Link.56 無詠唱
アリスに抱えられて向かった先は砂漠の国「フラクタス」
そこでアマネは尋問を受けることになった──
◆
「─つまり、学園が襲撃されて、友人がここに飛ばしたと………」
アマネとアリスは、オラトリオに比べると小さな「砂の国・フラクタス」のカフェで話していた
砂漠の国なのに水もある……風の噂だとここは戦争国家って聞いたけど、案外平和そうだな……?
「あぁ………その、尋問って割にはラフすぎない?」
「何か文句でも?喉が渇いて仕方ないの。君が仕事増やすからさー?」
「………」
それにしてもこの少女の考えはわからない。
始めに助けてくれて、その後尋問………かなり優しい方だと思うけど、それをされて……国に招待されてる
………信じていいのか?この人は
一人きりが約1ヶ月ぶりなため、不安もあって疑心暗鬼になる
しかし、それでも会話は続けなくてはならなかった
「で?本当の目的は?」
「ないっつってんだろ……」
「ほんとかなぁ?ま、いいや。ボクが言いたいのはね、誰に雇われてようがどうでもいいの。──君、オラトリオのスパイになってよよ」
瞬間、日陰でも猛暑を思わせる暑さが、ひどく冷えた気がした。
屋外の日傘の刺されたテラス席。
影で少し暗くなったアリスの表情は女狐といえばわかりやすいだろう。
ロゼとはまた違ったやりにくさがあった
「………そもそも、ただの学生だぞ?それに誰が故郷を裏切るかよ」
「故郷?…………ふぅん、あそこもこんなものを作るんだね」
「ん?それってどういう………」
目を細め、笑みを消したアリスの言葉にアマネは疑問に思うが、その疑問は悲鳴によってかき消された
「──助けて!!!!人攫いよ!!」
突然の声に二人の視線はその方向へと向く
テラス席の向こう、大通りで大きな体躯の男が何かを抱えて走っているのが見えた
「人攫い!?」
「おや、珍しいね」
「なにぼーっとしてんだよ!助けないと!」
「そうかい?なら行ってくるといいよ」
なんだコイツ………!?王冠被ってるし、ただならぬ地位にいるんじゃないのか………?
助けないのかよ!?
別に今は競技でもなんでもない。
アマネは眉を顰めてテラス席から飛び出していった
一応体育祭に向けて対人戦はシミュレーションしてる……!戦えないことはない………はず!
「セラノア!───ってそうか…………!」
つい相棒の名前を呼んでしまう。
生きてはいるがそれでも孤独感が心を侵食していった
「…………!」
「『風撃』っ!!」
巨躯の男に抱えられる何か──白い髪の少女は無言でアマネを見ていた
青い顔をしている。俵のように持たれておりすごく揺れていて酔っているようだ
アマネは風撃を地面に撃ち、自分を吹き飛ばした
「うおっ!?なんデス!?!?」
「っ………『障壁』!!」
男の頭上を吹っ飛ばされる形で追い越すアマネ。
自分と地面の間に障壁を展開し、少しでも衝撃を和らげようとした。
障壁は落下の衝撃に耐えきれずに割れるが、どうにか身体に来るダメージは少し抑えられたようだ
「…………っし、人攫いって言ったよな?放せ」
「ハッ、面白いやつデスね!ダサく吹っ飛んできて命令するんじゃありませんヨ!!」
「っ………!!」
キャラ濃いな!
巨躯の男は人一人を抱えているというのに俊敏に動いてアマネを上から殴りつけかかって来た
「『障壁』!!──ってマジか!?」
頭上に障壁を展開したものの、男の拳は思ったよりも重く、障壁にすぐにヒビが入っていた
咄嗟にアマネはその場から逃げる。
次の瞬間にはアマネのいた場所が拳の餌食になっていた
「馬鹿力かよ………!?」
武器ならわかる。ただ普通の殴りで障壁を破るなど聞いたことがなかったのだ
俺の熟練度が低いからか………!?
…………そういえば
「ほうらもう一発デス!!」
「えっ………」
「まずっ………」
また避けようとしたアマネ。
しかし、背後から声がした
後ろにはフードを被った人がいた
避けるとその人が殴られてしまうだろう
なら──!
「ほう?守っても────!」
「破らせねえよ………!!」
男は違和感を覚える。
障壁が破れない
(さっきは簡単に割れたはず──それに、この男!)
「──ふむ、無詠唱!」
「えっ?あ………」
「隙あり!」
「ちょっ、ズル──いっだぁ!!」
アマネは無意識に障壁を無詠唱で出していた。
アマネが意識したことといえば、体育祭の予選──
ゴール前の先輩は魔力を大量に作ってた
どんだけ込められているかとかはわかんないけど、天使を動かせないほど魔力を作るのに集中してて、それくらい必要だったんじゃないのか?
………つまり、魔力を込めれば込めるだけ硬くなるんじゃないのか──!
結果的に、アマネの障壁は普段の2倍の魔力が込められ、障壁は色濃く強化されていた
よかった、結果的に守りきれた………!
横から殴られたけど………
「早く逃げろ!」
「は、はい………!」
背後にいたフードの人、声からして男の人だろうか
その人に逃げるように促し、その後すぐに巨躯の男から距離を取った
「………はっ、やりますネ。第二ラウンドといきまショウ?」
「──望むところだ!」
二人は構え、魔法と拳は再び対峙していた




