第35章 真実
——「ねぇミリル、これ本当にあいつらの所に繋がってるの?」
「繋がってますよ?フーが怖くて来れないんじゃないですか?」
「はぁっ!?あんた目を覚ました途端生意気な事言うのね!」
「あいたっ!!」
フーの体当たりをおでこに受け悶絶するミリル。
「何するんですか!冗談に決まってるじゃないですか!」
「うるさい!あんたのお世話がどんだけ大変だったと思ってるのよ!あー、なんかイライラしてきたわ。」
「えぇ…わたしグリスさんの呪いを解いたのにこんな仕打ちって…。フーのバカッ!もうクッキーあげない!」
「そのクッキーはあたしが用意してたのよ!あんたが起きたら食べれる様に!」
「…そ、そうなんですか?」
ミリルは袋に入ったクッキーを見て目をうるうるとさせる。
「うわぁぁん!フーありがとねぇーーっ!」
ミリルはフーを両手で包み込み、胸元で抱きしめた。
「はいはい、分かれば良いのよ。で、あいつらは何でここに来ないのかしら?」
「俺達はユーノから逃げる為にヤケクソで光に飛び込んだからな…。普通は躊躇するだろ。シーラ、試しにケイを呼んでくれないか?」
「それは良いんですけど…もし来なかったらそれはそれでショックですわね。」
「いやあいつは来るさ。何たって恋人の呼びかけだからな。」
「…そうよね。わたくしの呼びかけに応じなかったら恋人としてケイは失格よ。」
シーラは光に向かい、顔を近づける。
「ケイ。そこにいるんでしょ?わたくしの事を愛しているのならすぐにこっちに来てくださらない?」
「うわぁ、シーラ様それは…。」
「何よメズリ。何か変だったかしら?」
メズリは困った様に顔をしかめる。
「いやぁ、変というか…その…。」
「変じゃないけど少し重いと思うぞぉ。」
「ちょっとオズリ!言葉を選びなさい!」
オズリの頭を上から振り下ろし叩くメズリ。
「いてぇなぁ。だって本当のことじゃねーかぁ。」
「もう良い加減黙りなさい!…あれ?」
光が少しだけ揺らめいたのでそこに目を凝らすメズリ。すると、中から悲鳴の様な声が聞こえた。
——「うわぁぁぁっ!!」
「ケイィィッ!てめー覚えてろよぉっ!!」
「うわぁぁぁっ!!…ん?」
光の穴から突然姿を現し、バタバタと手を動かしながら叫んでいたケイはゆっくりと目を開ける。
「…おい!てめー何黙ってんだ!」
爆弾の入った袋に手を入れながら、激しく手を動かすテオ。目はまだ閉じている状態だった。
「あんた、早く目を開けたら?」
「…あぁ?」
テオはゆっくりと目を開けるとフーの顔が目に入り、何度か瞬きをする。
「何でてめーがいやがるんだ?というかここは…。」
キョロキョロと辺りを見回すテオの視界にシーラとケイの姿が目に止まる。
「ケイ!わたくしの呼びかけに応じてくれましたのね!」
「シーラ!君の声が聞こえたから僕は…。ってあれ?ユウ達もいる。」
「よ!まだ一日しか経っていないのに熱々だな。」
ケイにそう話すユウの顔はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「ちょっとからかわないでよ…。それよりもここはどこ?あの光って何なの?」
「ミリルが目を覚ましましたの。あの光もミリルの能力であなた達をこの西領地に呼びましたのよ。」
「え、ミリルが?」
「お久し振りです!いやー、遂にこの日が来ましたね!あなた達を探し歩いて六年…。長かったなぁ…。」
遠い目をしながら空を見上げるミリル。
「そうか、そういえば六年間俺達を探していたと言っていたな。で、何故探していたのかを教えてくれるのか?」
ユウは期待の眼差しで問いかける。
「勿論です。それが…それだけがわたしの役目。この光の事も同時に説明できます。」
「え、なに?何か大事な話?」
ノエルはミリルから貰ったクッキーを手に持ちながらユウに視線を向ける。
「あぁ。見ての通りミリルは人とは違う能力を持っていてな、何故か俺とケイを六年前から探していたんだと。その理由を今日これから話してくれるそうだ。」
「へー、それってわたし達も聞いてて良いの?」
ミリルに視線を向け問いかける。
