Link.73 私の"自由"
喧嘩を打って来た男に、勢いのまま勝利したセラノア
その時言葉からは確かな本心が溢れていた
◆
「はぁっ………はぁっ………っう」
息を切らし、涙を浮かべながら息を整えるセラノア
目の前には大きく吹っ飛んだ男がいた
よっぽど蹴りが強かったようで、男は白目を剥いて気絶していた
「もお、なんなんですかぁ………………っ」
力なくふにゃふにゃとへたり込み、追いつかない感情にただ、セラノアは泣いていた
◆◆◆
「はっ…………!」
男が目を覚ますと、そこは駐屯地の医務室だった
まだ痛む頭に手を添え、目を閉じて何が起こったのかの理解に努める
「………チッ、負けたのか」
「ええ、それは見事に、私の勝ちです」
ベットの上で体を起こし、手を閉じ開きしていると声が聞こえた
扉が開き、セラノアがエプロンを着たまま入ってくる。
悔しげな男の表情を見たセラノアは、わざわざ持っているトレーを片手で持ち、空いた手でピースをしてみせた
「雑魚」
「あァん…………?」
「権能も使わない私に負けたんです。雑魚でしょう」
「テメェっ…………」
前とは確実に雰囲気が違う。
言動的に、いい方向に、とは言えない気もする
「もう一回だ!今度こそテメェを殺して──」
「感謝は、してますよ」
「……………あ?」
何かの乗ったトレーを男の隣の机に乗せると、セラノアは窓を開け、外の様子を眺める
「あなたのおかげで、少し、自分がわかった気がします」
「うっせぇ調子乗るなよ堕天使」
「──あーもう!その呼び方やめてくださいよ!?負けたんだから素直に負けを認めてください!?」
「テメェの調子がおかしいからだろォがよ!!?負けてねぇ!!あんなもん不意打ちだ!」
「正当な蹴りですよ!このっ雑魚!」
「誰が雑魚だアァン!?」
ぎゃんぎゃんと騒がしくなった医務室
ただ、夕陽が差し込むその中で戦闘が起こる気配はなかった
「若者って元気だよねぇ」
「ふふっ、そうね」
「「なっ…………!?」」
突然響いた声に、二人は同時に扉の方を見る
するとそこにはアマリリスとユーフォルビアがいて、ひっそりと笑っていた
「花冠様………」
「見せ物じゃありませんよ」
「いや見せ物でしょ、人の不幸は蜜の味だよ?」
「趣味性格人格最低ですね」
「ぐふっ…………人格まで………」
突如無造作に投げられた言葉のナイフに胸を押さえつけて倒れるアマリリス
ユーフォルビアはそれを気にせず話を続けた
「でもセラノアちゃん、びっくりしたわよ?『喧嘩しました』なんて言ってここにきた時は………」
「文字通り、喧嘩しましたもの。提案したのは彼ですよ。私は悪くありません」
「は、反抗期みたいね………ねえリリス、本当に助言合ってたの………?」
珍しく引き攣った顔で苦笑いするユーフォルビア
男はただ黙って会話を聞いていた
どうやら堕天使以外にはそれなりに敬意を払う様だった
「………あなたの言う自由、私にはわかりません」
「ん?僕の言う自由に何の価値があるのさ」
「………そうですね、それでは"自由"じゃない」
地に這うアマリリスを見る
顔を上げて苦笑いするアマリリスはけろっとした顔に戻って教えたことを否定して来た
「はぁ…………でも、課題として残しておきます。役に立つ気が、しますから」
「そうかい」
ニコッと笑って立ち上がったアマリリスは、セラノアの頭を撫でてみせた
まるで、その様子は師弟のようで、その様子を邪魔できるものなどこの場には
「いやわかってるだろテメェ」
いた
まだ名前も聞いていない男は空気を読まずに突っ込んできた
せっかくいい感じに一段落つきそうだったものの、そうはさせてくれないようだ
「…………ギバーくんさぁ………」
「は?いや、俺が悪いんですか!?」
はぁ、とため息をつくアマリリスに狼狽えるやっと名前のわかった男
ギバーという堕天使嫌いのこの男も、どうやらアマリリスには逆らえないようだった
「だってコイツ自分の願いを散々叫んでたんすよ?あー…………誰だってア───」
「っ───!!」
そこでやっとセラノアはギバーの言いたいことを理解し、水球でギバーの顔を覆った
『ごぼっぼぼぼぼっ!?!?』
「セラノアちゃん!?」
「あっ、すみません殺したらまずいですね」
「そう言う問題!?」
すぐに解かれたものの、キッと睨むセラノアに、水なのか汗なのかわからないが少し焦りつつ訂正した
「チッ…………あー、とにかく、コイツは欲望を声に出していってたんすよ…………それってコイツの意志で、自由なんじゃ?」
「…………………たまには、いいことを言いますね」
セラノアは、ただ驚いた顔をして特に意識せずに賞賛した
確かに、そうかもしれません
は、恥ずかしいですが………
…………うん、アマネに会いたい
今の私の欲望は、きっとソレです
空いていたピースがカチリとハマった音がした気がした
納得感のある答えに辿り着いたセラノアは、改めて感謝を口にした
「ギバー、あなたは私を嫌いでしょう。はっきり言って私も嫌いです。………ですが、今回は感謝します」
「はっ…………くたばれクソ天使」
「…………!………貴方こそ」
今までの嫌悪だけでは無いその言葉は、セラノアの事情を聞かずとも少し察したギバーの言葉
驚きつつも、セラノアは挑戦的な笑みを浮かべてそう返すのだった
大切な人に会いたい、過ごしたい
それは、誰かに与えられた使命でもなければ、罪を償う義務のためでもない"心"です
私が、そうしたいと思ったんです
………ふふっ、少し、自分勝手になったみたいです
──私は、今の現状に納得がいきません
義務も、欲も、心も、なにもかも私のためにします
──それこそが、私の「自由」です




