第3章 手掛かり
――小屋へと侵入したユウ。部屋の中には飾り気のない小さなテーブルと、それに合う椅子が三脚置かれており、その奥には地下への階段があった。
ひとまずは誰もいない事に少し安堵したものの、地下への階段は不気味な程暗く、ユウの恐怖心は増していく。
意を決し恐る恐る気配を探りながら、真っ直ぐな階段を降りていくと、静寂の中にひっそりと木製の扉が目の前に現れる。
「…ふぅ。」
深呼吸をし、静かに気を引き締めてドアノブに手をかける。
「……。」
中から少なくとも二人以上の人の声が微かに聞こえ、一瞬手の力が緩む…。
しかし、脳裏にグリスの顔が浮かぶとそれが原動力となり、再びドアノブに力を込めた。
ギィ、と軋みながら開いた扉の先にいたのは三人の盗賊。
「何だぁお前?」
先程尾行していた男が威嚇をする様に近づいてくるが、ユウはわざと冷めた眼差しを向け言い放つ。
「悪いが死んでもらう。…覚悟しろ。」
尾行していた男が短剣を振りかざし迫るが、ユウは別の二人へ狙いを定め、即座に剣を抜き放つ。
一人目はただ喉を斬り裂き、二人目は心臓目掛けて突き刺した。
「ぐっ…ごはっ!」ユウを睨みつけ、後ろによろめきながら崩れ落ちる盗賊。最初に斬りつけた盗賊は既に床に倒れ、絶命していた。
残った一人に剣を向けるユウ。
「ふぅ…。」
一息つき、ゆっくりと距離を詰めていく。
「お、お前…何者なんだ…?」
床に尻餅をつきガタガタと震える男。持っていた短剣も床に落ち、戦意は既に消失していた。
——「そろそろ様子を見に行くか。」
小屋を見張り出して数十分が経ち、テオはケイにそう言うと小屋の入り口に進む。
「何かあったら声出して知らせるよ。」
ケイに背を向けたまま手を上に上げて返事をし、入り口付近でユウに殺された盗賊を冷たい目で見下ろす。
「ふんっ!クソ雑魚が。」
テオは死体に唾を吐いて、小屋へと入っていった。
「殺風景な部屋だな。」
部屋の奥の地下階段を降りていくテオ。
「うぅ…。」
呻き声が半開きの扉から漏れている。
テオは扉を開き、血溜まりの中で絶命する二つの死体を一瞥するとユウへ視線を向ける。
「どうだ?情報は聞き出せたか?」
床に力無く座り込み、所々赤く腫れ上がった顔でうつろな目をした盗賊。その胸ぐらを荒々しく片手で掴むユウは、テオへ視線を向ける事なく答える。
「レイドという男がこいつらのリーダーらしい。例の子もそいつが捕えている。ただ…。」
ユウは胸ぐらを離し、今度は男の首に剣を当てがい語気を強める。
「こいつがレイドの居場所を吐かないんだ。俺もそろそろ我慢の限界なんだが…?」
男の呼吸は荒くなり、うつろな瞳が段々と恐怖に染まっていく。
「ひ、避難区画です…。レイドさんは商人と偽ってそこで暮らしている…。」
テオは男の髪を掴み、思いっきり上に引っ張り上げると乱暴に口を開く。
「避難区画のどこにいるんだって聞いてんだろうがぁっ!いつまでも勿体ぶって話してんじゃねぇよ!」
「す、すみま…!孤児院の側にある、赤い屋根の家です…っ!!」
テオは言い終わるとすぐにみぞおちへ膝蹴りを喰らわせ、悶える男を見下ろしながら口を開く。
「よし、もう情報は引き出せない。殺すぞ。」
「あぁ。」
ユウはそう言うと、悶え苦しむ男の喉元に剣を当てる。
男は一瞬抵抗しようと試みるが、死を受け入れる様に全身の力を抜いた。
——「レイドの事は知らなかったのか?」
階段を登り、テーブルのある部屋へ上がったユウはテオにそう質問する。
「さぁな。今まで殺した盗賊連中はそんな名前一言も言ってなかった。リーダーだから隠して当然か。」
「そうか…。レイドは数いる盗賊を従える奴だ。油断はできないな。」
ユウが小屋の扉を開けて外に出ると、何やら地面から蔓が突き出て一人の男が貫かれていた。
「ケイ!?盗賊か?」
少し離れた所にいるケイは地面から手を離し、ゆっくり立ち上がる。
「…びっくりした。この人突然現れるんだもん。」
テオは貫かれた盗賊を冷めた目で一瞥すると、ケイに視線を向ける。
「情報を聞き出せた。ここには盗賊共が頻繁に現れるらしい。場所を変えるぞ。」
テオはそう言うと街の中心部へと歩き出す。
「奴等は何人くらいいたの?」
ケイの問いかけにユウは先程の事を思い出しながら虚空を見つめる。
「全部で3人だ。」
「…そう。」
ケイは静かにそう言うと、先に歩き出すユウの後ろ姿をしばらく見つめ、後を追う様に歩き出した。
