第14章 女王
――口に入った砂を水で洗い流すユウとメズリ。
「大丈夫?」
ノエルはそんな二人を心配して顔を覗き込む。
「大丈夫…。それよりもノエル、だったわね。あなたサンドワームを倒す為って言った?聞き間違いじゃないよね?」
ぺっ!と砂混じりの唾を吐き捨て、メズリはノエルに確認する。
「うーん、倒すつもりでは来たんだけど…思ってたよりも規格外の大きさだったから。」
「倒すならその大きな杖で戦うのか?すぐに折れてしまいそうだが。」
ユウは口の中に残る砂の違和感にモゴモゴさせながら問いかける。
「これでぶん殴ったりはしないよ流石に。どう戦うかは…内緒で。」
大きな杖を片手で持ち上げ構えながらノエルは言う。
「変な構えだな。」
ユウの言葉にノエルが「そう?」と返した。
「てめーら!早くいくぞ。」
若干よろめきながらテオはみんなに強い口調で言い放つと、シーラが先頭に立ち、口を開く。
「わたくしが案内しますわ。メズリ、オズリ。行くわよ。」
「はい。」「あぁ、分かったぁ。」
メズリとオズリは急いでシーラの元へ駆けつけ、シーラを挟み、横一列に並びながら歩き出す。
「おら!てめーらも続け!無駄口ばっか叩いてねーで歩け!」
ピッタリとシーラ達の後ろを歩くテオ。
「あいつ、ブレないわね本当。口が悪すぎてたまに本気でムカつくわ。」
ミリルの肩でクッキーを頬張りながらテオを睨むフー。歩く振動でゆさゆさと揺れている。
「テオはああいう人だから…。」
「そうだぞフー。あいつにムカつくだけ無駄だ。」
ユウとケイも歩き出すと、ノエルが恐る恐る口を開く。
「あのー、わたしも付いて行って良いかな?どこに行くか知らないけど…。」
「あぁ、今から多分女王の城に行くと思うんだが、別に付いてきても良いと思うぞ。なぁ?ケイ。」
「うん。良いんじゃない?…それよりも、その杖大きいねー。」
「ありがと!この杖大きいでしょー?わたしの相棒なんだ。」
「へぇ…。それで殴られたら痛いだろうね。」
「いや、これでぶん殴ったりはしないよ。」
「え、そうなの?とても攻撃力高そうなんだけどな。…あ、僕の名前はケイ。こっちがユウで、先頭を歩く3人が左からメズリ、シーラ、オズリ!その後ろを歩く荒っぽいのがテオで…その後ろにいるのがミリル!で、肩に乗ってるのが妖精のフー。みんな良い人だから、気兼ねなく話しかけてよ。」
ノエルは言われた全員を見て少し苦笑いを浮かべる。
「はは、一気には覚えらんないかな…。わたしはノエル。仲間の人にも言っておいて。」
チラチラと後ろを振り返り、ケイとノエルの会話を気にする素振りを見せるシーラ。
「…わざわざシーラ様が先頭を歩かなくても良かったのでは?」
「え?い、いや別に…。ちょっとスピードを上げますわよ。」
メズリにそう言われ、真顔で速度を上げ歩き出すシーラ。
メズリはため息を吐き、オズリは「はっはっは」と笑いながらそれに合わせて速度を上げて城へと向かった。
白を基調としたその城は、照りつける太陽の光を反射させキラキラと輝きを放つ。
花壇には草花が生えわたり、城の周りだけがまるで別世界の様な、そんな印象を持たせる。
「ここが女王の城ですわ。まぁ、言葉を変えるならわたくしの家よ。」
堂々と大きな門の前に立ち、ケイに見せつける様に振る舞うシーラ。
「す、凄い…。綺麗だ。」
ケイはその美しさに呆気に取られている。
「おい、俺は早く休みてーんだ。早く部屋へ案内しろ。」
テオが強引に城へと入ろうとした時、メズリがその行手を阻む。
「あなた、さっきから無礼な態度ばかりね。いくらケイの仲間でも流石に限度があるわよ。」
「あぁ?」
睨み合う二人。しかし、オズリはそんな二人の間にズカズカと入り、テオをヒョイっと持ち上げた。
「こいつ、多分まだ気持ち悪いんだぁ。早いとこ休ませるくらい良いだろぉ。」
「おら!離せ!降ろせ!…うっ。」
オズリに持ち上げられ、怒ったテオは足を使って抵抗するが、突然口を手で抑えだす。
「な?オラが先にこいつを部屋に連れてくよぉ。姫ぇ、良いか?」
「勿論。そうしてあげて。」
シーラの許しを得たオズリはテオを抱えそのまま城へと先に入っていく。
「メズリ、ごめんねぇ。あいつ口悪いのよ。あたしからも注意しとくから許してあげて。」
フーが申し訳なさそう顔で話す。
「…まぁ別に良いですけど。シーラ様に対して無礼な言葉遣いをしたら、今度は許しません。」
