Link.86 紅い魔人④
突如戦場にいたアザゼルという存在
干からびた天使を横目にセラノアはただ止まっていた
◆
「…………」
「あれぇ?無視?まぁ個性派が多いからねぇ堕天使はぁ」
赤毛で、黒いヤギのツノのようなものが生えた少年、アザゼルはへにゃりと笑ってセラノアに話しかける
毛が長いため一瞬性別は迷うものの、声から少年だとわかった
「なんの…………用ですか」
「ん?用ー?そうだなぁ………絵の具調達?」
「…………絵の具……調達?」
この戦場に似合わない話題が現れたことに、セラノアは思考停止する
理解できず、しようともできないその言葉は発した本人的には特に罠でもなく、事実を述べていたのだ
「逆に聞いてもいーい?なんで人間の味方してるのぉ?」
「……………」
メガネはつけていない。
堕天使であることは明白だからその問いは理解できた
しかし、そう言われてもパッと出てくる理由はない
──強いて言えば
「自分のためです」
「ふぅん?まいいや!味方ってこと否定しないってことはさ────」
にぱーっと笑い、なんとも平和な口調のまま、ぐにゃりと声のトーンが下がる
自然。故に不気味で反応できない
目の前には、赤い血のついた手が迫っていた
「───ひっ………」
「──こんっのォ!!!!」
セラノアは本能的に目を瞑る
事の顛末を体感するのが怖かったものの、その顛末が訪れることはなかった
まるで金属同士がぶつかったような音が鳴り響き、右側に強い風を感じた
「…………ただの凡人には興味ないんだけどなぁ……」
アザゼルが地面に降り、腰を曲げたまま不気味に邪魔者を睨む
邪魔者も、アザゼルも空を飛べるわけではない。
両者は同じ高さで睨み合っていた
「───はっ、俺はテメェみたいなクソ野郎に興味津々だぜ?───何人殺しやがったテメェ」
そこにいたのは履いていた靴から煙を吐き出し義手を構えるギバーだった
特別製の靴によってセラノアやアザゼルと同じ高度まで跳躍して軌道を逸らしたようだった
「覚えてないよ〜というか話さないでくれるぅ?疲れるんだよそういうのさぁ………」
「───24人だ。テメェの足元にいた死体の数は」
ギバーの顔はセラノアからは見えない
しかし、唖然とするセラノアには、その背中が非常に大きく見えた
「───覚えとけ。一人一人の名前をテメェの体に刻んで墓標代わりにしてやるよ」
セラノアとの勝負、それ以上の怒気を孕んだ声。
鎌を持つ、義手とは反対の手に力がこもり、ミシミシと音が鳴ったような気がした




