第39章 再会
——手を前に突き出したケイの脳裏にある記憶が過ぎる。
下校の時、いつも隣にはユウがいた。その辺の草を千切りプラプラと手を振りながら歩いた帰り道。
自動販売機がすぐそばにあって雑草が生い茂っていたいつもの場所。
「…今、重なった。」
「は?」
ケイの立つ地面が突然隆起し、束ねれられた大きな草が勢いよく飛び出す。
「…うおっ!」
「テオ!乗って!!」
「はぁっ!?いきなりすぎるんだよ!」
ケイを乗せた草は物凄い速度で突き進みだし、テオは慌てて伸び進む草に乗った。
「ケイさん凄い!これならあっという間に着きますよ!」
「これが底上げされた僕の能力…。全部の加護を与えてもらったおかげだ!」
後ろを振り返り、必死にしがみつくテオに笑いかける。
「テオ!絶対に振り落とされないでね!」
「るっせぇ!」
少しずつ草の上を伝ってこちらに近づくテオから目線を外し、東領地に視線を向けた。
「ドラゴンと…他に誰がいるかな?ローランやユーノもいるかもしれない…。テッセンも。」
「…まずは住民達を救いましょう。ドラゴンのせいで物凄い恐怖を抱いているはずです。」
「そういえば…東領地ではあのドラゴン有名なんでしょ?前にもあんな風に圧力をかけていたのかな?」
「…どうでしょうか…。あ!またドラゴンの様子が…!」
「低空飛行だ。まさか街に火を吐くつもりじゃ…。」
「…盗賊だ。」
テオは突然険しい顔で前方に鋭い目を向ける。
「え、どこ?」
ぐんぐん進むケイ達を驚いた様子で見る数十人の盗賊。目の前を横切っていくケイ達を、滑らかな動きをしながら目線と一緒に顔で追っている。
「…何か、今まで出会った盗賊達と比べて凄く間抜けそうな奴等だったね。」
「あいつらは全員アホだ。違いはねーよ。」
「二人共、もうすぐ街ですよ!」
目前に迫る街を囲む大きな壁。ケイは静かに目を閉じ集中する。
徐々に大きな草は勢いを弱め、地中へと沈んでいく様に消えていく。
「…よし!街への入り口を探そう。」
「はぁ?わざわざ探さなくてもてめーの能力で上に上げればいいじゃねーか。」
「あ、それもそうだね。ブランカ、一応街の様子を見てくれるかい?」
「えぇ。分かりました。」
ケイの肩から飛び降り空へと昇るブランカ。
「えーっと…。ふんふん。なるほどなるほど。ケイさん!大丈夫ですよ、盗賊はいません!ドラゴンからの攻撃も今の所はなさそうです!」
「分かった!テオ、行くよ。」
「あぁ、久々に暴れられるぜ。」
「僕の分もしっかりと頼むよ。あ、住民の人達には絶対に危害を加えないでよ?」
ギロリと睨むテオに慌ててケイは目線を逸らし、地面に手を当てた。
——「きゃーーっ!飛んでる!ユウすごーい!!」
「ちょっとノエル、あんまり動かないでくれよ…。」
「本当よ!空飛ぶくらい何だっていうのかしら。」
ユウ達はあっという間に元いた場所まで到達し、その先を見据える。
「…なぁ、ヒール国って大きなお城があるよな?街も大きいって聞いたことがあるんだが…。」
「そうですよ。…あのお城の目の前に街が広がっているはずなんですけど。」
いくつもの大きなクレーターがあり、遠目から見ても瓦礫で埋め尽くされている光景が広がっている。
「ひどいわね…。壊滅的どころかもう終わってるじゃない…。」
あまりの凄惨な光景にフーは口を抑え目を大きく見開く。
「生き残りは…誰も残っていないのか?」
ユウは眼下の森を見ながら飛び進んでいると、何かが動く気配を感じその場に滞空する。
「なに?どうしたのユウ。」
「いや、あそこに誰かいる…。」
目を凝らし注意深く探っていると、二人の人影が僅かに見えたのを確認した。
「どう?何か見えた?というかこんな距離から見えるわけ…」
「いた。二人だ。…盗賊?」
驚くよりも引いたような顔でユウを見るフーと、一緒になって目を凝らし下に目を向けるノエル。
「えー、わたし何にも見えない。」
「見える方がおかしいのよ!…そうだったわこいつ鳥の能力を宿してるんだったわね。」
「あれは…グリス?」
「え!グリス?生きてたのね!」
「いや、まだ分からない。一緒にいる男は知らない奴だ。…ゆっくり近づく。油断はするなよ。」
「わたし、いつでも攻撃できる様にしておくね。」
