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私の『使い魔』はビーバー!  作者: ルーシャオ


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第五話 次の課題は——『緑地化』!

 五月、私は教室にもすっかり馴染んで、四年生の勉強にも何とかついていけていた。


 いつもなら、新しい学年になって習うことにとまどってしまう私だけど、ナゴミのおかげだ。『使い魔』の本来の役割、子どもの学習支援で、勉強が分からなくなっても、学校でも家でもいつでもチャットでナゴミに相談できるからだ。


『わり算の筆算が上手くいかないんだ。なんでだろ?』

『あ〜、これはアレっすねぇ。次のケタのことは、次の計算に任せるっすよ』

『まるで、明日のことは明日の自分に任せる、みたいなこと話だね』

『もういっそ、次のケタはプリントとかで隠しとくっす。そしたら集中できるっすよ!』

『わあ、そんな方法あるんだ。ありがとう、ナゴミ!』

『計算が上手くなるには、とにかく数をこなすことっす! でもダラダラやってもダルいんで、キレッキレでやるんすよ!』

『えっと、どういう意味?』

『頭が疲れたら休憩するに限るっす。シュバっとやってダルっと休むのが肝心っすよ。人生は長いんすから』

『ビーバーなのに、人生を語れるんだ……』


 そんな調子で、ナゴミに勉強を見てもらうことが習慣になった。宿題の内容もちゃんとナゴミが教えてくれる、その代わり「この働き、サツマイモ級じゃないっすかねぇ〜?」とチラ見してくる。


 どうやらナゴミは、私のために活躍すればサツマイモをもらえるのでは、と考えているらしい。


 しかし、私はナゴミのために心を鬼にして、ナゴミにはキャベツをあげる。文句を言わず、虚無顔(きょむがお)でキャベツを食べるナゴミは、とてもいじらしい。


 四月のVR学習から半月が過ぎた月曜日の朝。週初めのスクールポイント配布タイムが来た。


 一週間に一度、各教科の授業での、授業態度やテストの点数に応じてSPが配布される。VR学習で獲得したSPは計算の都合で一週間くらい遅れるらしくて、ようやく今週、SPがもらえるのだ。


 そうして先週分と四月のVR学習分で獲得したSPは———なんと、25SPだ。そのうち一番多かったのはやっぱりVR学習の分で、課題クリアと『大変よくできました』評価を足して、15SPだ。


 私はホクホクして、一時間目終わりの休み時間に、ナゴミと一緒に売店へ向かう。


「ご主人! サツマイモ買ってくれっす!」

「一つだけだよ」

「ムームー! 待遇改善を要求するっす!」


 本物のビーバーは「ムームー」と甲高い声で鳴く。YouTubeの動画で見たビーバーたちは、大人も子どもも「ムームー」とたくさんしゃべっていた。


 ただ、ナゴミはその真似をしているけど、AI音声が再現しきれていなくて、普通の「ムームー」だ。


 今日も大盛況の売店の列にならび、サツマイモをもらえなくてすねてるナゴミをなだめていたら、すぐに私の番が来た。


「あれ? 売店、今日はお姉さんじゃないんだ」

「いらっしゃい。大丈夫、先生は臨時で店番してるだけだからさ」


 売店の店員をしているのは、パソコンを使うIT学習の授業を担当している寧々ねねか先生だ。アンティークの丸メガネをつけた男性の先生で、よくズボンの裾をまくって裸足にサンダル姿で歩いている。


 いつもいる売店のお姉さんは、何か用事があったのだろうか。


 ともかく、私は寧々家先生へ注文する。ホログラムで浮かぶ商品リストからおやつを選択していると、奇妙なアイテムが増えていた。


「おやつください。あとは……『超!AIコピーカプセル』に、『マッハ!建築ブースター』? 前はこんなのなかったのに」

「ああそれ、先生が作った試作品だよ。普通に売ってる『AIコピーカプセル』や『建築ブースター』の強化版でね。効果はバツグン、VR学習の課題クリアに大貢献! ただし、ちょっとだけリスクもある。まあ、ちょっとだけだよ、多分」


