Link.82 ウバワレ
後方の基地から前線へ向かうことを決意したセラノア
道中、副隊長であるワイズとの会話で、自身の持つ確信に近い考察を話すのだった
◆
「噂を、聞いたことがあります」
セラノアは言葉を紡いだ
戦場にある基地への道中
ワイズは静かに耳を傾けていた
「私の契約者であるアマネは、元はお願いを断ることのできない性格だったと」
「ふむ………?」
いまいち意図のつかめていないワイズは首を傾げる
セラノアは自分の持っていた違和感
そして、心に、権能に確かに感じられる温度を感じた
「──私は一度だけ、契約者がいる状態で権能を扱ったことがあります」
「………つまり、そのアマネさんの心を文字通り奪ったと?」
「はい。これは、堕天使の契約者に共通することなのか、私が特殊なのかはわかりませんが、確かにアマネは噂の「キラワレ」らしい性格には感じられませんでした」
キラワレ。
アマネがかつて言われていたあだ名のようなもの
もちろん、ルピナスもそう呼ばれていたが、アマネは世渡りが上手かった分、話題に上がることが多いのだ
セラノアはあの出会った亡国の廃墟の戦いを思い出す
最初で最後の堕天使の権能の使用だった
「───今の彼は、断る勇気はあります。それに、小物………加害者に対しても、言い返せるほどの精神でした」
元々の性格があったのかもしれない。
が、どうにも噂の評判とは違ったのだ
「つまり、私は権能を使うことで、彼の「人の心」を少しずつ奪っている。ということです」
「………僕は、あなたについてよく知らない。堕天使である以上、それは些細なことにも聞こえます」
ワイズは客観的に、セラノア自身も思う矛盾を指摘する
人殺しがなにを人の心という前段階のことを気にするのだ。そう言っているのだ
「が、それを気にする貴方は恐らくなにか事情があるんでしょう。使えない理由はよくわかりました」
納得してくれたワイズにほっとするセラノア
今、アマネはこれに気づいていないだろう
何を言われても、これはアマネ本人には言わないほうがいいとセラノアは判断していた
───これ以上、使わなければいいんです
まだ、アマネは犯罪や悪に手を染めるような心にはなっていない
彼の人生は、せめて私が守るんです
これは『自由』ではない
しかし心地の良い束縛だ
セラノアは今まで通り、重荷を喜んで背負う
ただ一人の最も大切な人の、心を握って
◆◆◆
「さて、ついたね。準備が終わったら屋上に集合。15分でおいで」
「「「はっ!!!」」」
木々一つさえない不毛の大地に聳える鉄の砦
広く立つ壁になっており、敵の進行を防ぐものであると容易に想像できた
壁の内部には設備がある程度あるようで、かなり発展した技術が用いられているように見えた
「木でやってもよかったんだけどね。機械製のほうが便利だったんだよね」
「なるほど」
セラノアはアマリリスに疑問を投げかける前に答えられる
少なくとも1週間もこのあたりで過ごしたのだ
アマリリスがなにをしようともう驚かないと心の中でセラノアは意気込んでいた
「他の人を手伝ってきます!」
新しい環境に少しワクワクしているのか、元の黒い軍服風の上着に、白いワンピースの普段着に戻ったセラノアは壁内へ走っていってしまった
「……年相応なところを見せられると、心が痛むね」
「けどきっと、あの子は乗り越えられる気がするわ」
少し、目を細めて壁を見上げるアマリリス
後ろから、ユーフォルビアが続いて言った
「──残酷さは、良くも悪くも人を成長させるのよ」
「ですからこそ、彼女が主だけでなく、自分の心を殺さないかは、心配ですが」
「わぁ、ワイズくん!」
シームレスに会話に入ってきたワイズに驚くユーフォルビア
ワイズはその片目で壁近くの作業をする隊員に話しかける姿を優しく見つめていた
「君も、僕からしたらまだまだ童なのを忘れちゃいけないよ」
「………それはわかってますよ。まったく……」
親子のようなアマリリスとワイズ。
軽口をいなしつつも、ただワイズは戦場に思いを馳せるばかりだった
無知な人間は
遠くで蠢いた雲に気づくこともできずに




