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第38章 再び戦地へ

——ミリルはふぅ、と一息ついてクッキーを取り出した。

「ちょっと話し疲れましたね。一旦休憩で。」

 パクッとクッキーをかじり、幸せそうな顔で微笑む。

「そろそろ行かねーか?ダラダラ話が長すぎんだよ。」

「待ってよテオ。僕とユウだってまだ頭が追いついていないんだ…。」

「いや…。わたしもテオくんと同じ気持ちだよ。早くお母さんに会ってこの気持ちをぶつけたいの。」

 杖を地面に突き立てる様に持ち、先端を見上げるノエル。

「…ま、頭が追いついていないのはひとまず後にして、まずはグリスを助けて東領地に行かないとな。」

 ユウの一言にケイは額に手をつけため息を吐いた。


「あ、グリスさんの呪いありましたよね?あれもテッセンの仕業ですよ。」

「…何かそんな気はした。何がしたいんだテッセン…。」

 ユウは眉間を抑え呟く。

「クッキーを食べながらで悪いんですけど早速始めますよ?」

「また急だな。食べ終わってからでも良いんだが…。」

「いえいえ、すぐに終わりますから。じゃあいきますね。」

「え、そんな突然始まるの!?」

 ミリルがユウとケイの頭に手を乗せ目を閉じる。そんなケイの頭にはミリルの手についたクッキーの食べカスがパラパラと付着している。

「ユウとケイを送る為のワープの分は残しとかないといけませんね。」

 ユウとケイは二人同時に目を合わせる。

「ワープ!そうか…だからさっきミリルは俺に聞いてきたんだな!ワープは知ってるか?って。記憶が戻った今なら分かる!…原理は分からないが。」

「なるほどね、あの光の穴はワープだったのか。僕達の世界では実際にないんだけど、馴染みのある言葉だよね。」

 

「あの、ちょっと静かにしてもらえますか?」

 ユウとケイは苦笑いを浮かべながらそっと目を閉じる。

「ご、ごめん。」

 弱々しい声でケイはボソッと呟いた。

 二人の頭に置いたミリルの手からキラキラと光が降り注ぐ。

 

「何か話の展開についていけてないのはわたくしだけですか?」

「大丈夫だ姫ぇ。オラも分かんねぇから。」

「そうですよシーラ様。ま、ケイ達は少し普通とは違いますのでこれまで通りで良いんですよ。」

「そうね…。でもケイとユウは別の世界から来たって言ってましたわよ?あまり深くは考えずとも、いつかは元の世界に帰る、というのが道理なのではないですか?」

「うーん、すんなりと受け入れるには少し難しい話ですが、そもそも元の世界とやらには帰る手段はあるのでしょうかね?」

「…あとでミリルに聞いてみましょうか。」

「はい、それがよろしいかと。頭の中を空っぽにして、今後の成り行きを見届けましょう。」

 ケイの頭から降り注ぐ光が全身を包み込んでいく。シーラは眉尻を下げ、胸を抑えながらその光景を見ていた。



「…終わりましたよ。」

 呆気なくそう告げるミリル。

「…え、もう終わったのか?」

「何か変わった所、あるかな?」

 ユウとケイは自分の体を満遍なく見渡す。

「一度に全ての加護を与えると記憶を完全に隠す事が出来なかった。その為わたしはあなた達ともう一度会い、頃合いを見て全ての加護を渡すつもりでした。…今日、その役目も終わりましたよ。」

 ニコニコと笑みを浮かべるミリル。

「…おいで。」

 両手を広げ、優しい眼差しをユウとケイに向ける。

「ミリル…?」

 ミリルは自分から二人の頭に手を触れ胸に抱き抱える。


「あの時、守ってあげられなくてごめんね。この世界で生きていく為の自衛としてその能力を与えたけど、結局は二人を戦いに巻き込んでしまいました。…今すぐにケイの能力で元の世界に帰れる可能性はあります。どうしますか?」



 ——暖かい…。俺、今ミリルに抱きしめられているのか…。

 どこか懐かしい気持ちだな。

 