メズリは頬を膨らまし、そっぽを向く。
「わたくしは別に良いのに…。これがケイの仲間でなければ許しませんけどね…。さ、行きましょうか。」
シーラはニコニコとケイに笑いかけ歩き出した。
城の中も白を基調とした色合いになっており、円形の大きな広間とそこから繋がる部屋が数箇所あるだけの簡単な作りをしていた。そして、奥の正面には横幅の広い階段がある。
「装飾品…豪華だな。無駄のない美しさというか何というか。」
ユウはキョロキョロと広間の中を見渡しながら階段に向かって歩く。
「この装飾品のどれもがドワーフ族からの贈り物ですよ。サンドワームに滅ぼされた今、これも彼等と我等の友好の証…。」
優しい声色が広間に響く。ユウ達は声の主に視線を向けた。
金髪の長い髪。純白のドレスに身を包む美しい女性が、広間の左側の部屋の前で微笑み立っている。
「お母様。ただいま戻りました。」
シーラは少しかしこまる様に女性にそう言うと、隣に立つメズリが女性に跪く。
「あら?シーラのお母さんって事は女王様?」
フーが女性に視線を向けそう言うと、女性は「ふふ。」と声を漏らし、穏やかな笑みを浮かべる。
「初めまして。わたくしはシーフリード。この国の女王です。」
すると、メズリはスッと立ち上がり、シーフリードに向かって両腕を広げた。
「…ぷっ。」
それを見て吹き出すシーフリード。
「ちょ、ちょっと女王様…。」
お腹を抱え、顔を下に向けながらピクピクと笑うシーフリードに、メズリは呆れた様に、顔を若干赤くさせる。
「だって…。わたくし昔からそれ見ると笑っちゃうのよ…くくっ。」
顔を上げ、ケタケタと笑うシーフリード。
「ちょ、ちょっとシーラ!これどういう状況なのよ!」
フーは困惑しながらシーラに問いかける。
「お母様はね、この仕草に笑っちゃいますのよ。この国では昔から女王に対しての敬意を表す仕草なんですけど。まぁ確かによく考えればおかしいポーズですわよね。」
「そうよね!シーラちゃんなら分かってくれるでしょ?両腕を広げて敬意を示すってしきたりはいつ誰が決めたのでしょうか。」
ユウとケイは呆然といつまでも笑い続けるシーフリードを見る。
「…さっきの初めましてからかなり印象が変わったな。」
ユウはケイにボソッと呟く。
「うん。それにまだ僕達の自己紹介してないのにね…。」
数分後、シーフリードは落ち着きを取り戻し、ユウ達へ視線を向ける。
「ごめんなさいね。取り敢えず上に上がりましょうか。ついて来てください。」
「お母様…。」
数分間笑い続けていたシーフリードにシーラは呆れた様子でいた。
「そんな顔しないでシーラちゃん。ほら、早く行きましょう。」
広間の奥にある階段へ向かうシーフリード。その後ろを歩くユウ達。階段を登ると赤い絨毯が敷かれており、その先に玉座があった。そして、その玉座の後ろの壁には大きな盾が飾ってある。
「ふぅ。」
シーフリードは玉座に腰を下ろすと、小さくため息をついた。
「さて、改めましてグリフィット国へようこそ。何もない国ですがゆっくりして行ってくださいね。」
落ち着いた笑顔を浮かべながらシーフリードがそう言うと、ユウが一歩前に出る。
「女王様。俺達がこの国に来たのにはある事情がありまして。」
「事情?」
「はい。簡単に話します。俺達は南領地で一つの盗賊団を壊滅させました。その事で国から追われる可能性がある…かもしれないので今回このグリフィット国へ。」
「へぇ…。そうなのですね。」
シーフリードは悠然とした態度でそう言うと、更に言葉を続ける。
「ではもしかしたら、この国に追っ手が来るかもしれませんねぇ。」
「…はい。なので女王様には迷惑をかけてしまうかもと思いまして…。ただ、この城に滞在するつもりはありません。この島のどこかでしばらく身を潜めても宜しいですか?」
「この島のどこかって…。サンドワームが昼夜問わずに活動しているのよ?」
「それは、覚悟の上です。」
ユウの真剣な眼差し。シーフリードは顎に指を当てて考える素振りを見せる。
「ふぅん。そうですか…。まぁ匿うつもりはないですけどこの島に滞在するならそれで良いですわよ。サンドワームに襲われても自己責任…という事で良いのならね。」
「はい。ありがとうございます。迷惑はかけないので…。」
ユウはシーフリードに頭を下げ、一歩後ろに下がった。
「お母様。わたくしの話を聞いてもらってもよろしいですか?」
