第27章 戦いの火蓋
——女王の城、玉座の間。
その窓辺でケイとシーラが何やら話している。
「おい、てめーら何やってんだ。早く種を蒔いてこい。じゃねーと終わらねーだろ。」
「は?いや、もう終わりましたわよ。」
「…ひと月ちょっとかかるって言ってたじゃねーか。」
テオはシーラの予想外の返事に少し怯みながらも何とか言い返す事ができた。
「…あくまでも目安としてケイはひと月と少しって言ったんですのよ?ちょうどひと月で終わっても何の不思議もありませんわ。」
「…まぁ、確かにそうだな。」
「テオ?何をそんなに焦ってるの?」
ケイがテオにそう問いかけると、ノエルの肩に乗ったフーが答える。
「このバカ早く戦いたいのよ。火の能力のおかげでこいつの爆弾強化されてるから。」
「へー!凄いなそれは!どんなふうに強化されてるのさ!」
「別に強化された訳じゃねーよ!少しだけ自由に爆破できるようになったんだよ!」
テオはフーに軽くデコピンをし、みんなから少しだけ離れた壁にもたれかかる。
「いったー!あんた覚えときなさいよ。」
「おいおい喧嘩するなよ…。」
ユウは呆れたようにそう言うと、仕切り直す様に一度咳払いをして口を開く。
「えーっと、一応ケイとシーラの種蒔き作業が終わった。各々が暇な時に手伝ってくれたおかげで割と早くな。」
「ユウが一番参加してなかったね。手伝い。」
ノエルが意地悪な笑顔をユウに向けて言い放つ。
「ま、まぁ俺は俺で忙しかったからな。」
「あんた剣ばっかり振ってたからでしょ。いつもどこで特訓してたのよ。」
フーがノエルの肩で腕を組みながら指摘する。
「ユウはね、ドワーフの集落跡地に居ましたわ。遠くで見てたけどひたすらに剣を振るってましたわね…。」
ユウはバツが悪そうに目線を下に向ける。
「…でも特訓のおかげであの片翼がもう一度出せた。いや、出せる様になった。」
「え!?本当!?だとしたらユウ、あなたローランを除くと最早敵なしですわね。」
シーラが驚いた様子で話す。
「それは俺もそう思ってた。へへへっ。」
「ユウ、そんな気持ち悪い笑い方をしてる場合じゃないよ。早く要件を言ってよ。」
「あ、あぁ、そうだな。」
ノエルに指摘されたユウは再び仕切り直して咳払いをした。
「えーっと、この国でやるべき事はもうないので俺達はそろそろ…」
「みなさん!大変です!」
ユウの言葉を遮り、焦りながらシーフリードが玉座の間に駆け込んでくると、荒い呼吸のまま口を開く。
「ヒール国で…大規模な戦闘が行われた模様です!」
ホール内に緊張が走り、ユウが険しい顔で問いかける。
「女王様、…その情報はどこで?」
「先程船に乗ってきた商人からです。ノエル、あなたにも関係ありますわよ。」
「…まさか。」
シーフリードはこくりと頷き、続ける。
「ヒール国内では空から無数の隕石が降り注ぎ、壊滅的な被害を受けているとの事でした。今回この情報を持ってきてくれた商人はその光景を遠くから見ていたそうで、まるでこの世の地獄だった…と表現しています。」
ノエルの手に力が入り、歯を食いしばらせる。
「お母さん…。一体何が目的で…。」
「女王様、その商人はどうしてこのグリフィット国へ来たのですか?」
ケイがシーフリードに問いかける。
「直接聞いてみて。この人よ。」
メズリとオズリに連れられて、玉座の間に入ってきた一人の男。
「どうも。えっと、ユウさんとケイさんはどちらでしょうか?」
「「はい!」」
名前を呼ばれた二人は一斉に声を出し前に出る。
「あぁ、あなた達が…。実はですね、わたしはあるお人に言伝を頼まれまして。グリス・ロールという方をご存知ですね?」
「っ!聞かせてください!」
ユウは食い気味に答える。
「はい。二日前にヒール国で行われた戦闘は非道のユーノと、グリスさんが率いる部隊の衝突です。わたしは戦闘が始まってすぐに国を出たので無事だったのですが…あのままヒール国に留まっていればどうなっていた事やら…。」