「良いですよ。ここにいる皆さんには是非聞いてもらいたいのです。ユウとケイの事、そしてこの世界を取り巻くある男の野望を。」
「あっ!!ブランカ!」
ケイが目を見開き大きな声で叫ぶ。
「そういやそうだな…ブランカがいない。一緒じゃなかったのか?」
ユウに聞かれたケイは頭をポリポリと掻きながら答える。
「いやー、僕達東領地の街を遠くに見てたら…何だっけ?ドラゴン?がいてさ。確かローランがそれに乗って飛び去った化け物なんだよね?」
「…あぁ、あの黒い化け物か…。よく無事だったな。」
「いや違うんだよユウ。そのドラゴンには気付かれてなくて、回り道をして行こうかってなった時にブランカが先の様子を見てくるって行っちゃったんだ。」
「そうなのか…。ミリル、ブランカを探して呼べないのか?」
ミリルは少し難しい表情を浮かべる。
「んー…わたし、ブランカさんの事を知らないので気配が探れないんですよね…。」
「……そうなんだ。ブランカには悪いことしちゃったな…。」
ケイは顔を下に向け眉をひそめる。
「なぁ、グリスは探せるか?一度会ったし気配を探れるならここに呼んで欲しいんだ。無事かどうかも分からないが…。」
「ユウ、ごめんなさい。今はこれ以上力を使ったらまた貯めなきゃいけないの。ユウとケイを探して連れてくるので限界だったんです…。」
「そうか…。分かった。」
「なぁ、ブランカは別に良いんじゃねーのか?あんなチビが盗賊達に見つかる事もねーだろ。それに東領地に行けばまた会えるだろうしな。」
「テオ…。そうだね。ミリル、あの光を使って僕達を元の場所まで送れる?」
「えぇ、送れますよ。ただ…次は一度きり。わたしはこれから力の全てを失います。」
「…あんた、そんなのばっかりね。何かさ、普通にあんたの異常な能力を受け入れちゃってる自分がいるんだけど、一体何者なの?」
「今更ですか?今まで一度もそんな事聞いて来なかったのに。」
ミリルはフーに視線を向けニコッと笑いかける。
「気にはなってたのよ。でもいっつも能力を使い過ぎてぼーっとしたあんたの世話でそれどころじゃなかったの。」
「あはは。…本当にいつもありがとうね、フー。」
「いやだから何者かって聞いてるのよ!今はお礼なんかよりその答えを聞かせなさい。」
ペシっとミリルのおでこを軽く叩き、そのままミリルの肩へ乗るフー。
「二人っていつからの仲なの?」
「あーそれわたしも聞きたい。」
ノエルとメズリが前のめりになりフーに顔を近づける。
「あれ?わたしメズリさんに言いませんでしたっけ?」
ミリルは首を傾げる。
「聞いてないわ。シーラ様も聞いてないですよね?」
「えぇ。クッキーの事とユウとケイの力の事を何か言ってたくらいかしら?」
「ですね。あ、それとまた二人を探さなきゃいけないって嘆いてた。…ん?ミリル普通に呼び寄せてたよね?」
ミリルはクッキーの入った袋から一つ取り出し口に放り込み口を開く。
「はい。普通に光のワープの事忘れてました。」
明るく笑うミリルにシーラとメズリは呆れた様な表情を浮かべる。
「で、フーとはいつからの仲なの?」
ノエルが仕切り直し質問する。
「…二年前、くらい?」
肩に乗ったフーがミリルの顎をペチン!と叩く。
「三年半よ!あんたがしょっちゅう行方不明になるから自分でも分かんなくなっちゃってるじゃない!」
顎を抑え、ヘラヘラと笑うミリル。
「わたしそんなに行方不明になってましたかね?」
「なってるから言ってるのよ。…まぁ、そんな訳であたしとこの子は三年半前に東領地の街道で出会ったの。フードで顔を隠して道行く人に質問してたわ。」
「質問?何をですか?」
「ノエル、言っとくけどまともな質問じゃないわよ。『何か最近体の不調はないですか?わたしでよければ治して差し上げます』って。フードで顔を隠した怪しい人にいきなりそんな事を言われたって怖いだけなのにね。」
「…なんか、ミリルって今までどうやって生きてきたのかしら?凄く気になりますわ…。」
「ふふふ。フーと出会わなければわたしはいつまで経ってもユウ達に会えなかったかもしれませんね。『せめてフードを取って声をかけなさい。あと、もっと明るく喋りかけなさい』って注意を受けてからは道行く人がわたしの話を聞いてくれる様になりましたから。」
