第四話 できたよ! ノイシュヴァンシュタイン城!
宙に浮かんだ制限時間の残りが【00:10:58】になったころ。
私たち四人は口が開いていることに気づかないほど、呆気に取られて山の頂上を見上げていた。
山を降りてきたナゴミが、ふう、と満足のため息をつく。
「できたっすよ、ご主人! これがご主人の選んだ——」
ナゴミの小さなお手手の差す先には、バーン、と特大の効果音とともに出てきてもおかしくない、山頂にそびえる立派な白亜のお城。
大昔の偉い人がロマンを夢見て建てた、とびきりこだわりの美しいお城がVR空間にしっかりと再現されていた。
「『ノイシュヴァンシュタイン城』、っす!」
最初にお城を見た感想をつぶやいたのは、シンだ。
「何これすげぇ」
メンちゃんを被ったココアは、目を輝かせている。
「おお〜、お城だ! お姫様いそう〜」
エルは興奮して、現実の『ノイシュヴァンシュタイン城』について語る。
「どこかで聞いたと思ったら、これ、実際に眠れる森の美女のアニメ映画に出てくるお城のモデルよ! お姫様どころか猛獣の王子様もいるのよ、きっと!」
そこはすかさずナゴミが、頭を横にフルフルと振った。
「お姫様はいないっす、ナマモノは建築対象外っす。それよりいかがっすか、ご主人」
ナゴミは期待の目で私を見上げていたので、私はしゃがんで、目線を合わせた。
私は、ナゴミの目の前で親指を上げる。こんなに素敵なお城を作ってくれたのなら、褒めないわけにはいかない。
「すごい、すごいよ、ナゴミ! ごほうびにサツマイモあげるね!」
「うひょー!」
サツマイモにかぶりつくナゴミだけじゃなく、ハムスターたちはクルミを、メジロたちはマンゴーを、メンダコのメンちゃんは——たぶん、おやつの謎の粉をもらっていた。とにかく、私たち四人も、『使い魔』のみんなも、力を合わせてがんばったんだから、これなら課題をクリアしたはずだ。
空中に浮かぶ制限時間が【00:00:00】となり、桃名先生が課題終了を知らせる。
「おつかれさま、これで今日の課題は終了です。VRゴーグルを外して、そのまま座って待ってね」
私たちは、VRゴーグルに手をかけて外そうとする。
初めての課題が終わって、一生懸命働いてくれた『使い魔』のみんなが、バイバイと手を振っていた。
名残惜しいけど、教室に戻ると、黒板の前に七つのホログラム画像が並んでいた。
それぞれ番号が振ってあって、各班が課題で作ったものを映しているみたいで、他の班はレンガのお家や信号付きの交差点、土台までの作りかけのスカイツリーっぽい電波塔なんかがある。私たち七班の画像はもちろん、あの『ノイシュヴァンシュタイン城』だ。
「はい、みんなの班が作ったもの、どれも課題クリアだよ。先生は各班の作ったものをずっと見回ってたけど」
桃名先生は、ゆかいそうに、私たち七班の画像を指差した。
「一番すごいの作ったのは、七班です。なんと、外国のお城。これはもう文句なしだね」
教室中から、ワッと歓声が上がる。
真っ白な山頂のお城に、注目が集まった。
「えー、マジかよ! これ作ったの!?」
「スッゲー!」
「こんなことできるんだ!」
現実のホログラムに戻ってきたナゴミが、私の足元で自慢げに腕を組んでいた。
そのあと、しばらく私たち七班の四人はクラスメイトのみんなに囲まれて、VR空間の課題の話でもちきりだった。
放課後になってもあちこちで課題の話は続き、【ウォッチ】で七班の画像を映してはしゃぐ子たちもいる。特に、ナゴミは一番の人気者になって、「あれはこうするんす」、「自分たち『使い魔』の力っす!」なんてみんなにいろいろアドバイスをしていたくらいだ。
ただ、ふとどこかから、こんな声も聞こえてきた。
「何だよ、そんなのズルだろ」
私は、声のしたほうへと振り返る。
でも、まわりのおしゃべりにまぎれてしまって、誰が言ったのかは分からなかった。
(……気のせい、だよね。だって、ズルなんかじゃないもん。ナゴミががんばってくれたおかげだし、ズルなんておかしいよ)
ちょっとモヤモヤしたけど、気を取り直して、私はランドセルを背負い、クラスメイトにもみくちゃにされていたナゴミのところへ向かった。
家に帰ってから、私はビーバーについてインターネットや図鑑で調べてみた。ナゴミのことをもっと知りたい、と思ったからだ。
そんな中、ビーバーを飼育している動物園のブログで、こんなふうなことを書いていた。
『ビーバーは甘いサツマイモが大好きですが、元々野生で食べていたものではありません。動物園としてはビーバーの健康のことを考え、サツマイモをあまりあげないようにして、樹木やペレット、それに少なめの葉物野菜をあげることにしています』
それを知って、私はショックを受けた。
(ナゴミの健康のためには、サツマイモはあんまりあげちゃいけないんだ。AIだけど、やっぱりよくないよね)
もっとよく調べてみると、サツマイモは糖分が多いから、ビーバーは上手く消化できないことがある、という情報に辿り着いた私は、決心した。
次の日、私は売店に行って、ナゴミにあげるおやつのキャベツを買ってきた。
「ナゴミ、ビーバーには糖分が多いサツマイモをあんまりあげちゃいけないんだって。だから、おやつは今日からキャベツね」
はい、とキャベツを渡すと、ナゴミは大きな口を開けてものすごく悲しそうにしていた。我慢、我慢だよ、ナゴミ。ナゴミのためなんだから。そう思って、私はナゴミから目をそらす。
しばらくの間、ナゴミはキャベツ片手に、教室の床にあおむけに寝そべっていじけていた。
「かー、キャベツっすかー。キャベツキャベツ、日がな一日キャベツっすよー」
「すねちゃって酔っ払いのおじさんみたいなことに」
かわいそうだけど、これもナゴミのため。
それに、ゴロゴロ寝転がっている姿も、何だかんだでかわいいのだ。
……でも、ごほうびには、サツマイモをあげてもいいよね。
そのときまで、サツマイモは【ウォッチ】にしまっておくことにした。
こうして、初めてのVR学習の時間は大成功に終わったのだった。




