Link.82.5 ep.fake ハロウィン
※注意※
この作品はフィクションです
一部名称やその語源などは現実に存在しない架空のものです
物語としてお楽しみください
◆
「──ほらほら!アマネ!始まりますよ!」
軽い足音を弾ませながら一人の少女は手を引っ張って走る
その姿はいつもと違っており、可愛らしいとんがり帽子を身に纏っていた
「わかった、わかったから引っ張るなって……」
「早くしなければ遅れますよ!」
「それもそうだな………はぁ………っし、行くか!」
今日はハロウィン
世界が嘘に包まれるいたずらとお菓子の日だった
◆◆◆
数時間前
アマネ宅にて
「アマネアマネ、外が騒がしい様ですがなにかあるのですか?」
「ん?あぁ、ハロウィンだな」
「はろうぃん?」
内容を知らない学園の2年生、アマネの契約天使セラノアは、興味津々に外で街灯などに装飾を飾り付ける人々を眺めている
その様子に子供らしさを感じ、思わず少し笑ってしまう
本を読んでいたアマネもひとまず手を止めて一緒に窓の外を見ることにした
「そーそー。夜になったらゾンビっていうモンスターがたくさん出てくるんだよ」
「ダメじゃないですか!?」
「っ………ははははっ!」
キラキラした目で外を眺めているセラノアに、アマネはわざと端折った言葉でハロウィンを説明した
オラトリオ仮装祭
通称ハロウィンの日
このお祭りはオラトリオの国教であるセーラフ教によって行われる、「幽界と人界の境目が無くなる夜の魔除け」を起源とするものだ
幽界から現れた幽霊が、人間を攫う
よくあるおとぎ話だが、それを防ぐために人々は幽界からきた幽霊に仮装するのだ
そして、面白おかしく楽しむことで幽界の霊たちの未練をなくしてあげよう、というものなのだ
「つ、つまり………仮装しなければ連れ去られるのですか………?」
「ん…………………そうだね。ちゃんとしないと恐ろしい目に遭うかもよ」
「い、家にいたら安全なのですか!?」
「っ………ふ…………」
こう言うところはちゃんと年下っぽいんだよな……
明らかにおとぎ話を信じ込み、怯え始めるセラノアに笑いを堪えるアマネ
夢を壊すまいとアマネは悪ノリしていた
「でも今は魔除けだけの行事じゃないんだよ」
「………と、いいますと………?」
「トリックオアトリートって言葉があるんだよ」
「とりっくおあとりーと………?甘そうな言葉ですね。クリームみたい」
「トリートメントとか想像してるのかもしれないけど言葉だからね?というかあれクリームか??」
トリックオアトリートとは、いたずらされるか、お菓子をくれるか。というものだ
オラトリオで、幽霊が人間を見つけてしまった時、最後の手段として甘いお菓子を献上することで、幽界に連れて行かれなかったという逸話から作られているハロウィンの恒例行事だった
「簡単に言えば、『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!』ってことだな」
「なるほど…………今は仮装さえすれば楽しい行事になっているのですね………!」
ちなみに、ゾンビが出るというのは、毎年この時期になるとこの学園都市内で、ゾンビパレード同好会という学生組織が高等なメイク技術でゾンビになって徘徊するからだ
………まあ、教えない方が面白いかな?
「そうと決まれば………!アマネっ!仮装しましょう!」
「……………あ"っ」
忘れてた………ノアの服選びは長いんだ………!
気づいた時にはすでに遅し
人間と天使の力の差に、引っ張られるまま情けない声を上げるしかできなかった
◆◆◆
「その…………えっと、まだ見ちゃダメですからね!」
「着替え中に誰が見るか!変態だろ!」
「保険ですよ!ばか!誰が変態ですか!」
「言ってねぇっての!!?」
試着室の中にいるセラノアと、そのカーテンの外で壁にもたれて待つアマネ
激しく口論になっているものの、お互いに本気ではないことは理解しており、声量も店に配慮したものだった
にしても………当日は人が多いな
特に………なんだ、子供が
目の前で簡単な仮装をしてはしゃぐ子供と、後ろで熟考しているセラノアを重ねてしまい、平和な笑いが込み上げてしまった
「………なにをくすくすと笑っているのですか?気持ち悪い」
「辛辣ぅ………」
ただ、そのツッコミを受けたすぐ後、セラノアの指がカーテンにかかった
「そ、その………できました」
「お、ほんと?見せて見せて」
今度は笑いというよりも、安心と興味の微笑みでセラノアを迎える
渋々といった感じで付き合うアマネだが、その本心はセラノアの着せ替えをそれなりに気に入っていた
相棒が可愛く着飾るのだ
嫌な人はいないだろう
「ちょ、ちょっと、恥ずかしいですね………ふふ」
「おぉ………!可愛い………!」
「へっ?そ、そうですか…………ふ、ふふ、わかっているじゃありませんか」
「うん、冗談抜きで可愛いよ。超似合う」
「え、えと…………その、当たり前です、私なんですから!」