街の中心部ではもう日が沈み、薄暗くなってきたにも関わらず沢山の人が行き交っていた。
返り血のついた服は目立つから、とケイが安く買ってきた服に着替えたユウ。
「今日はもう遅い。明日の朝避難区画へ向かうぞ。」
テオの提案に賛同する二人は宿屋をどこにするかを話していた。
「絶対この前の宿屋はやめた方がいいよね?置き手紙に気付いたグリスが真っ先に探しそう。」
「確かに。もっと別の…何なら安い所でいいんだがな。」
「それなら俺についてこいよ。格安で泊まれる所知ってるぜ。」
テオは自信満々にそう言うと、悠々と歩き出す。
「大丈夫かな?何かとんでもない所へ連れて行かれるんじゃ…。」
ユウは不安そうに呟くケイの背中に少しだけ力を込めてポンと叩く様に押した。
「多分!大丈夫だ。」
「…はぁ。」
ケイは深いため息を吐き、二人はどんどん進むテオへ急いでついていく。
――窓を閉め切り、空気の澱んだ部屋で話し込む三人の男。大柄な男がイライラした口調で口を開く。
「誰がやったか分からねえってどういう事だ。あのアジトで五人もやられてんだぞ!」
あまりの威圧に仲間の一人が萎縮しながら言葉を返す。
「…四人は明らかに剣で殺されてたのですが…一人はその…。」
言いかけて言葉に詰まる男。大柄な男はその態度に益々苛立ち、その男の顔に不意打ちで殴りつける。
その拍子に後ろへ吹き飛ぶ様に倒れ、溢れ出てくる鼻血を手で抑えながら必死に答える。
「す、すみません…!一人だけが異様な死に方で…っ!その、草の蔓で貫かれて死んでいました!」
一瞬、時間が止まってしまったのかと錯覚する程の沈黙が訪れる。
「…舐めてんのか?」
ドスの利いた声で威圧をしながら男へ詰め寄り、持っていたナイフを男の首筋に当てる。
「本当です!信じてください!レイドさん…っ!」
部屋の壁に鮮血が飛び散り、男は床にべちゃっと音を立てて崩れ落ちる。
「ったく。舐めた事言いやがって。おーい!こいつ片付けろ!」
ナイフについた血を布で拭きながら、レイドは部屋の外にいる部下に命令をする。
「…レイドさんあの女、『ミリル』はどうですか?」
部屋へと入り、死体を運び出す三人の部下を見ながら、もう一人の盗賊がレイドへ問いかける。
レイドは鬱陶しそうに部屋の奥の階段を見た。
「はぁ。」
ため息をついて、言葉を続ける。
「あいつ、中々隙を見せねぇ。早い所懐柔したいんだがな。」
「そうですか…。あの能力は中々使えそうなんですがね。」
「……。」
突然何かを考えだすレイドを不思議に思い、仲間が声をかける。
「レイドさん?どうしました?」
「…このアジトに人を呼んでおけ。万が一ミリルが奪われでもしたら…分かってるな?」
レイドの言葉に仲間は訝しみながら答える。
「まさか…ミリルを狙って…?」
「念の為だ。俺はしばらくここに張り付く。ジル、お前が俺の代理で動け。」
ジルと呼ばれた仲間は佇まいを正し、真っ直ぐにレイドを見る。
「分かりました。」
そう静かに返事をすると、ジルは部屋を後にした。
「草の蔓で貫かれたという話、本当か?」
レイドに代理を託されたジルは、仲間に事情を聞いていた。
「あぁ、確かにこの目で見た。その蔓が枯れていくところもな。…それより、あいつは殺されたのか?」
ジルの脳裏に先程の光景が浮かぶ。
「殺されたよ…。キレたレイドさんに喉を切られてな。」
仲間は一瞬顔を歪め視線を落とすと、すぐに真顔に戻ってジルへまた視線を向ける。
「俺達は本当に見た。…レイドさんが例え信じてくれなくても…。この目で。」
ジルは仲間の肩をポンと軽く叩く。
「あぁ。俺はちゃんと信じている。」
ジルはそう仲間に伝え隠れ家を出る。
時刻は夕方、行き交う人々を監視する様に見るジルの目には、怒りが込められていた。
――「かなり良いところだな。本当にこんな安くて良いのか?」
テオに案内されて着いた宿屋はとても格安とは思えない程高級感のある店構えをしており、部屋も立派な作りをしていたのでユウは受付で提示された金額を信じきれずにいた。
「僕達騙されているんじゃ…。」
ケイがそこまで言うと、テオはニヤっと笑い、自慢げに口を開いた。
「前に俺が盗賊から助けた人がここのオーナーで、たまに来るとこうやってサービスしてくれるんだぜ。すげーだろ。」
ユウとケイはお互いに顔を見合わせると同時に思わず吹き出してしまう。
