Link.80 転んだままのだるまさん
この国や魔物について興味の湧いたアマネは、凛淵宮内にある書庫へ向かった
そこで本を読んでいた時、ビブリオテークという老人に出会う
ただ、時間も時間のためそのままアマネは書庫守である彼に見送られて書庫を後にするのだった
◆
翌朝
「っ…………『火球』!『水球』!」
「おぉー!!」
アマネは訓練場にて、百尾の黒の人と一対一での稽古をしていた
言っていた通り、魔法士との戦い方を学んでいるようだった
目の前の若い隊員は剣で火球を受けると、そのまま剣は明後日の方向へ飛んでいってしまい、水球が顔面に直撃していた
魔法の威力はそれなりに強い
しかし、それはアマネがではなく魔法がそもそも強いのだ
………魔法を真似て魔道具が作られ、それが重宝されるほどだもんな
しかし、目の前の戦士はただ悔しそうに顔を振り、自分の未熟さを嘆いていた
さながら戦場で敗走兵となったかのようだ
アマネからしてみれば、相手は本気など出していない
少しその「悔しさ」は理解し難かった
はぁ、「ルール」がなければどうなっていたか………
少し前を思い出す
▽▽▽
【ひとまず、昨日したことと逆に、今度はアマネくんが攻撃役をしてほしいな】
「OK、でも俺の攻撃、まだ荒いと思うけど」
アマネは己の魔法がまだまだ未熟なものだと自覚していた
そもそも魔法そのものは強いが、今のアマネの魔法は魔道具の出す火球とあまり変わらない程度の威力しかない
【気にしないで。みんなにはアマネくんの魔法が直撃した時点で負けってルールをつけるから】
なるほど、それならまだ勝負になるかも
そうアマネは納得し、本日の稽古を始めたのだ
ルールは五つ
・アマネから25m離れた位置からスタートすること
・必ず1対1
・遠距離武器でアマネを攻撃してはならない
・目標はアマネの「捕獲」であり、「討伐」ではない
・魔法を、防ぐ、避ける以外で受けた場合脱落とする
△△△
「流石隊長………なかなか難しいですねこれ」
【うん。避ける、もしくは防ぐって点でも、プロの魔法はもっと難しいよ。武器はしっかり握ってね】
「はい!」
若い戦士………確か、レーアツァイトさん?
まだ1日しか経ってないから全員の顔は覚えてないんだよな………
次の人は………確か、ノヴァシアさんだっけ?
酒場で隣に座ってて、少し話してくれた魚耳の女性だな
アマネは覚えてる限り、相手の人の名前を思い出し、敬意を払ってこの「ゲーム」をしていた
ノーチェ曰く、【難しい版のだるまさんがころんだみたいな物】だそうだった
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
元気よくノヴァシアという女性はあいさつし、こちらに特攻してくる
アマネはそれを迎え撃つ形で魔法を放った
「『岩撃』、『水球』!」
よし、だんだん魔法の連続発動にも慣れて来た!
アマネは足に力を込め、岩の魔法を発動する
足を伝って周りの岩は隆起し、ノヴァシアの左右への逃げ道を塞いでいた
そこに正面からくる水球
ふふん
我ながら"当てるだけ"なら結構強い作戦じゃね?
しかし、そう甘くはないのが現実である
「───はっ───!!!」
ノヴァシアが気合の入った声を上げると、目の前の水球は力を失い、パシャリと落ちてしまった
「はぁっ!?」
「──詰みです!」
「は、はは………落涙…………失念してたな」
落涙は事前に聞かされていた
ノーチェ曰く、不利が当たり前の方がいい訓練になるとのこと。
ありがたいが口頭ではやはり限界があった
超音波。それが彼女の力を端的に言い表したものだ
………水球を破裂させられるのなぁ……
まだまだ発想の引き出しが少ないことに悔しがるアマネ
ふと、そこでアマネは先ほどの若い男戦士を思い出した
………あぁ、なるほど、ゲームでも負けたら悔しいのはそりゃそうだわな
……それに、未熟は、苦しいよな
ふと、響楽堂の襲撃を思い出し、体を起こしながらアマネは意思を強く固めた
「っし……ノヴァシアさん、ありがとうございました。次、行こうノーチェ」
【…………】
自分が強くなっている感覚がある
成長している実感がある
──強くなって、セラノアを迎えにいく
それが、昨日も明日も、俺の目標だ
………アリス、見つけるのは、頼むぞ
自分で探せない無力感を覚えつつも、滲む汗を拭って覚悟を固める
アマネは、目の前のことに集中することにした
◆◆◆
〔…………〕
「どうしたの?ノーチェ」
ふと、訓練場の入り口前を通りかかったアルバは、その近くであるものを眺めて悩む姉を見つけた
フェイスベールの上から、口元に手を当てて悩む姉は珍しい
よっぽど考え込んでいるようだった
〔アマネくんって、本当に契約者なんだよね〕
「?そのはずだけど」
〔だよね………〕
念話でアルバにそう聞くノーチェ
アルバは質問の意味が分からず、首を傾げるだけだった
(…………普通の契約者って、あんなに魔力をたくさん使えたっけ………)
アルバに聞こえない心の中で、ノーチェは何気ない違和感を、ゆっくりと育んでいた