目の前でカーテンを開いたセラノアの姿は、いつもとは大きく変わっていた
黒い巨大なとんがり帽子に、レースアップコルセット付きの白いブラウス
フリルのついた、可愛らしい大きなスカート
全体的に黒を主体として、裏地はオレンジ色の服になっている
非常に可愛らしい魔女っ子の出来上がりだった
「袖もすごいな………可愛い」
「そうでしょう?このお店は前から気になっていたんです。こういう服に非常に強いと思っていたんです!」
「萌え袖ってやつ?すごい広がりのある袖なんだな……」
アマネは、その衣装がいたく気に入ったようで普段以上に褒めまくる
セラノアも、まんざらでもなさげに胸を張っていたが、だんだん笑みは困惑に変わっていった
「元がいいからやっぱり何着ても似合うよな……へー………この靴もいいな、おしゃれ」
「あ、あの………?アマネ?」
「うん、メガネとの違和感もないし知的で可愛い魔女ってコンセプトだな。このネックレスもいいな」
「わ、わかりましたから…………」
延々と続く褒め言葉にだんだんとセラノアは恥ずかしくなって目を合わせられなくなってくる
ただ、アマネはその様子に気づかず、セラノアと服に釘付けだった
「こ、こう言うのが好きなんですか………?」
「いや?どのセラノアも好きだよ」
「へっ!?」
「何着ても似合うし見てて楽しいよな」
「………そうですね…………」
恥ずかしさと嬉しさ、翻弄されているという自覚のモヤモヤで複雑な笑みを浮かべるセラノア
目を逸らした先で、ふと知人を見つけた
「あっ、あっ!アニスさん!こんにちは!!」
「へっ?セラノアちゃん………?」
火岸花の天使「ネメシア」を相棒に持つ、学園の一年生アニスだ
店内で、アニスに届く程度のギリギリの声を張り上げて挨拶する
やっとアマネも目を離し、アニスを見ていた
「あぁ、アニス………さん?こんにちは………?」
「こんにちは、アマネくん」
「ピッ…………」
今日はネメシアが近くにいないのだろうか
アニス一人で見慣れない格好をしていた
その格好にセラノアは驚き、変な声を出していた
「ゾンビ…………アニスさんってもしかして」
「あ、えっと、ついさっき勧誘されて………やってみようかなって?」
「ゾンビパレード同好会……………………」
確かに外を見ると、すでに何人もの完成されたゾンビがいた
セラノアはそれを見てカーテンを閉めてしまった
「はは…………ノア、あれは人間。仮装仮装」
「セラノアちゃんってゾンビ苦手なんですか?」
「うーん、お化けって前言ってたし、それの延長線でホラー苦手なんだろうね」
目を慣らすためか、隙間からチラチラ覗いて怯えているセラノアを見て、アマネとアニスは笑っていた
ふと、そこでアニスから一つの疑問が向けられた
「アマネくんは何か仮装をしないんですか?」
「ん?いや俺はいいよ。セラノアのために来ただけだし」
さらっと答えるアマネに、カーテンの中から目だけ覗かせるセラノアの目線が鋭くなる
明るいはずの試着室の中が暗闇に見え、そこから獰猛な獣が目をのぞかせているかのようだ
「あのぉ…………セラノアさん?俺はしないからね?」
「なんでですか」
「いや、子供じゃあるまいししな──」
「アマネ?」
「はi…………いやっ、屈しないからな?しないぞ」
◆◆◆
「はぁ………………」
「似合っていますよアマネ」
「包帯でぐるぐる巻きにされて似合うも何もあるのか…………?」
午後に家を出たため外はそれなりに暗くなってきていた
アマネは白い包帯でぐるぐる巻きにされており、いわゆるミイラの仮装をさせられていた
ぐったりしたアマネの様子から、それなりに抵抗したことが伺えた
「お前たち、なにをしてるんだ………」
「ん?この声………ダー……………ぶふっ………ダーナ!?」
ふと後ろから聞き覚えのある声をして、振り向くと
そこにはアマネと同じクラスのいじめっ子
貴族「ダーナ・シュピーゲル」がいた
プライドの高いイメージの彼だが、やはりその姿は………なんなら1番普段からかけ離れていた
「ほぼ着ぐるみじゃん…………っふ…………ふふ………」
「ええい笑うな!愚兄から着なければ………いや、いい脅されただけだ……!」
「り、律儀だな………話しかけなきゃいいのに」
笑い抑えきれないアマネは笑い続けながらもダーナの主張に反論する
機嫌が悪そうに照れるダーナはイライラが募っているのか、青筋を浮かべていた
「お前も大概だから笑いに来てやったんだ」
「はは………は…………うるせ」
「ほう?なんだその口は」
「うるせーってんだよ、口出しするな頼むから……悪かったよ」
痛いところを突かれたアマネは、笑いが止まって照れ隠しに悪態をつく
今度はダーナが悪辣な笑みを浮かべてイジろうとしてきたため、すぐに謝罪して流れを止めた
「小物の衣装はなんですか?」
「ジャック・オ・ランタンの着ぐるみ………かな?」
「厳密にはマスコット、ジャックんの仮装だ。愚兄が妙な仕事を受けたようで巻き込まれた」
