第33章 強襲
昨日投稿するはずがここだけ手違いで出来てませんでした泣
——テーブルに置かれた皿の上に、たくさんのクッキーが並べられ、それを黙々と食べ続けるミリル。
シーラとメズリも同じテーブルに座り、一緒にクッキーを頬張っていた。
「サンドワームが倒された事は既に各領地に広まっているらしいですよ。あの商人が言ってました。」
メズリはそう言うと、コップに入った水を一口だけ飲む。
「ふーん。でしたらまたすぐに船は来ますわねきっと。」
シーラはミリルに視線を向ける。
「やっと…やっと目が覚めたと思ったのに…。まさかもうみんないなくなってるなんて。」
ミリルはメソメソとしながらクッキーに手を伸ばす。
「…あなた、そんな人だったかしら?もっと寡黙な方だと思ってましたけど。」
「あぁ、大体のわたしはこんな感じですよ。力が完全に戻ったのでもう大丈夫です。ただ…。」
「ただ?」
メズリが首を傾げる。
「またユウとケイを探さなきゃいけないなんて…。何と残酷な運命…。」
悲観的にそう話すミリル。しかし、それでもクッキーに手を伸ばしている。
「行き先はどっちみちヒール国か東領地ですわ。船も明日には乗れますからすぐに会えますわよ。」
シーラの言葉にメズリは頷く。
「そうそう。あ、良かったら私もお供しようか?ミリル一人で行かせたらケイ達に怒られそう。シーラ様、良いですかね?」
「あら?わたくしは初めからそのつもりでしたわよ?ケイにまた会えるなんて…きゃーっ。」
一人で勝手に盛り上がるシーラにメズリは眉をひそめる。
「…あの、シーラ様。もしかしてシーラ様もご一緒に…?」
「当たり前じゃない。あなたはわたくしを置いていこうとでも思ってましたの?」
メズリの額に冷や汗が滲み出す。
「ちょ、あ、あの…。私はオズリを連れていこうかと…。女王様が許可するとは思えませんし…。」
「ふふ。お母様の事は心配しないで大丈夫ですわ。きっと説得してみせますから。もし説得できなかったとしても無理やり行きますわ。」
メズリは困った様な表情を浮かべ、その後諦めた様に肩を落とす。
「…ねぇミリル、どうしても行かなきゃダメ?そんなにすぐ会いに行く理由は何?」
メズリはシーラの顔色を気にしながらミリルに問いかける。
「…あの二人に早く真実をお伝えしないといけないんです。それがわたしのこの世界での存在理由ですから。」
「そ、そう…。よく分からないけどそれ程大事なのね…。」
「えぇ。ユウの能力を上げてケイの能力を繋げる。どちらも今の現状に一番効果的なんです。」
シーラとメズリは首を傾げ、クッキーを頬張るミリルを見ていた。
——ケイ達と別れて数時間後、ユウ達は北領地へ難なく辿り着き、ヒール国との境目付近で野宿の準備をしていた。
「盗賊達、全然いないな…。」
ユウはそう呟くと、焚き火の薪を綺麗に積んでいく。
「あんた何残念そうにしてるのよ。その剣で戦いたかったの?」
ヒラヒラと舞いながら果実を探すフーの声は少し呆れている。
「…いや、そんな事はない。少し拍子抜けだなって。」
「ヒール国についたら嫌でも戦うことになるんだからさ。今は盗賊がいない事を喜ばなきゃ。」
ノエルは綺麗に置かれた薪に火を灯そうと、杖を軽く構える。
「全ての盗賊が本当にヒール国に集まっているならケイ達と別れなくて良かったな…。」
「あらそう?あたしはテオがいないだけで結構気楽だからこれで良かったわよ。」
「北領地にはたまたま盗賊がいなかっただけで、南領地にはいるかもしれないじゃん。ユウの判断は間違ってないと思うよ。」
ノエルは小さな火を薪につけ、息を吹きかける。そんなノエルに視線を送るフー。
「…ノエルってユウの事好きなの?」
一瞬強い息を吐いたノエル。その瞬間、火の粉がブワッと巻き上がる。
「ちょ、ノエル!」
「うわわ!ごめん!」
服に降りかかる火の粉を慌てて払うユウに、ノエルは動揺しながら謝る。
「…何やってんのよ。」
「フーが変な事言うからでしょ!…あぁもうっ!」
少し暗くなった森の中に三人の賑やかな声が響いていた。
——一方、ケイ達は森の中で盗賊達と戦闘を繰り広げていた。
「南領地に入った途端こいつら…っ!」
テオは苛立ちながら爆弾を投げると、辺りに砂埃が舞い上がる。
「テオ!奴等は僕が拘束する!一々殺してたらキリがないよ!」