 …謝らないでくれ。俺達はお前のおかげでここまで来れた。

 自ら死を選ぶ選択はもうない。記憶を隠してくれたから。感謝してるよ。ミリル。


 …謝るべきはミリルじゃない。俺達は全員踊らされている。この事態を引き起こし、更なる混乱を招こうとする全ての元凶。


 テッセン…絶対に許さない。


 謝るべきは…お前だ。


 ——ミリルの体からパッと顔を離すユウとケイ。

「いや、帰らない。ケイの夢はこの世界で一番必要なことだ。何より、俺はテッセンを許さない。」

「ユウ、僕もだよ。それにテッセンは元の世界も狙ってるんでしょ?尚更帰った所で意味ないや。」

「…分かりました。そうと決まればさっさと目的を果たしましょうか。そろそろ1時間経つ頃合いでしょうし。」

 ミリルは手を上に掲げ、集中する。


「やーっと終わりか。爆弾の材料は十分過ぎるほど集める事ができた。とっとと行くぞ。」

「オラのおかげだろぉ?お礼の一つは言ったらどうだぁテオ。」

「バカねー。こいつがお礼なんて言うわけないじゃないの。」

「さ、シーラ様。わたし達もグリフィット国へ戻りましょう。無事にミリルをケイ達に合わせることもできましたし。」

「…そうね。本当は一緒について行きたいけど足手纏いになったら嫌ですものね。」


 弱い光が徐々に光のワープを形成していく。

「はぁ、はぁ、これが、最後のワープです。みなさん、どうか死なないで。」

「ミリル、あなたはどうなるの?まさかこのままいなくなるとかじゃないよね?」

 ノエルが心配そうに顔を覗き込む。しかし、ミリルはクッキー袋からクッキー取り出しむしゃむしゃと食べ始めた。

「え?消えませんよ。この力が無くなるだけで、わたしは普通の人間として生きていくことになります。」

 心配そうな顔のまま固まるノエル。

 

「さっきの女神様の様なミリルはどこに行ったんだか…。ま、あいつは最初っから変な奴だったしこれが通常運転ってやつだな。」

「あはは、そうだね。」

 そして、ケイはシーラにゆっくり視線を向ける。

 

「シーラ。僕は必ず生きて戻ってくる。その時ゆっくり僕の話を聞いてくれないか?いや…聞いて欲しい。僕の世界の事を。」

「ケイ…。わたくし、待ってますわ。あなたの帰りをグリフィット国で…。」

 華奢な体で少しだけ自分よりも背の高いケイを見上げるシーラ。

 不安気で切ない表情を浮かべ、触れれば壊れてしまうんじゃないかと思うほど華奢な体。

「…シーラ!!」

「…ケイ…ケイ!」

 二人はお互いの存在を確かめ合う様に抱きしめ合い、体温をその身で感じる。


「おーおーお熱いこった。」

「テオ、茶化すな。」

「ユウの言う通りよ。あんたはさっさとあの光に入ってなさい。」

「あの、そろそろワープに入ってもらっても良いですか?ワープ途切れますよ。」

 ケイはガバッとシーラから体を離し、慌ててワープへ目を向ける。

「シーラ!じゃあ、またね!」

「あっ、ケイ…。」

 名残惜しそうに手を伸ばすシーラ。しかしケイはワープへ向かい駆けて行く。

「…シーラ様。あの時、サンドワームを倒してくれた時の様に…信じましょう。」

 こくりと頷き、シーラは伸ばした手をゆっくりと下ろした。

「…死なないで。」



「ミリル!東領地はどっち!?」

「右です!早く!急いで!!」

「テオ!右だ!ブランカも心配しているかもしれない!そのまま突っ込むよ!」

「よっしゃあっ!!」

 二人は勢いよくワープの中へ入って行き、姿を消した。

 

「よし!ノエル!フー!俺達も行くぞ!」

「そんなん良いから早く入んなさいよ!」

「あわわわ!光が薄くなってるよ!」

 ノエルが走りながら指を差す。


「あ、あれ?」

 ユウの素っ頓狂な声が辺りに響く。

「…ちょっと、これって…。」

「…。」

 ワープに入ったと思った瞬間、目の前の景色は変わらず後ろを振り返ればミリル達がそこにいた。


「あちゃー、間に合わなかったですね…。」

 クッキーを食べながら呑気にそう言うミリルにフーがすかさず体当たりをする。

「あいたっ!!」

「間に合わなかったですね、じゃないのよ!その呑気な感じがムカつくわ。」

「いやいやわたし言ってましたよね!そろそろ途切れそうだって!」

「えー!どうすんの!?また歩かなきゃじゃん!!」

 ノエルが空を仰ぎながら地面に肘をつく。

 