「あぁ。少し距離を空けて着地する。」
高度を下げ、ゆっくりと離れた位置にユウは降り立つ。
「ふぅ…。さ、慎重に行くぞ。」
「あんた慣れないことして疲れてないの?」
「まぁ少しは疲れたが…。」
「ちょっと待ちなさい。気休め程度に癒してあげるから。」
フーはユウの翼に手を当て光で包む。
「…ありがとう。さっきより軽くなった気がするよ。」
「それにしても凄いね。初めて飛んだのにもう使いこなしてる。着地も綺麗だったし。」
「まぁな。背中に乗せたノエルに何かあったら大変だろ?」
「あんた、あたしはどうなってもいいみたいな言い方ね。」
今にも突っ込んできそうなフーに、ユウは慌てて口を開く。
「違う、ほら!フーは空を飛べるだろ?ノエルは空を飛べないからさ。」
「何慌ててんのよ。言われなくても理解してるわ。」
フーは首を傾げながらさっさとノエルの肩に乗った。
「…ぷっ!」
「…笑うな。」
ノエルを軽く一瞥し、ユウは二人組の元へと向かい歩いた。
——少し先に気配を感じ、上半身裸である一点を見つめるガルシア。
長い鉄の棒を木に立てかけ切り株に座り、その足元には紙とペンが雑に置かれていた。
「…どうした?敵か…?」
肩に包帯を巻き剣の手入れをするグリス。
「うぐ…。」
ガルシアは小さく頷き鉄の棒を手に取り立ち上がった。
「全く、こっちはまだフラフラするってのに…。」
おぼつかない足で何とか立ち上がり、立てかけた剣に手をかけるグリス。
「ガルシア、いざとなれば俺を見捨ててユウとケイを探せ。昨日話した通り、俺の大切な家族なんだ。」
「…うぐ。」
頷くガルシアに笑いかけ、剣を構える。
「グリスだ!」
森の中に響く突然の声。緊張感の漂う空気が一気に崩れた。
「…ユウ?」
グリスは期待のこもった眼差しで森の奥へ目を凝らした。
——「本当に見えたの?まだ先でしょ?」
「見えた!グリスの顔がはっきりと!」
「ノエル、もう普通の感覚ではこいつと話せないわ。何も言わず信じましょう。」
「俺、先に行ってても良いか?」
「はいはい、早く行っておいで。あたし達もすぐに着くから。」
フーは小さな手で払う仕草を見せる。
「このまま直線だよね?」
「あぁ!直線でいい。じゃあ待ってるから!」
ユウは翼をはためかせ一気に加速し森の中を駆けて行く。
「木の葉がたくさん落ちてくるね。ユウが通った道標だ。」
ノエルはヒラヒラと落ちる木の葉を見ながら笑っていた。
「おーい!グリス!!」
「ユウ!お前、無事だったか!」
フラフラとユウに近寄りお互い握手を交わす。
「俺グリフィット国で商人から聞いたんだよ!グリスの伝言を!あぁ、無事で良かった…。」
「そうかそうか聞いたか。あの商人、今度会ったらお礼をしないとな。」
「…グリス、肩怪我したのか?」
「あぁ、少しな。敵はどうやら痺れ薬をナイフに塗ってたみたいでな、ガルシアがいなけりゃ俺は殺されていた。」
グリスの隣に立つ大きな男。鉄の棒を地面に突き立てるようにして堂々と立っている。
「ガルシアさん、グリスを助けてくれてありがとう。」
ガルシアはこくりと頷き返す。
「ケイはどうした?」
「ケイは東領地に行ったよ。伝言では東領地に行けと言っていたからさ。」
「お前はなぜここに?」
「グリスが心配だったからケイと話して二手に別れたんだよ!鈍いなグリスは。」
「はっはっはっ!鈍いとは何だ。それにしてもお前一人か?」
「いや、そろそろ来ると思うけど…妖精フーは知ってるだろ?それともう一人仲間が増えたんだよ。魔法使いだぜ魔法使い。」
「は?魔法…?」
ユウは顔をしかめる。
「あ、魔法ってのは…いや、なんでもない。あとから詳しく教えるから。とにかくその新しい仲間はノエルって言うんだがケイと同じで凄い能力を使うんだぜ。」
「なに?ケイと同じ様な能力を使うのか。」
「あぁ。グリスにはたくさん話すことがあるからな、早く終わらせてゆっくり話そう。」
「ふむ…。よく分からんがその方が良さそうだな。」
「あら、グリス久し振りね!」
「フー!久し振りだなぁ!」
ノエルの肩からぴょんっと飛び降りグリスの元へと飛んでいくフー。
「ノエル、先に行って悪かったな。」
