Link.69 足りないもの
1週間経ち、だんだんと受け入れられてきたセラノア
しかし、一部には毛嫌いされているようだった……
◆
「おはようございます」
セラノアは基地にいる隊員にあいさつする
この1週間でそれなりに人の顔を覚えてきた
どうやら、アマリリスの部下である「聖花隊」の他にも、人がいるようだった
あの義手の男のような東の国「須恵」という国から来た戦士が何人か混じっていた
国が近いらしく、須恵とオラトリオは良好な関係のためここの防衛線を共に守っているそうだ
「おう、おはようセラちゃん!」
「今日は皆さん早起きですね」
普段、セラノアは夜の間本を読み込んでこの辺りの知識をつけていた。
しかし、今日はいつもよりも周りの隊員が起きるのが早く、料理などを早めに行うことになっていた
「あぁ………今日からだからね」
「今日から?」
メガネの先輩隊員がそう口にする
疑問に思い、聞こうとしたセラノアだが、返答が来るよりも前に一つの声が聞こえた
「──集合」
淡白で、ゾワっとする、有無を言わさぬ命令
セラノアは動けずにいたものの、メガネの先輩や他の隊員たちは整った動きで声の主人の元へ向かっていた
「あぁ、セラノアちゃん、後で話があるから君もついてきてね」
「……………あっ、はい……」
つい、以前とはまるで違うようなそのオーラに呆然としてしまう
目の前にいたのは、1週間前オーラなどほとんど感じられなかった鹿オタク、アマリリスだ
黒い衣装に身を包み、相変わらずの羽根付き帽子すらおちゃらけたおしゃれというよりも調和された「冠」にすら見えた
「これが………花冠」
能力や戦闘は見ていない
それでも、このカリスマはトップに立つ者の威厳だと理解できた
集められた隊員はアマリリスの言葉を待っていた
「───今日から交代だ。君たちの活躍を期待するよ。平穏を忘れた花に水をやるため、君たちに枯れることを命ずる。構わないかい?」
「「「「「はっ!!!!!」」」」」
優しい声に対し、猛々しい声が響く
それはまるで死刑宣告のようだが、文句を垂れる者、表情を歪ませる者は誰一人いなかった
「ワイズくん」
「はい、偵察兵からの報告によると、最近空からの攻撃が増えてきています。須恵人の方々と契約者には前線を、契約者の遠距離攻撃持ちは後方から撃ち落としていただきます」
初日に出会い、その後会うことはなかった聖花隊の副隊長ワイズ。
アマネよりも4歳年上だが、それでも20歳と聖花隊の中では最年少らしい。
「うん、いい采配だね」
「……まだまだです」
アマリリスの賞賛にワイズは少し顔を俯かせた
それが意味することはわからないものの、セラノアは深く考えなかった
「移動は本日午後10時!暗闇の中見つからないように移動します」
「「「「はっ!!!」」」」
そのワイズの声を、音を呑み込むほどの声量となった隊員たちの声がかき消さんとする
耳を震わせるその声の束は荒々しいはずなのにまるで美しい和音のようで、セラノアはただ茫然としていた
………こんなところで、私は何をしているのでしょう
その統率に、ある種の「完成」、もしくは「完全」を見た故か、それとも目標に一直線に目を向ける姿に考えるところがあったのか。
セラノアは自分の手を見つめて自問するしかできなかった
ふと気づくと、辺りは散開して準備を進めており、その場にはセラノアとアマリリスしかいなくなっていた
「───セラノアちゃん」
「………なんですか?」
「目的を持つのはいい。無力感を嘆くのもいい。成長の糧さ」
「………!」
この人、見抜いて………
アマリリスは、警戒するセラノアにふと微笑みながら続ける
「君の人となりはわかった。この1週間、隊員を害することもなかった。その意思さえ持たなかった」
「……………」
「うちには感情の色が見える天使と契約する契約者もいてね。それが嘘じゃないのもわかってる」
その言葉にセラノアは少しの納得感を覚える
なるほど、この辺りに私を置いたのはその契約者に私を監視させるためなのですね
察するに、メガネ先輩あたりでしょうか。よく近くにいましたね
「───少し、見せてあげるよ」
「へ?」
「僕なりの『完全』」
セラノアはお姫様抱っこされ、アマリリスはそのまま急成長する木の根に乗って空へと登る
「───君に足りないものを、教えてあげよう」