二人は商人の言葉に顔を真っ青にし、お互いの顔を見合わせる。
「グリスが率いる部隊って…?」
ユウは商人に問いかける。
「部隊といっても少数ですが…わたしがヒール国を出る前に、ヒール国にいる盗賊を根絶やしにするといっていました。」
「…ヒール国にいる盗賊を全員…。何故ユーノと衝突したのかな…。」
「とにかく、グリスさんの生存は不明ですが、わたしが預かった言伝はですね…『ヒール国へは近づくな。お前達は東領地に行け。』です。」
「言伝…。そんな意味のわからない言伝なんかより、俺はグリスの安否が心配だ。」
「待ってよユウ、グリスは何かを掴んだんだよ。だから僕達に東領地に行けって…。グリスの事は確かに心配だけど、それを無視する事は出来ないよ。」
ケイはそう言うと、他の者たちに視線を向ける。
「みんな、今すぐにでもここを発とうと思うんだけど、どうかな?」
「俺は良いぜ。先に城を出てる。」
テオはすぐに快諾すると、何の挨拶もなしに玉座の間を出て行った。
「わたしもいいよ。でも、お母さんがヒール国にいるのなら、わたしはヒール国を目指す。」
ユウはノエルの言葉を聞き、納得した様に頷く。
「…そうだな、よし!じゃあ俺とノエルはヒール国に向かう。ケイとテオは東領地に向かっててくれ。」
「二手に分かれるの?無事に合流できるといいんだけど…。」
ケイは少し不安そうに呟く。
「大丈夫だ。俺が必ずグリスを無事に連れていく。だからケイは言伝通りに東領地でやるべき事をやってくれ。」
「…分かった!頼んだよ、ユウ。ノエルも気を付けてね!」
「えぇ。お母さんに強烈な一撃喰らわせて目を覚ましてもらうから!」
「よし、じゃあ急いで港に…」
「ちょっと、あたしの事忘れてない?」
フーがじーっとユウとケイを交互に睨む様に呟いた。
「え、フーも来てくれるの?てっきりミリルが目覚めてないから来ないかと…。」
ケイがそう言うと、フーは呆れたようにため息を吐いた。
「はぁ…。いつまでも待ってられないわよ。それに、あたしがいないと死んじゃうわよあんた達。」
「う、それは確かに…。でもどうしようか。どっちについていくの?」
ケイに問われたフーはうーんと考え、ユウへ視線を向けた。
「あたしユウとノエルについていくわ。ヒール国の方が今はやばそうだしね。」
「うーわー!助かるー。」
ノエルが嬉しそうに笑う。
「…あんたって緊張感ないのね。」
「フー、ミリルの事はわたくし達に任せて。このお城もみんなが戻ってきてくれたから前よりももっと手厚い世話ができるわ。」
シーフリードは城の外で正座をするエルフ達を見下ろしながらそう話すと、「うふふ。」と笑った。
「メズリ、女王様ってやっぱり少し変わってるわよね。普通あんなの見て笑えないわよ。みんな正座しちゃって…。」
フーがこっそりメズリに舌打ちをする。
「いや、あれで正解よ。一番大変な時に逃げて行った腰抜けどもだからね。」
怒りの形相でそう話すメズリに、フーは少し恐怖を覚えた。
「では女王様、突然ですが俺たちはこれで、お世話になりました!」
「いえいえ、お世話になって救ってもらったのはこっちですから。またいつでもいらしてくださいね。ご馳走を用意して待ってますから。」
「はい!いくぞ、みんな。」
「おー!」
ノエルが一人で手を高々と上げながら返事をする横で、シーラがケイに近づいていく。
「ケイ…。無事でいてね。何かあったらすぐに知らせて。わたくし、飛んでいきますから…。」
「大丈夫だよシーラ。安心して僕の帰りを待ってて。」
ケイは優しくそう言うと、シーラの頭に手をポンと乗せる。
「…行ってきます。」
ユウ、ケイ、テオ、フー、ノエルの五人の背中がどんどん小さくなり、シーラがその後ろ姿を見送っていると、メズリが腑に落ちない顔をしている事に気付く。
「…メズリ、どうしたの?」
「…いえ、思ったんですけど船ってまだ港にいるのですかね?」
「……いなかったら戻ってくるわよ。」