「るせー!拘束しただけじゃまたこいつらが追ってくるだろーが!」
「そ、それは…。ごめん…。」
ケイは目線を下に下げ、弱々しく言う。
「…ちっ!トラウマだかなんだか知らねーが、殺さねーとこっちがやられちまう!ケイ!さっさと拘束しろ!」
「う、うん!ごめんねテオ…拘束しか出来なくて。」
ケイは地面に手をつけ盗賊達を一度にまとめて拘束する。
「て、てめー!何だこの蔓は!」
「おいおい動けねぇぞ!」
盗賊達は焦った様に、体をよじらせながらもがいている。
「はっはー!お前ら全員木っ端微塵だ。死ねっ!!」
拘束した盗賊の数人に爆弾を投げつけるテオ。体に触れる爆弾に恐怖の表情を見せた後、爆発音と共に消し飛んでいく。
「今です!駆け抜けますよ!」
ケイの肩に乗ったブランカはヒール国への方角を指差しながらそう言うと、走り出したケイの顔を覗き込む。
「ケイさん…。何かトラウマがあるんですか?」
「…うん。以前ちょっと嫌なことがあったんだ。それ以来僕の能力で人を殺すのが怖くなっちゃって。」
「…そうなんですね。」
ブランカは拘束されたままの盗賊を振り返り一瞥し、もう一度ケイに視線を向ける。
「でも…サンドワームに対しては平気だったのですか?」
「サンドワームは人じゃないから…。ごめん、話はあとでね。今はなるべく奴等と距離を稼ぎたいんだ。」
「…そうですね。すみません、私は肩に乗ってるだけなのに。」
ケイはそれから何も言わず、必死に走り続けた。
「くそが…。火も囲えねーのかよ。」
薄暗い森の中。大きな木の洞の中で、ぎゅうぎゅう詰めに座るテオとケイ。ブランカはそんな二人に申し訳なさそうな顔を浮かべる。
「すみません、お二人にばかり窮屈な思いをさせて…。」
「あぁ?」
テオの様子を見たケイが即座に言葉を返す。
「ブランカが謝る事ないよ。盗賊達が予想以上に多くてしつこいのがいけないんだ。でしょ?テオ。」
「…ふん。で、ここで夜が明けるのを待つのか?」
「そうですね…一度私がこの辺の様子を見てきます。お二人はここでしばらく休憩しててください。」
「ありがとう。見つかる事はないと思うけど、もしも危なくなったらすぐに逃げるんだよ。」
「はい!では、すぐに戻ります。」
ブランカはケイの肩からぴょいっと飛び降り、そのまま上空へと飛んでいった。
ブランカが様子を見に行ってから数分後、テオが静かに口を開く。
「…おい。」
「ん?なに?」
「お前は前に言ったな?困ってる人達の為の組織を作るって。」
「…覚えてたんだ。」
「当たり前だ。どうだ?具体的には何か見えてるのか?」
ケイは暗くなった視界の中、自分の足をさすりながら答える。
「…まだ不確定な要素があるから何とも。ただ、この国にはきっと盗賊相手に立ち向かえる人達がいると思うんだ。グリスの様に昔旅をしていた人や、誰かを守りたい人。そんな人達と一緒にこの世界を平和にしていけたらなって…。」
テオは暗闇の中、じっとケイの顔辺りを見る。
「…俺はそんな奴をお前達以外に見たことがねぇ。どいつもこいつも逃げ腰で、奪われるのが当たり前って顔をした連中ばかりだ。お前の夢が叶うとしたら…盗賊のいなくなった世界で既に平和になったあとだ。言っている意味がわかるか?」
「…うん。君は盗賊に立ち向かえる人がいないと、そう思ってるんだよね?」
「あぁそうだ。盗賊絡みじゃない困り事ならその組織も成り立つだろうぜ。」
二人の間に沈黙が走り、森の中の虫の音がやけに大きく聞こえた。
ケイは木々の間から見えるわずかな月明かりを見ていると、微かに光りながらゆっくりと近づいてくるブランカに気づく。
「ブランカ…どうだった?」
「この辺には盗賊の姿は確認できませんでした。」
ブランカの言葉に安堵の表情を浮かべるケイ。
「良かった。取り敢えずはゆっくり出来るね。」
「バカか。今はいないだけでいつ襲われるか分かんねーんだぞ。少しここで休息を取ってすぐに出発するべきだ。」
テオは呆れた様にそう言うと木の洞から体を出し、地べたにゴロンと横になった。
「そうか…そうだね…。はぁ、、。」
ケイはため息を吐きながら呟き、革袋に入った水に少しだけ口をつける。
「…立ち向かえる人…か。」
「え?何か言いました?」
「い、いや何でもないよ!じゃあ僕達も少しだけ休もうか。」
