Link.4 欲望より
アマネは教会の地下で鎖に繋がれた堕天使「セラノア」を発見する
鎖から解放したアマネに、セラノアはその本質から、契約をしようとするが、とある問いによってその本能すら抗って、契約もしないまま消え去ってしまった
「──欲は、なんですか?」
◆
「はぁ〜……」
翌日、机に伏せてため息をつくアマネ。
動画に関しては、壊れたリトホを見た同級生は笑って許してくれた
いや、どちらかといえば壊れた事実、この不幸を喜んで許してくれたのだろう
アマネのため息の理由はそれではない。
あの日あの時、あの堕天使──セラノアに言われたことがひっかかっているのだ
「……欲……夢」
どれだけ俺は自分を見ていなかったんだろう
欲の一つもない自分は確かに面白くない人間だ
あれからどれだけ探しても一つも……
──いいや、一つはあった
けれど、あまりにもバカらしくてそれに該当させるほどのものでもなかった恥ずかしいほどの夢物語
「こんな落ちこぼれに、語る資格すらねぇよな……はは」
一人窓際の自分の席で落ち込むアマネ。
真っ当な欲が見つからず、考えれば考えるほどフラストレーションが溜まっていくような気がした
「あ、もうこんな時間か……」
一通りSHRが終わって、いつの間にか周りにいたクラスメイトはほとんど帰っていた
アマネもそれにやっと気づき重い足取りで寮への帰路についたのだった
◆◆◆
「夢……夢……」
夕暮れの中、考え事をしながら歩いていると、ふと目の前には先日の廃都が柵越しにあった
「あ……こんなとこまで来てたのか、ぼーっとしてた」
自分の落ち込みように呆れてアマネはため息をつく。
踵を返そうと振り返った。
しかしその瞬間、ふと地面が揺れている気がした
「ん?な、なんだ!?」
小さな違和感はすぐに大きくなって地下の揺れへと転換される。
立つのも難しいほどに揺れ
背後にある廃墟が──激しく爆発した
「っ……はぁっ!?」
爆発の余波がアマネを襲う。
あまりに近かったため風圧でアマネは少し吹き飛ばされる。
何が起こったのかわからないが、それでもアマネは身の危険を感じて爆心地を凝視した
煙が晴れ、やっとなにかが見えてくる。
それは大きな、黒い黒い塊で──なにかの生き物。
ツノの生えた猪のようなそれはまさに──
「悪魔……!?」
廃墟から建物を破壊し、飛び出してきたそのモンスターは不快な声で叫び、街中にその雄叫びを響かせた。
恐怖と混乱がアマネを包み込む。
今にも振り返って逃げ出したい気持ちに一瞬にして支配された
しかし、その逃避欲求という引力はすぐに弱まった
「ぐすっ……ひっ、う、うぁぁぁん……!」
少し遠くの壊された建物。
吹き飛んだ廃墟の残骸で壊れた家の中。
そこには親の見当たらない小さな子供が足を怪我して動けなくなっていた
──助けなきゃ
反射的に、アマネは思考の支配を逃れてその意思が頭に現れる
しかし、現実はまるで嘲笑うようにその思考を覚ましていく
──でも、俺に何ができるんだ?
天使も、いない……戦う力なんか、何ひとつ……
「きゃぁぁぁぁっ!!」
「誰かっ!早く契約者を呼んでくれ!!!」
「早く逃げろ!!ここは俺が──」
猪のような悪魔は、その子供のいる方向になにかを溜め始める。
口からは紫の光が輝き出し、明確に身体が危険信号を出していた
だれか、助けろよ……俺より、よっぽど強いだろ?
だれか、だれか天使を持ってる人くらい──
そこで思考は一つの事実を思い出す。
ここは廃都の前だ。
この廃都は天使が嫌い、契約者も入ることはできない毒ガスの充満したようなエリアだった
「──っ」
だれか、じゃないだろ
唯一、どうでもいい命だろ
せめてなにかして死ななきゃ、なにか変えなきゃ生きてても死んでるようなものだろ……!
動け。何もしないまま死ぬな
出来損ないの生きている意味のない俺が、唯一なにかできるなら、何か成せるなら──!
「うおぁぁぁあああぁぁぁっ!!!」
余波によって怪我をした足など気にせず、アマネは走り出す
途中転んでも手をボロボロにして走った
狭窄した、考える余裕のない頭で、それでも自分のために、「欲」を持ったのだ
──きっと運命とは、こういうものを言うのだろう
「──欲は、なんですか?」
「──助けたい」
「それだけ?」
「いや……1番の……助けられる人──セフィロトの樹に、入りたい……!!」
声は、脳に響いて
願いは届いた
アマネの手が、子供に触れた瞬間、悪魔の攻撃が放たれる。
紫色に染まる視界で、子供を抱きしめ次の瞬間に来る痛み、死、ぐちゃぐちゃの思考の諸々を噛み締める準備をした
しかし、その痛みはアマネに届くことはなかった
「──良い欲じゃないですか」
「……セラ、ノア……」
「いいでしょう。手を」
黒い、なにかが攻撃を防ぎ、セラノアはアマネに手を差し伸べる。
それに応えるようにアマネは傷だらけの手を差し出すと、セラノアはその血を、手の甲へ口づけるように受け取った。
「──セラノアです。よろしくお願いします」
「──あぁ……!」
「私は、なにをすればいいですか?」
「──あいつを、倒してくれ!!」
瞬間、黒い何かは消え失せ、背後の悪魔が視界に映る。
ビームを打ち切った悪魔は、口から煙を吐いてこちらを向いていた
「一度だけです。────。〈墜落紅〉」
一言、何か聞こえない言葉を呟いた後、セラノアは人差し指を空に向け、すぐにそれを下に向けた。
瞬間──悪魔の首は消え、断面は焼け焦げ消失していた