 何だか、うさんくさい。美味しい話には罠がある、そんな気がする。


 そんな中、ナゴミは別のアイテムを見つけていた。


「ご主人、装飾アイテムに『ヘルメット』があるっす。建築は安全第一っすね」

「わあ、これナゴミが被ったらきっと似合うね。先生、これください」

「はいよ、毎度あり。試作品は?」

「き、今日はいいです」

「残念。買いたかったら、また先生のいるときにどうぞ〜」


 ずいぶん寧々家先生は売りこみが強い。ナゴミのおかげで変なものを買わずに済んだけど、少しの間は売店に行かないほうがよさそうだ。


 教室に帰る途中、ナゴミに『ヘルメット』を装備させると、「気分が上がるっすー!」と喜んでいた。サツマイモのことはすっかり忘れてくれたようだった。






 放課後前、桃名先生からこんなお知らせがあった。


「はい、明日のVR学習での課題について、先に予告しておきます。ちょっと難しくなるから、事前に準備するのもありです」


 教室がざわめく。明日はみんなが待ちに待ったVR学習の時間だ。


 普段の授業とちょっと違う授業はテンションが上がるのもあるけど、シンのようにゲームをやっているようで楽しい、と男子ははしゃいでいる。もちろん、女子も自分の『使い魔』におしゃれアイテムをつけて一緒に授業を受けられるから人気がある。


「明日の課題は、『緑地化』。全部の班が同じVR空間のステージに入って、班ごとに指定された区画を植物で埋め尽くすこと。どんな植物でもいいよ、ステージの指定された区画が緑一面になればいい。そして、同じステージにいるから他の班の様子も分かるし、何なら班同士で協力してもいい。そのあたりはみんなにお任せするよ」

「協力プレイしていいんだ!」

「そういえば売店で『植物の種セット』売ってたよね」

「後で買いに行こ!」

「ただし、他班を邪魔したら減点です。多少、指定された区画から出るのはかまわないけど、わざとそういうことはしないように」

「はーい」


 教室のみんなが一斉に返事をする。


 私は何となく、前の課題のときに誰かから言われた『ズル』という言葉を思い出して、少し嫌な気分になっていた。


 別に誰かの邪魔をしたわけじゃないし、誓ってズルなんてしていないけど、私たち七班のやったことがそういうふうに見えた人がいた、ということだ。 


(分かってる、そう言われたってどうしようもないって。私たちはズルなんてしてないし、誰の邪魔もしないんだから、気にせず堂々としてなきゃ)


 そう心に決めて、私は七班のみんなが集まる、教室の一番後ろにあるシンの机のところに向かった。


 シンと、すでにエル、メンちゃんを被ったココアもいて【ウォッチ】で『緑地化』についてインターネット検索をしていた。


「『緑地化』、かぁ〜。ねえエルちゃん、植物を増やすって、どうやるの?」

「私に聞いても、アサガオくらいしか育てたことないから分かんないし……どうしよう、カナデ」

「ならまず、植物の種を植える、っていうのはいいとして、VR空間は放っておいても育つのかな?」

「無理じゃない? ちゃんとお世話しないとダメだと思う」


 うーん、と四人で頭を悩ませる。


 『緑地化』と言われても、みんな上手くイメージが湧かないでいた。一年生のときに育てたアサガオがステージにたくさん増やせれば、確かに植物で覆われて緑色にはなるけど、それが本当に『緑地化』ということなんだろうか。