シーラは五人の背中に視線を戻し、どこか気の抜けた声でそう言った。
「あった!まだ船はあるぞー!」
先行して船を見つけたユウは額の汗を拭い、安心した様に胸を撫で下ろす。
「先に行って乗せてもらえる様に頼んどくからなー!」
ユウは一人、片翼の能力を使って船へと向かった。
「あいつ、なんて言ってたんだ?」
「うーん、多分船があったぞー!…みたいな?」
「ちょっと!ユウだけ急がせたら悪いじゃん!わたし達も早く行かなきゃ!」
ノエルはテオとケイにそう言うと、駆け足でユウの後を追う。しかし、砂に足が取られ、思う様に早くは走れなかった。
「この砂、かなり歩きにくいね…。というか走れないよ。」
「ノエル、別に急がなくても良いわよ。その為にユウを先に行かせたんだから。」
「えぇ…。そういう問題?早くヒール国に行かないとさぁ…。」
「おいノエル、今から走って船に乗った所でせいぜい数十分だ。そんなに変わりゃしねーよバーカ。」
「ふんっ!」
フーがテオの顔に体当たりをし、テオは鼻血を垂れ流した。
「ってぇっ!このクソ羽虫がぁっ!!」
「うわぁぁっ!こんな所で喧嘩しないでよ二人共!」
ケイが慌てて二人の仲裁に入ろうとするが、フーはヒョイっとケイの頭上を超える。
「あんた、一言余計なのよいっつも!バカって言った事、ノエルに謝りなさい!」
ノエルは額を付き合わせる勢いで互いの意見を主張するテオとフー。必死に仲裁をしようと頑張るケイを見捨て、一人ユウの後を追って港へと足を進めた。
「おぉ、やっと来たか。船長さん、これで揃いました。」
船に乗り込むケイ達を、ユウは待ちくたびれたと言わんばかりに迎え入れる。
「テオ?お前その鼻血…。」
「あ?うるせーよ。」
心配そうに覗き込むユウに悪態をつき、テオは船内へと入っていく。
「何なんだよ一体…。」
「はは、色々あったんだよ。」
ケイはそう言うと、ユウは首を傾げていた。
「あいつ船に酔うくせに真っ先に船内に入って行ったけど…大丈夫なのかしら…?」
「良いんじゃない?その内顔色変えてでてくるでしょ。」
ノエルは海を見ながらそう言うと、フーは納得する様に頷いた。
「またあいつの世話をしないといけないのね…。」
「では、出発しますね!」
船長がそう言うと、イカリが船へと引き戻される。
「もう一度、確認だ。」
ユウがテオ以外を集めて話をする。
「西領地についたら街の様子を見るんだ。恐らくヒール国の混乱が伝わっているはず。」
「そうね。ヒール国から逃げてくる人もいると思うし…。」
フーは頷きながら答える。
「盗賊もあちこちに流れてきてるんじゃない?」
ケイの一言に、ユウが反応する。
「…あり得るな。これでもし、東領地には盗賊がいないって事になれば…。」
ユウは突然、恐ろしいものを見た様な顔で固まる。
「ユウ?」
ケイが心配そうにそう言うと、ユウは青ざめながら答えた。
「ヒール国の…ライラ王は東領地以外の領地から、六割もの兵士を奪っている。もし、今の段階で盗賊が各領地に向かったら…。」
船内の空気が一気に変わる。
「…西領地に着いたら、どんな光景が待ってるのかな。」
ケイは自分の手を握りしめる。
「ま、西領地に行ったらすぐに分かるわよ。」
フーは海の先を眺める。
「わたし、どんな事があっても諦めない。いつか必ず平和な世界にするんだ…!」
ノエルは床に突き立てた杖をグッと握りしめた。
ユウは、シルヴァを握りしめ、進む先で待ち受けるローランを思い浮かべる。
「出発だ!」
——ベッドから立ち上がり、キョロキョロと袋を探す一人の女性。
「あれ…ないですね。」
扉に手をかけ、ゆっくりと開く。
「あ!やっと起きた!」
メズリは驚いた様にそう言うと、言葉を続ける。
「ユウ達はついさっき出て行ったのよ!あー、どうだろう…。今から追いかけても間に合うかなぁ。」
メズリが困った様にそう言うと、その女性も困った様に口を開く。
「ねぇ、…わたしのクッキーどこですか?」