突然シーラがケイの腕を引っ張りシーフリードの前へ出る。ケイはそんなシーラに「え?え?」と焦っている。
「この方はケイ。わたくしとメズリとオズリ。三人の命の恩人よ。出来ればこのお城できちんと匿って欲しいんですけど。」
「命の恩人?…メズリ、何があったのか説明しなさい。」
シーフリードはメズリに視線を向けそう言うと、メズリは小さく頷き口を開く。
「はい。私たちは西領地の北の森というところで——。」
メズリから説明を受けたシーフリードの目がうるうると潤んでいる。
「そんな事が…よく無事に帰ってきてくれました…。ケイ、三人を守ってくれてありがとうございます。」
シーフリードはメズリの説明の途中でシーラを近くに呼び、頭を撫でていたのだが、今はシーラを抱え込むように抱きしめていた。
「シーラちゃんの恩人であるお仲間に、城の外で過ごさせる訳にはいきませんね。しばらくの間このお城に滞在するのを認めますわ。」
ニコニコと微笑みながらシーラの頭を撫でるシーフリードを見て、フーがユウに耳打ちをする。
「あの女王、コロコロ雰囲気が変わるわね。さっきは迷惑事を嫌がってた様に見えたのに。」
「ただでさえサンドワームが脅威なのにこれ以上面倒事は増やせないだろ。ま、取り敢えずはケイに感謝だな。」
「良かったなぁお前らぁ。」
突然の声にユウとフーが驚き振り返るとオズリが立っていた。
「オズリ!いつの間に…。テオはどうだった?」
「気持ち悪いって言いながらベッドの上でずっとコロコロしてたぞぉ。」
フーの顔が徐々にニヤリとするのをユウは見逃さなかった。
「…フー。顔。」
「え、あらら?あたしったら無意識に…。」
顔を真顔に戻し、照れた様に笑う。
「心配だからあとで部屋に行って笑いに…お見舞いに行くわ。」
ふふふ。と小悪魔の様に笑うフーに、ユウは無理やり笑顔を作ってうんうんと頷いた。
シーラはシーフリードの腕を振り解き、ケイの元へと走る。
「あぁ!ちょっとシーラちゃん…。」
離れたシーラを名残惜しそうに掴もうとするシーフリードの腕は空を切る。
バッとケイの腕にしがみついたシーラはぐりぐりと腕に頬擦りをしている。
「お母様、わたくしケイの事が好きになりましたの。文句は言わせませんわ。」
「えぇ!…えぇ!?そうなのシーラちゃん!」
玉座から立ち上がり、照れと焦りで困惑したケイへニコニコと近づくシーフリード。
「ちょ、…メズリ、オズリ。僕はどうすれば…?」
「そのままシーラ様と結婚すれば良いんじゃない?」
「け、結婚…!?ちょ、メズリ…。」
シーフリードはその言葉に一際目を輝かせる。
「結婚!それは良い!シーラちゃんが結婚相手を連れてきてくれるなんて…!メズリ達の買い出しに同行すると言い出した時はどうしようかと思いましたが…行かせて良かったわぁ。」
シーフリードはケイの頭を少し撫で、優しい笑顔を向ける。
「シーラをよろしくね、ケイ。」
「え、あ、あの…。」
「お母様。わたくし達まだそこまで話してませんのよ?メズリが勝手に結婚と言ってるだけですから。」
「い、いや、何もかも勝手に話が進んでる気が…。」
そう言って苦笑するケイは、玉座の後ろに飾られた大きな盾が若干光を放ったのを見た。
「あら?今の光…。サンドワームの軌道はこの城ではなかったはずだけど…。」
シーフリードも光に気付き、振り返って盾を見ながら呟く。
「あの盾…、何なんですか、あれは。」
ケイの問いかけにシーフリードは目尻を下げ、穏やかに微笑む。
「あれも一階の装飾品と同様ドワーフの贈り物で、サンドワームとの最後の戦いの前に贈られたの。そして、この盾はあらゆる攻撃から守ってくれる最強の盾。サンドワームを絶対に寄せ付けないのよ。当たれば弾く。」
誇らしげに盾を見ながら説明するシーフリード。
「女王様!」
城に仕える従者が血相を変えて玉座の間に上がってきた。
「サンドワームに異変ですか?」
落ち着いた口調で話すシーフリード。従者は冷や汗を滲ませ答える。
「…はい。奴は突然この城へ進路を変えてきました。」
「進路を変えてきたとてこの盾がある限りこの城は平気よ。何をそんなに焦っているの。」
シーラが割り込みそう口を開く。
「…進路を変えたあとの奴の速度が今までとは比になりません。そのまま突っ込んでくるかと。」
「…何か他に異変があったらまた報告しなさい。」
「はっ。」
従者は慌てた様子で階段を降りていく。
玉座の間は静かな緊張感に包まれていた。