「全然いいよ。心配してたもんね、グリスさんの事。」
「あぁ、肩を負傷しているが、安心したよ。」
「ちょっと待っててね。動かないでよ?」
フーはグリスの肩に手を当て光を集める。
「おぉ。こうやってあのテオって青年の毒を癒してたんだな。」
「そうよ。あたしのこの能力は妖精の中で一番優れているのよ。」
得意気に鼻を鳴らし胸を張るフー。
「おぉ、治った…。相変わらず凄いなお前さんは。」
全快し、肩をブンブンと回すグリスはガルシアに視線を向ける。
「ガルシア、ちょっとこっちに。」
「うぐ。」
「な、何?威圧感凄いわねあんた…。」
ガルシアの大きな体と独特の雰囲気にフーは少したじろぐ。
「こいつはガルシア。舌を切られ上手く喋れないんだ。治す事は可能か?」
「うーん…。待ってね。」
ガルシアの体を飛び回り、じっくりと観察するフー。
「ちょっと舌を見せてもらってもいいかしら?」
「うぐ。」
ガルシアはべぇ、と口を開け、フーはまじまじと切られた舌を観察する。
「これは…無理だわ。切られた部分の舌があるならまだしも、こうもごっそり無くなってたら流石に戻せないわ、ごめんね。」
「いあ、いいんあ…。」
「…グリス、ヒール国はどうなってるんだ?城以外は全てなくなっていたが…。」
「そうか…もうあの有様を見たんだな。」
「あぁ。…あの城に、敵はいるのか?」
グリスはこくりと頷き、ガルシアに手招きをする。
「こいつはローランという者達によって拷問されていた元盗賊のリーダーだ。詳しい話はこのガルシアが全て知っている。」
ユウは険しい顔でガルシアに視線を送る。
「盗賊…!?」
「待て待て。お前が思っている様な盗賊ではない。元盗賊には変わりないが、話を聞けば分かるはずだ。」
「でもリーダーだったんだろ!?何が違うんだよ!」
素早い何かがユウの顔に飛来し、鈍い音と共にユウの顔は後ろにのけぞった。
「はい、どーん。良いから落ち着きなさい。」
鼻を抑え、涙目でフーを見るユウ。
「今の体当たり早かったねぇ…。テオくんにするよりも強烈に見えた。」
「話も聞かないでただうるさい奴は嫌いなのよ。」
「いや、お前だってうるさいじゃないか…。」
「はぁ!?なに?文句あんの?」
「いや、ない。」
鼻を抑える指の隙間からポタポタと落ちる鼻血。
「…ユウ、驚くのも無理はない。ただこのガルシアは今の盗賊と種類が違う。話を聞いてくれるか?」
「…うん。悪かったなさっきは。フー、ありがとう。」
「別に良いわ。」
「手短に話す。今幅を利かせている盗賊の全てはテッセンという男に利用されている。それどころかローランやユーノ、ライラ王といった主力は全員操られているかもしれないのだ。」
ノエルは唇を噛み締める。
「それは、本当ですか?」
「あぁ。お前さんがノエルか?ユウに聞いたよ。凄い能力を使えるんだってな。」
「えぇ。わたしの名はノエル・ソーサラー。…ユーノの娘です。」
グリスとガルシアがお互いに目を合わせ、またノエルに目線を向ける。
「娘がいたのか…。しかし、何でこんな所に?」
「お母さんを止める為。」
強い眼差しをグリスに向けるノエル。
「…そうか。実はな、ヒール国を壊滅させたのはユーノだ。空から隕石を降らせ、街はあっという間に瓦礫の山と化した。…厳しいぞ。」
ノエルの脳裏に数時間前ユーノと戦った光景が過ぎる。
「はい。お母さんの力は痛い程分かってます。ですが、これはわたしのやるべき事。たった一人の大切な家族を守る為の、わたしの覚悟…。」
「そうか…。すまない、別に止めるつもりはないんだ。俺も大切な人を守る為に戦わなくてはいけなくてな。ローランという者と。」
「グリス。実は俺、ローランとグリフィット国で戦ったんだ。」
グリスの目は大きく見開き、額に汗を滲ませる。
「な、何と…。何故だ?ローランがグリフィット国にいたのか?南領地の盗賊団を壊滅させた事での件か?」
「いや、違うんだ。…俺達はグリフィット国でサンドワームを止める為に戦った。その時ローランは女王の城に乗り込んできたんだ。ドワーフからの贈り物である盾を破壊し、サンドワームに城を壊させる為にな。」
グリスの目は強い眼差しであったがその中に切なさと悲しさが混じった目で話を聞いていた。