 それはそうと、ココアはマイペースにナゴミへ話しかけていた。


「ナゴミちゃん、ヘルメット被っててココアとお揃いだね」

「お揃いっす! ご主人が買ってくれたっす!」

「売店で『使い魔』用のアイテム、色々売ってるんだな。俺も後で行ってみよう」

「メンちゃんは装備できるおしゃれアイテムなくって、色を変えるのは最初からできるんだけどね〜」


 ココアはちょっとしょんぼりしていた。メンダコのおしゃれアイテム、これもまた私はイメージが湧かない。 


 そんなとき、ナゴミが重大発言をした。


「ところでご主人、ビーバーは『緑地化』できるっすよ」

「え!? そうなの?」

「ビーバーがダムを作ると、水がたっぷり蓄えられて、流れてきた種から植物は勝手にたくさん増えるし、それを目当てに動物も集まるっす。そしたらいい環境になるっす!」


 えへん、とナゴミはいいこと言ったとばかりに、短い両腕を組んでいた。


 緑、つまり植物がそこにあればいいだけなら、よそから持ってきて植えればいい。


 でも、『緑地化』って本当にそんな意味だけしかないんだろうか?


 そうじゃなく、植物を植えて、日光と水と土があって増えていって、動物も集まって、そのフンに種や栄養が含まれていてまた植物は増えていく……という巡りめぐっての自然の循環を作ること。


 それが本当の『緑地化』なんじゃないか、と気付かされる。


 ナゴミの発言に、なるほど、と私は感心した。


「そっか。『緑地化』って植物を植えたらそれでおしまい、じゃなくて、育って増えて、ずっと続いていく必要があるんだね」

「増えすぎてもダメだもんね」

「何のためにそうするか、ってことだね〜」

「いきなりココアが真面目な話してる!?」

「メンダコ被ってじゃなきゃ格好ついたんだけどなぁ」


 メンちゃんはともかく、ココアの言っている「何のためにそうするか」という着眼点は鋭い。


「『緑地化』って、何のためにするんだろう?」


 私がふと疑問に思ったその言葉を、エルが受け止めた。


「やっぱり、植物がたくさんあって、自然の環境を守ることがいい……みたいな環境とかエコの話って多いけど、じゃあ何でそれがいいの? って言われたらよく分かんなかったりするし、そういえばそうだよね」

「難しいけど、知らない、分かんないことって、意外と分かんないもんなんだな」

「目からウロコだよね〜」


 何だか、シンの言うとおり、難しい話になってきた。


 そういうときは、一旦最初のところに立ち返るといい、と聞いたことがある。分かんないまま考えたって分かんないからだ。


「じゃあさ、『緑地化』は……たとえば、ビーバーのナゴミが食べたい草と木を増やす、みたいな、食べ物を増やすって目的があれば、分かりやすくない?」

「おお〜、ご主人、いいこと言うっす! ビーバーによる、ビーバーのための、ビーバーパラダイスを作るってことっすね!」

「ビーバーだけじゃなくて、メジロの好きな花も増やしてよ。梅や桜がいいな、香りも見た目もいいし!」

「シンくんのハムスター用に、ヒマワリ畑とかもいいんじゃない〜? たくさん植えようよ」


 ビーバーパラダイスはともかく、ちょっとしたきっかけがあると、みんなからどんどんアイデアが湧いてきた。


 今なら、『緑地化』は何のために、と言われたら、食べ物を増やすため、と答えられる。大きな進歩だ。


 シンがそれにちょっと付け加える。


「なるほどな。ここにいる『使い魔』はココアのメンちゃん以外は基本草食だし、みんなにとって住みやすい理想の環境を作ればいいんだな」

「そういうことっす!」

「よし。まずは、どんなのがいいか調べてみよう!」


 おー、と全員が勢いよく声を上げる。


 放課後のギリギリの時間までみんなで一緒に考えたり、検索したりして、あとはエルとシンが図書館の動物図鑑や植物図鑑を見に、寄って帰ることになった。


 ココアは習い事があって早めに帰ったし、私もひとまず、まっすぐ帰ることにした。


 みんな、やる気満々で、これなら今回の課題もクリアできそうだ。

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