ミリルはしみじみとそう言うと、ユウとケイに視線を向ける。
「さぁ、懐かしむのも良いですがそろそろ本題に入りましょうか。」
——ミリルはユウとケイの体に触れ目を閉じる。
「何をしているんだ?」
「…なるほど、あなた達は元々南領地にいたのですね。そりゃいくら探しても会えなかった訳だ。」
ユウの問いかけを無視して一人でぶつぶつと呟くミリル。
「おい、もっと分かる様に言え。」
「テオ、お前本当に口が悪いなぁ。」
「オズリ、てめぇも本当に暑苦しい奴だな。…なぁミリル。俺は今の内に爆弾の材料を集めてくる。話はどのくらいかかるんだ?」
「一時間もあれば…。ただ、もしかするとそれ以上かかるかもしれません。」
「…俺とケイは東領地の街がすぐそこまでって所まで来てたんだ。盗賊共に追われながらな。さっさと話を終わらせて俺達を元の場所まで送れ。」
「大丈夫です。必ず無駄にはならないと保証しますので。」
「…ふんっ。」
テオが森の奥へと歩き出し、オズリがそれについていく。
「付いてくんじゃねーよ!」
「迷惑はかけねぇよぉ。じゃ、メズリィ。姫をよろしくなぁ。」
そう言って森の奥へと消えていく二人の背中をミリルは見送る様に見たあと、ユウとケイに視線を向ける。
「さ、あまり勿体ぶるとテオさんに怒られるので手短に。」
「…あぁ。全てを話してくれ。」
ミリルは少し悲しそうな目をユウに向け、穏やかな優しい口調で口を開く。
「ユウ、ケイ。あなた達二人は元々この世界の住人ではありません。…これからお話しする事は全て真実。心してお聞きください。余計な横槍は禁物ですよ?」
——遥か昔、あなた達が認識できないわたし達の世界にある邪念が蔓延しました。
わたし達の世界には実体がなく、実体のある世界の者達への干渉は意識下の中で禁忌とされていたのですが、その邪念はあらゆる世界への干渉を行い、蔓延していた邪念が少しずつ一つにまとまり始めました。
その時わたし達の世界では様々な意識がその邪念に恐怖の念を抱き始め、負の感情を糧とするその邪念体は力を増して更に明確な悪意を抱いていきました。
そして、まだ不完全だった邪念体は全ての世界を一つにまとめようと画策し、その為の力を貯めようと自身の根源でもある負の感情を取り込むべく、あらゆる世界に恐怖と絶望を与え、遂には人の形を手に入れる程になった…。
その邪念体はテッセンと名乗り、やがてこの世界のある性質に目を付けました。
この世界の住人ですらも気付かない、大きな力。妖精族の癒しの能力やユーノとノエルの能力の源でもあり、今は亡きドワーフ族の不思議な能力。その力の正体は【魔力】。
テッセンはこの世界に溢れる膨大な魔力を使って支配をしようと企みました。
そしてその魔力を使い、他の世界から無理やりこの世界に連れてこられた生物がいます。
グリフィット国のサンドワームと空の支配者ドラゴン。
異世界ではそのどちらもが凶悪な【魔物】として君臨する支配者です。
ただ、それだけの強大な魔物を召喚するには多大な力を使う様で、サンドワームを召喚したのはおよそ十年前。グリフィット国を恐怖に陥れ、各領地やヒール国では盗賊達に住民達を襲わせ負の感情を多く取り込み力を蓄えていました。
…そして、六年前。ドラゴンを召喚する為の力を蓄える期間にテッセンはある世界を見つけました。その世界には、大昔に魔力が存在していた痕跡があり、現在その世界では【科学】という全く新しい文明が発展し、テッセンは最終的な目的としてその世界を元に、全ての世界を一つに繋げようと画策しました。魔法よりも簡単に沢山の人間を殺す事ができる科学に魅了されて…。
——「ユウ、ケイ。あなた達は六年前その世界から無理やり連れてこられた犠牲者。家族と引き離され、何も分からないままあの草原に放り出された。まだ小さかったあなた達には到底理解できず、泣き叫んでいました。…いや、例え大人でも気がおかしくなる程の悲劇ですね…。」
ミリルは眉を下げ、呆然と話を聞くユウとケイに目を向ける。
「…今の話がテッセンとあなた達の真実。次はわたしの話をします。」