「何やってますのよ…。」

「はぁ!?」

 メズリがシーラに驚愕の眼差しを向ける。

「いや、シーラ様がケイとイチャついてたからみんなそれを見せられて間に合わなかったんですよ!」

「わたくしのせい!?見てないでさっさと行かなかった方が悪いですわ!」

「あんなの普通見るに決まってるじゃないですか!!」

 珍しくシーラに食ってかかるメズリ。


「はいはい。喧嘩はやめてくださいね。ユウ、わたしはあなたの能力を底上げしたと言いました。今まで片翼だったその力…。そこまで言えば分かりますか?」

 少しドヤ顔で笑みを浮かべるミリル。

「ま、まさか…。」

「えぇ、そのまさかです。」

 ミリルはクッキーを三人に一枚ずつ投げ渡す。


「さぁ!ノエルとフーを背中に乗せ、大空に羽ばたきなさい!」


「…あんたバカじゃないの?」

 フーが呆れた様にそう言った瞬間、横から凄まじい風が吹く。


「出た!!翼が…!!出た…!!」

 その場で翼をはためかせ、風を起こすユウ。

「凄い!ユウ!そのままわたし達を乗せて!」

「あぁ!乗れ!」

 身を屈め、ノエルが乗りやすい様に高さを合わせる。

「う、嘘でしょ?本気で言ってんの…?」

「本気だ!フーも早く乗れ!」

「…うぅ、はい。」

 スッとノエルの肩に乗り、髪をギュッと掴む。


「ミリル!ありがとな!みんな!またな!」

「じゃーねー!」

「あんた達気を付けて帰りなさいよ!」

 一度大きく翼を振り、地面から足が離れる。

「よしっ!いける…!」

 ユウはその勢いでぐんぐん上に登って行き、少しだけ上体を斜めにする。

「めっちゃ見える…。何だこれ…。」

 眼下に広がる森の中の、小さな小動物もすらもはっきりと捉える事が出来る視力に驚きながら、ユウはヒール国へと飛び立った。



 ——「…本当にここに戻って来れた。」

 遠くに見える東領地の街。その上空を自由に飛び回るドラゴンの姿。

「ケイ!やべーぞあのトリトカゲが!」

「まだ襲われてはないみたいだ!急ごう!」

「ブランカはどうする?」

「走りながら名前を呼ぼう!この際盗賊が現れても良い!」

「あぁ、…分かったぜ。」

 テオは不敵な笑みを浮かべ、駆け出した。


 

「ブランカー!!」

「羽虫二号ー!」

「はぁ、はぁ、」

「何だぁ、ケイ、もう、疲れた、のか?」

 息を切らしひたすら声を上げ走り続ける二人。

「ちょ、ちょっと休憩…。」

「…ま、まぁいいだろう。しょうがねーから、俺も一緒に、休憩に付き合って、やる…。」


「なぁ、てめーの能力底上げしてもらったんだろ?何が変わったんだ。」

「うーん…よく分からないんだよね。この世界と元の世界を繋ぐ架け橋になり得るって事しか…。」

「何だそりゃ。使えねーな。」


「あー!やっと見つけたー!」

 突然の甲高い声にビクッと体を震わせる二人。

「もう、どこに行ってたんですか?」

「ブランカ…!」

「よぉ羽虫二号。」

「は、羽虫…!?」

「あ、あぁ気にしないで。テオは少し頭がおかしいんだ。それよりごめんね…。一人にしちゃって。」

「いえいえ!それよりどこに隠れてたのですか?」

「いや…実はね、仲間の一人がグリフィット国で寝たきりみたいになっててさ、その子が目を覚ましてこの大陸に来たんだよ。それで…えーっとその子は少し特殊な能力を持っていて、僕とテオは光のワープで西領地まで行ってたっていう…。」

「…はい?それって夢の話ですか?」

「まぁ、普通はそうなるよね…ははは。」

「おいブランカ。それより様子を見に行ってたよな?どうだった?」

 ブランカは東領地の方に視線を向ける。


「見て分かる通り、あの後ドラゴンは東領地へと向かって行き、今はずっと上空を飛び回ってます。」

「何だよ本当に見たまんまじゃねーか。」

「ちょっとテオ!黙ってて!…盗賊達は?この辺にいた?」

 ブランカは首を横に振り答える。

「そうか…。じゃあもう東領地に集まっているのかもしれないね。」

「どうしてそう思うのですか?」

「…ある男が恐怖や絶望といった負の感情を糧にするみたいで…恐らくああやってドラゴンが上空を飛んでるのも恐怖心を煽る為だと思うんだ。」

「負の感情を…?一体誰です?その男は。」

「テッセン…って男なんだけど。」

 ブランカは顎に指を当て首を傾ける。

「テッセン…聞いた事がない。」

「当たり前だろ。てめー如きが知ってるはずがねー。」

「もう、テオはすぐにそうやって…っ!」

 ケイが呆れた様に言うと、突然低く唸る様な轟音が響き渡る。


「おい!あのトリトカゲを見ろ!」

 ケイとブランカが視線をドラゴンに向ける。

 ドラゴンは大きな咆哮をあげ、上空に炎を吹いていた。

「う、嘘でしょ…。」

「あいつ、火を吐けるのかよ…。」

「…テオ!ブランカ!早く行こう!」

「この距離じゃすぐには辿り着けねーよ!」

 ケイは手のひらを前に向け腕を突き出す。

「…僕の出す草に乗れれば…!」

「はぁ?そんな事出来んのか!?」

「…分かんない。とにかくやってみるよ。ブランカ、僕の肩に乗って。」

「はい、分かりました。…何をするのですか?」

「まぁ見ててよ。」

 

 

 

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