「あはは………商魂逞しいですね………」
アニスが遠くを見ると、そこにはダーナの兄がいた
同じ着ぐるみを着ており、笑顔で自社の商品を売り込んでいる
「あとで私挨拶しに行きますね」
「はぁ………そうだな………大体3時間後には空いているだろう」
だんだんと暗くなる空
街の空気はオレンジ色に染まり、音楽が流れ始めていた
「──ほらほら!アマネ!始まりますよ!」
軽い足音を弾ませながら一人の少女は手を引っ張って走る
その姿はいつもと違っており、可愛らしいとんがり帽子を身に纏っていた
「わかった、わかったから引っ張るなって……」
「早くしなければ遅れますよ!」
「それもそうだな………はぁ………っし、行くか!」
今日はハロウィン
世界が嘘に包まれるいたずらとお菓子の日だった
◆◆◆
「わぁぁぁ………………!これ、美味しいですね………!こんなもの初めて食べましたよ!?」
「ハロウィン限定の飴だな。今日しか買えないから味わって食べるんだぞ」
「ふん、貴方は親ですか。そんなことはわかっていますよ」
アニス、アマネ、セラノアの3人でこの「オラトリオ仮装祭」を回っていると、出来立ての飴を売っている屋台があった
セラノアはそれをアマネからもらったお小遣いで買い、目を輝かせていた
「?あっ、あれは…………はぁ………?」
「誰か見つけたのか?」
「あー………まあ、師匠といえば師匠かもしれませんね」
「挨拶してきな、そう言う縁は大事だろ」
「そうですね………はぁ、気乗りしませんし変な格好していますが」
セラノアは視線の先で、誰かを見つけたようだ
ただ、あからさまに嫌な顔をしていた
師匠という話を聞いて、アマネは大体察しがついた
ただ、恐れ多いからセラノア一人で行くことを促したのだ
「あの人………なんだか見たことあるような………いや、でもあんな格好する人じゃありませんし………」
ここにも幻想に囚われて認識しきれていない人が一人
まあその、あんまり近づきたくないっていうのが本音だな
「こんばんは、アマリリスさん」
「おお、セラノアちゃん!久しぶりだね」
「こんばんは、セラノアちゃん」
「こんばんは…………」
そこにいたのは、この国、オラトリオの最高戦力「セフィロトの樹」の一人、花冠「アマリリス」だ
なぜこんな…………胸元の開いたメイド服を……?
「見てこれディンちゃん!僕ってばやっぱりセンスはあるんだよねぇ」
「あぁ、こっちは本当にお久しぶりです。ディンさん。可愛らしい帽子ですね。お揃いです」
セラノアは、ひとまず格好については無視をする
そして、アマリリスの近くの路地からのっそりと出てきた大きな鹿を見て、素直に感心していた
可愛らしい小さなとんがり帽子をつけており、アマリリスの愛鹿であるディンちゃんも仮装していた
「ユーフォルビアさんは………男装ですか?……………無理がありますよ」
セラノアは素直に、アマリリスの契約天使である「世界樹の天使」ユーフォルビアの胸を見てそう言った
豊満なその胸は、燕尾服のボタンを弾き飛ばしそうな勢いだ
恨めしそうにセラノアが目線を送ると、ユーフォルビアは笑って肩を持った
「あなたもいつかこうなれるわ」
「別になりたいわけじゃありません!」
アマリリスより一回り小さな青年は、傍らからくすくすと笑っている
決して悪意のある笑いではなく、その微笑ましい光景に笑みをこぼしていた
「何気にあなたがちゃんと笑うところを見るのは初めてな気がしますね。ワイズさん」
「今日は休暇ですからね。心から休まなければ勿体ありませんよ」
さらにその影からは、もう一回り小さな少女が現れた。ワイズの契約天使、エーデルだ
「あ、セラノアおねーちゃんだ!」
「こんにちは、エーデル。元気そうでよかったです」
わいわいと、遠くで笑顔を浮かべるセラノアを見て、アマネも思わず微笑みを浮かべる
一方でアニスは疑惑が確信に追いつき、自分の目指す聖花隊のトップ、花冠があのような姿をしている事実に苦しんでいた
「ははっ、どこも賑やかだな」
ただアマネは空を見る
星は街の活気で一つも見えない
それはまさしく、今が安全である証拠なのだった
◆◆◆
「………」
「主殿よぉ、行きたいのか?」
「………そうだねぇ………あはは」
オラトリオのとある風車の上
学園都市内に入ることはリスクが高いため、ルピナスは相棒と共に外から眺めていた
「ヴェッテ、ひとつ賭けたいんだけど」
「こんなことで賭けるのか?危ないぜぇ?」
「そんなの僕が気にすると思う?アマネのためだよ」
◆◆◆
「───!」
突然、空にパパパパっ、と花火が弾けた
空に大輪を咲かせてこの祭りを彩っていた
「わぁ………!こんな予定、なかったはずだけど……」
「アマネアマネっ、高いところに行きましょう!あれはなんですか!」
今日は嘘といたずら、甘いお菓子の日
しかして世界はまだまだ続いていく──
ネメシアは一人で勝手に屋台の飯を回っていました




