじゃねーよ。」
「口がわりーなこのクソガキは…黙ってそこで見ていろ。ほら、まずお前から行けフォックス。」
テイラーも城壁に登り、テオに苦笑いを浮かべながら流れる様な動きでフォックスを蹴落とす。
「あ!?て、てめぇ!」
尻を蹴られ、腰を突き出すように城壁から落ちるフォックスは、ドシャッと地面に尻餅をつき城壁の上のテイラーを睨みつける。
「テイラー!てめー絶対許さねー!!」
慌てて立ち上がり、八人の盗賊に向き直って剣を抜く。
「あいつら何やってるんだ…?」
「仲間割れか…?」
「…どうでも良い、せっかく一人で降りてきたんだ。殺るぞ!」
呆然とフォックス達のやり取りを見ていた盗賊達が武器を構えてフォックスに駆け出す。
「一人くらいは減らせよー!」
「うるせー!早くお前達も降りてきやがれ!」
壁の上から笑いながら言うテイラーに背中を向けながら、怒り口調でそう言い放つフォックスは足元に落ちていた石をパッと拾い上げ、迫り来る盗賊達に向かって思いっきり投げつける。
「ぐ、あいつ石投げてきやがった!」
「石くらいで怯むな!いけいけ!」
腕で顔を守りながら突っ込んでくる盗賊達にフォックスの顔はどんどん引きつっていく。
「おい!テイラー!早く来いって!」
顔面蒼白で剣を構え、盗賊達を迎え撃つ態勢に入るフォックス。
その時、雄叫びを上げながら走り寄る盗賊達に向かって剣が投げ放たれる。
その剣はフォックスの顔すれすれを横切り、石畳の地面に金属音を鳴らしながら落ちる。
「……。」
盗賊達は思わず足を止め、呆然と地面に転がる剣を見ていた。
「あ、外したか…。」
フォックスがゆっくりと後ろを振り返ると、いつの間にか壁から降りてきたテイラーが残念そうな顔でそう呟いていた。
「…何で剣なんだよ!てめーナイフ持ってただろうが!!」
「良いじゃねーか!剣の方が当たった時のダメージが凄いだろ!」
「この距離で当たる訳ねーだろ!大体、俺の顔すれすれだったじゃねーか!当たったらどうすんだ!」
「この俺様がそんなヘマすると思ってんのか?」
「ヘマして外しておきながら何を偉そうに言ってやがんだ!」
フォックスとテイラーが言い合っている横から数十人の仲間が盗賊へと駆けていく。
「あ、お前ら待て!」
フォックスも駆け出そうと慌てて右足を出した瞬間、テイラーの足に躓き転んでしまう。
「フォックス〜お前の出番はねーぜ?」
「て、てめーわざと足を…!」
高笑いをしながらテイラーは盗賊達へと駆けて行き、転んで四つん這いになるフォックスはそんなテイラーを恨めしそうに睨みつけていた。
——「あいつら…まじで何なんだ。」
テオは爆弾袋に手を入れたまま、フォックス達のやり取りを壁の上で呆然と眺めていた。




