第三話 作るよ! 城の土台!
画像をキャッチしたナゴミは、渡したお城の画像を細目で眺め、ふむふむ、と吟味してから、大きくうなずいた。
「おおー、デカくていいっすね〜。そんじゃ、材料については見積もり出すんで、調達はハムスターズとメジロズにお任せするっす」
(そういう方式なんだ)
言うが早いか、ナゴミはどこからかホログラムの紙とペンを取り出し、何かを書き込んでハムスターたちとメジロたちへ、またしてもシュバっと投げ渡した。
キャッチしたハムスターたちは、空飛ぶメジロたちとともに、一目散にどこかへ駆け出していく。
そして、ナゴミはナゴミで、どこからかホログラムの丸太を出してきた。
「んで、自分は今から建築モードっす! うおー!」
勢いよく、ナゴミは丸太をかじる。
かじって、かじって、足元に木クズが落ちて、丸太はけずられて……それだけだ。
「ガジガジ、ガジガジ」
「……それ、建築モード?」
「そうっすよ。ガジガジ、ガジガジ」
「建築モード、大丈夫かな」
「大丈夫だよ。これ、VR空間では実際に建築をするんじゃなくて、コンピュータで内部処理をしてる感じだから。ゲームでも、データロード中の表示あるじゃん? あれだよ」
「そ、そうなんだ。詳しいね、シンくん」
「まあね」
とにかく、ナゴミたちは一生懸命作業をしているのだ。うん、不安になるのはよくない。ナゴミを信じよう。
「エル、【ウォッチ】でメジロの現在地とステータスが確認できるよ。もし何かあったら連絡が来るみたいだ」
「えっ、そうなの? 分かった、見とく」
「『使い魔』たちにお任せでいいと思うけど、念のためな。ハムスターたちも同じなんだよ」
「そうなんだ、群れモードができる『使い魔』だから?」
「多分そうだね」
シンはVR空間の動作に慣れているようで、私やエルに基本的なやり方を教えてくれた。
ココアも呼ぼう、と思って私が振り返ると、ココアはどこか遠い空をじっと見つめていた。
どうしたのだろう。私は、声をかけてみる。
「ココアちゃん、どうしたの?」
「んーん、なんでもない。まだ、なんにも」
要領を得ない返事だったけど、ひとまずココアは私たちのところへと戻ってきた。
ただ、メンちゃんはいつの間にかどこかへ行ってしまったようで、ココアの頭には乗っていなかった。
そして、作業開始から約一時間後。
広々とした草原に、小高い山ができていた。
登るのはちょっとしたピクニックになりそうなくらいの高さで、森がしげっている一方で岩山のような険しさもある。そんな山だ。
そこの頂上にいるナゴミが、麓にいる私たちへこう叫んだ。
「ふう、土台はできたっす! 本番はここからっすよー!」
土台というのは、つまりお城が建つ場所のことだ。
私は、ナゴミにわたした画像をもう一度見直す。
高い木々に囲まれた、山の頂上に建てられた白い外国のお城。
いくつもの塔があって、屋根は青く、おとぎ話のお姫様が住んでいるような、そんなロマンチックなものだ。
ナゴミは草原から山へと環境を作り変え、そして今、お城を建てている。
「……ビーバーって、すごいね」
私からは見えないけど、きっと山の頂上でもナゴミはホログラムの丸太をガジガジしているはずだ。
せわしなく、シンのハムスターたちが車くらい大きなブロックを背中に乗せて帰ってきた。何十匹もが力を合わせて、材料の入ったブロックをひとつひとつ山へと運んでいく。
「シンくん、ハムスターってこんなに力持ちだったっけ!?」
「落ち着けって。現実ではビーバーだって山を作ったりしないだろ」
「そ、そうだけどさ」
「VR空間では、現実にはできないようなこともできるんだ。いろいろ制限はあるけど、ハムスターならほおぶくろにモノを入れて運んだり集めたりする特技があるから、VR空間ではどんなものも群れで運べるようになったり、って感じでさ」