ケイは慌ててブランカにそう言うと、剥き出しになった木の根っこを枕がわりに横になる。
「私が見張っておきますのでどうぞゆっくり寝ててください。」
「ブランカ、君も少し寝た方がいいんじゃないの?」
「いえ、私はケイさんの肩に乗ってばかりでしたのでそこまで疲れてるという訳では…代わりにここでの見張りは任せてください。」
「そう?じゃあお言葉に甘えて…。何かあったらすぐに教えてね。」
「はい!」
ケイはチラッとテオに視線を向ける。
「…相変わらず寝るの早いな。」
「疲れているのですよ。きっとケイさんも寝付きが良いのでは?」
「はは、そうかもね。じゃ、おやすみ…。」
ケイはそう言うと目を閉じる。そして、すぐに寝息を立て始めた。
——夜明け前、フーはユウとノエルの寝顔を見つめる。
「こんなにぐっすりと眠れるものなのね…。ま、昨日はいつ盗賊が襲ってくるか分からないって見張りをしていたから当然か…。」
ゆっくりと羽ばたき、ユウを起こそうと近づくフー。
「…えっ!なに!?」
突然上空に大きな炎の玉が出現し、あたりを熱気が包む。
「ユウ!ノエル!起きて!」
フーが二人に視線を向けると、ノエルは既に目を覚まし、杖を炎に向け構えていた。
「大丈夫。わたしに任せて。」
「ノエル!あんた起きてたのね!」
「起きてたんじゃなくて起こされたの!いくよ!」
ノエルの杖の先から大きな氷の塊が、勢いよく炎の玉に向け放たれる。
ジュゥゥゥゥ…。という音と共に蒸気が立ち込め、氷は水となって地面に降り注ぐ。
「ノエル!この炎は…!」
慌てて飛び起き、白銀剣シルヴァを構えたユウは上空を見上げ叫ぶ様に言い放つ。
「えぇ。まさか襲ってくるのがお母さんだとは思わなかった…!」
杖から氷を出し続け、炎の玉に当て続けるノエル。
「ちょっと待って!あんたのお母さんの姿が見えないわ!一体どこから…。」
——「ユーノ様、あの男は殺しても良いんですよね?妖精もいますが…。」
「あぁ。妖精もろともさっさとやれ。」
立ち込める蒸気の中聞こえた会話。ノエルはうっすらと見える人影に視線を向ける。
「…お母さん!!」
「ノエル…久しぶりだな。この二年間、一体どこに行っていた?」
姿を見せたユーノはツンと冷たい眼差しをノエルに向ける。
「…それはこっちのセリフだよ。この十年間、お母さんは自分が何をしてきたか分かってるの?人を殺して恐怖のどん底に突き落として…。わたしの事なんか気にもかけてなかったくせに!」
ユーノは表情も変えずに淡々と口を開く。
「…質問の答えになっていない。この二年間、お前はどこに行っていたと聞いている。」
「…お母さんを、あなたを止める為にこの能力を伸ばしていた。わたしの気持ちが届くまで、あなたに対抗できる様に!」
ノエルの周りにたくさんの氷の塊が出現し、その全てが炎の玉に向かっていく。
先程よりも激しい蒸気が吹き出し、炎は少しずつ鎮火されていく。あたりには相変わらず水がボタボタと落ちていた。
「お前がいたから予想外にもサンドワームが倒された。もう邪魔はさせぬ様に必ず連れて帰るぞ。」
ユーノは激しい蒸気の中、再び炎の玉を数個出現させる。
「わたしは二年前のわたしじゃない!絶対にあなたを止めてみせる!」
ノエルの周りに更にたくさんの氷が出現し、ユーノと睨み合う。
「こいつら、蒸気の中から突然現れる!くそ!」
盗賊達の猛攻に一人抗うユウ。
「ユウ!怪我したらすぐに治してあげるわ!存分に暴れなさい!」
フーはそう叫びながら、少し離れた位置から声をかける。
「暴れろって言ったってこの蒸気じゃ…。あ!」
ユウは剣を待つ手を下ろし、背中に意識を集中させる。
「お、あいつ剣を下ろしたぜ。今の内だ!行け!」
盗賊達が一斉にユウに斬りかかる。しかし、次の瞬間…。
「ぐふぅっ!」
斬りかかった盗賊の一人が突然血を流しながら後ろへ吹き飛んだ。
「お、おい!あいつは…?」
斬りかかったはずのユウは盗賊達の視界から消えており、盗賊達はキョロキョロと見回す。
「ど、どこに行った!?」
「…全部で七人か?」
不意に背後から聞こえた声に、ばっと振り向く盗賊。
「…かっ!かはっ…。」
振り向き様に喉を切られ、あっけなく地面に倒れる。
そして、ユウは背中の片翼を大きく羽ばたかせ、蒸気の中を疾走した。