「いや、すまん。ただお前が人助けとは柄にもないなと思ってな。」
「たまたま助けた形になっただけでしょ?それをまるで最初から助けに行ったみたいな事を言うから…。」
テオは二人をギロリと睨み、血走った目で爆弾の入ったバックに手を入れる。
「てめーらぶっ殺してやらぁっ!」
慌てたユウが即座にテオの手を抑え、ケイが土下座をしながら謝罪する。
「テオ、すまん!悪気はなかったんだ!」
「ごめんね、本当にごめんね!」
「ったく!おら、早く手を離せ。」
二人の謝罪に未だ納得がいかない様子のまま大人しくなったテオ。ユウの拘束から解放され、テーブルにバッグを置いた。
「飯は流石にサービスして貰うつもりはねーからな!てめーらに出してもらうぜ。」
ユウはその言葉に頷く。
「あぁ、奢らせてくれ。」
テオはニヤリと笑い部屋の扉へと向かう。
「そう決まりゃ早速飯だ。ほら、行くぜ。」
「一階にあったご飯屋さんでしょ?高そうな所だったなぁ…。」
ケイは少し渋る様な表情を見せながら財布の中身を確認していた。
——「ねぇ、さっきの話で思いついた事があるんだけどさ。」
ご飯を食べ終え、部屋へと向かう途中にケイが口を開く。
「テオって結果的に人助けをした事で感謝されて、ここを安く利用できる様になったんでしょ?そういう事だったらさ…。」
二人を交互に見ながら輝かせた目を向ける。
「僕達で組織を立ち上げない?困ってる人を助けて報酬を貰う、みたいなさ!」
テオは呆れた様な表情でケイを見る。
「どうやって困ってるか確かめるんだよ。わざわざこっちから聞きにいくのか?馬鹿馬鹿しい。」
ケイはムッとした表情でテオに言葉を返す。
「困ってる人の依頼を受けるんだよ!その依頼を達成したら報酬を貰う。どう?お互いにとって悪い事ではないと思うんだよね。」
ユウが最後まで聞いて小さく頷く。
「確かに悪くない。だが、その依頼の内容ってどんなんだ?」
「うーん、例えば盗賊を倒してくれ…とか?」
「だとしたら依頼内容によって報酬変えないとな…。」
ケイは苦い顔をしながら答える。
「そこなんだよ…。依頼の内容と報酬のバランスがね…。」
テオは、はっはっはっと笑いながら先頭を歩き、後ろを振り向いてケイに口を開く。
「諦めな。この国レベルでの組織じゃねーと成り立たねーよ。」
「やっぱりそうだよね…。」
落ち込むケイの肩に手をポンと置き、支える様に隣を歩くユウは優しく微笑んでいた。
部屋へと戻った三人は真剣な顔で明日のレイドとの戦闘の動きをテオ主導で進めていた。
「良いか?明日は何人潜んでいるか分からない盗賊共と、街の中で激しく戦う事になる。そこでだ。」
テオはテーブルに置いてあるバッグを指差し、やや興奮気味に切り出す。
「俺は花火爆弾も打ち上げる事ができる。これを大量に打ち上げながら俺の名前を同時に叫び、奴等を誘き出すんだ。」
ケイは眉をひそめテオに視線を向ける。
「それで本当に盗賊達は集まってくるかな?」
「大丈夫。ちゃんと奴等を挑発する為の煽り文句も叫ぶつもりだ。」
ユウは自信満々に言い放つテオの作戦を聞き、二回ほど頷いた。
「なるほどな。何の罪もない住民達には悪いが奴等を誘き寄せるのなら効果的かもしれない。…それで?俺とケイの役割はどうする?」
テオは不敵な笑いを見せ、答える。
「まずケイは俺と一緒に行動してもらう。お前の能力は多勢相手にも有効だ。ユウはレイドの隠れ家に単騎突入してこい。」
ユウの表情が少しだけ強張り、拳をギュッと握りしめる。
「…そうくると思っていたよ。レイドは俺に任せろ。」
覚悟をその目に宿し、ユウは言い放った。
「よし、僕も頑張んないとね!あ、でも能力を使いすぎると凄く疲れて腕も痛くなるんだ。だからもし僕が疲れ果ててたらその時はお願いね、テオ。」
テオは目をこすりながら、緊張した様子もなく呑気にあくびをする。
「ま、そういう事だ。明日になっていきなりビビるのはなしだぜ?」
そう言うと、テオは自分のベッドへ行きさっさと寝てしまった。
「…絶対わざと無視したよね。…それにしても、テオって緊張とかしないのかな…。」
既に寝息を立てて熟睡しているテオを感心した様に見るケイは、ユウへ意見を求める。
「さぁな。だがあの胆力は見習わなければならない。」
ユウはそう言いながら自分のベッドへ向かい、横になる。
ケイは街灯の照らす灯りが僅かに差し込む窓を遠い目で見ながら呟く。
「グリス…待っててね。」