「現実由来の特技があれば、VR空間ではもっとすごくなる、ってこと?」
「うん、そうだよ。VR学習の教科書に書いてあった」
「……そういえば、まだ読んでなかった!」
教科書は授業中しか開かない、そんなズボラな私に、シンは苦笑いをしていた。
ただし、それはエルも同じだった。
「シンくんって暇なの? それとも真面目? 教科書先取りして読むとかありえないし」
「VR学習は面白そうだから、説明書だと思って読んでただけだって!」
「まあまあ、おかげで助かったんだからいいじゃん」
「それもそっか。ありがとう、優等生のシンくん」
「だーかーらー!」
こんな調子で、エルはよくシンをからかって遊んでいる。
エルのメジロたちは、ハムスターたちに材料集めの場所を教えたあと、このVR空間の地図データを作ってくれていた。これでどこに何があるか【ウォッチ】を使えば私たちにも分かるし、ナゴミが作った小高い山がどれだけ大きいかも一目瞭然だ。
(意外とVR空間のステージ自体はそんなに大きくないんだね。というか、ナゴミが作った山が大きすぎなのかも)
VR空間ステージの約半分を占める山を一時間で作り、さらにその上にお城を建てる、なんてとんでもない作業量とスピードだ。
それでも、残り制限時間は、もう一時間を切っている。宙に浮かんだ制限時間は、あと【00:34:30】となっていた。
本当に制限時間内に間に合うだろうか、と少し不安になってきた矢先、ココアの声がした。
「おーい、みんな〜」
一体どこから、と声のしたほうへ振り向くと、ココアが走ってきていた。
「どうしたの、ココアちゃん……って、その腕の中のモノは?」
ココアが両腕で抱えて持ってきたモノ、それは売店にあったアイテムたちだ。紙袋からはみ出るくらい入っている。
「さっき休み時間だったから、売店行ってきた」
「あ、チャイムが鳴ってたんだ。気付かなかった」
「それでね、これ使って。カナデちゃんにばっかりサツマイモ使わせてるから、私からプレゼント」
そう言って、ココアは紙袋を私へ差し出した。
思わず受け取ると、中身は自動的に【ウォッチ】へダウンロードされ、アイテムリストが出てくる。
それを読んで、私はとても驚いた。
「作業効率アップの『集中ゴーグル』、材料追加の『石材パック』、それにおやつの『キャベツ袋』まで!」
「さっきメンちゃんがVR空間の隠しエリア見つけたから、先生にSPもらったんだ〜。それで買ってきたから遠慮しなくていいよ。みんなのもの、ってことで」
なんと、ココアとメンちゃんは、作業には加わらず隠しエリアを発見していた。しかも、このリストのアイテム量から見るに、大量のSPまで獲得している。
メンダコゆえに作業を手伝えないのはしょうがない、と思っていたら、別の手段で課題クリアを手伝う方法があるなんて、本当にメン食らった気分だ。
えへん、とちょっと胸を張るココアに、私と同じく面食らったシンは、ちょっと違う視点から驚いていた。
「隠しエリア!? そんなのあったのか! おれも見つけたかった!」
「シンくん、これゲームじゃないからね? 分かってる?」
「わ、分かってるよ」
そうエルに釘を刺され、隠しエリアにはしゃいでいたシンはあわてて誤魔化していた。ゲームっぽいもんね、隠しエリア。見つけに行きたいよね。
それはそうと、私はココアにもらったアイテムを、リストからスワイプしてナゴミへ転送する。
「ナゴミ! これ使ってー!」
私の【ウォッチ】にある『アイテム転送中』の表示が、『転送完了』になる。
山の頂上から「うおー!」というやる気に満ちあふれたナゴミの声が聞こえた気がした。




